ちょ!?勇者ってよくね!?
勇者って事は俺が呼ばれているってことだよな。「勇者はいるか!?」って言った人は高そうな鎧まとってる。その姿はまるで騎士みたいだ。俺何かしたっけな?
「勇者って言えば・・・」
「あいつの事か?」
「あぁ。あのホモの事か」
まって。なんか俺変な名前付けられてない?勇者はこの際許すとしてホモはマジで止めてくれ。あれは誤解なんだから!
「ジュン。お前呼ばれてるぞ」
「そうですよ。あれはうちの街の領主様の所の騎士ですよ?」
「・・・マジかよ。」
予想通り騎士だったみたいだ。その騎士様が俺に何の用だろう。俺はじーっとそのごつくて強そうな騎士を見つめた。
「貴方が勇者様で間違いないでしょうか」
そう言って騎士がこっちに近づいてくる。多分身長2mくらいあるのだろうか。見上げないといけない。
「い、一応そうですが」
「失礼ですがギルドカードを拝見しても?」
俺は無言で渡した。出来れば能力値を見ないで!と心の中で念じながら。
俺のギルドカードを見た騎士は一瞬不審な顔をしたがすぐ元の顔に戻る。多分能力値見られたんだろうなぁ。
「勇者様、ギルドカードの拝見ありがとうございました。我が主の屋敷まで同行をお願いできますか」
能力値の事に関しては何も言われなかった。凄く礼儀正しいんだな。勝手なイメージなんだがもっとこう・・・。騎士って言うのは荒れたものだと思っていた。まあ俺が読んでた漫画とかの知識で語るものじゃないか。
「はい・・・。分かりました」
俺はギルとエアの方を見る。それは付いて来て欲しいと願いを込めて。こんな知らない街の領主にあってもどうすればいいのか分からない。・・・彼らが来てもどうこうなるとは思えないけど一人じゃ不安なのだ。
「おうジュン行って来い!」
「そうですよ。僕らに気を使わなくてもいいですよ。」
いや違うの。行ってもいいかって表情じゃなくて付いて来てって表情だったの。てか俺が気を使ってるわけじゃないの。むしろ俺に気を使ってくれ。頼むから付いて来てくれ。
俺は昨日あんなにこのパーティーを抜け出したいとか言っていたのに。
いざとなればこれだ。少し自分に嫌気が差す。
「ではこちらへ」
そう言って騎士は俺に先頭を促す。いや、俺領主までの道分からないのだが。まだこの街に来て1日しかたっていないのんだけど。まぁいいか。何とでもなれ。
俺はそう思ってギルドを出た。そのにあったのは煌びやかな装飾をほどかされた馬車だ。・・・そりゃ馬車とかあるわな。
「勇者様。どうぞ」
騎士はギルドを出た瞬間に先回りして馬車の扉を開けてくれる。こいつ・・・できる!そんなことを考えながら俺は馬車に乗り込んだ。
馬車の中は俺一人なのかと思っていたがそんなことはなく、少女がいた。その少女は大きな帽子を深く被っている。彼女は俺らが鬼ごっこをしていたゴブリン達をオーバーキルしていたあの少女だ。忘れる訳がない。
馬車は出発し俺とこの少女の二人きりになる。
「君って俺らを助けてくれた人だよね?」
何も喋らずに二人きりの空間は少しつらい。音楽でもあれば少しはましだろうが、もちろんそんなものはない。ちなみにさっきの騎士は馬を操ってくれている。
「・・・そう」
少女は今にも消えそうなか細い声で返事してくれた。そして帽子を先よりも深く被った。まるで顔を見られたくないかのような雰囲気を感じる。
「やっぱりか。あの時はありがとうな。多分あのままじゃ俺らは死んでいた」
そう俺ははははと笑った。少女は軽く首をコクッとしただけ。会話はここで終わる。言うまでもなく物凄く気まずい。速くその領主様のお宅についてくれ。心からそう願った。
「そういえば領主ってどんな人何だ?」
俺は無駄と分かっていながらも聞かずにはいられなかった。だって物凄く暇だもの。まぁ、無視されるんだろうな。そう思っていた。しかし、それは違った。
「・・・りょ、領主様は絶対。領主様の命令は絶対。わ、私は領主様の道具。さ、逆らってはいけない。領主様は絶対・・・」
突然壊れたかのようにポツポツと言い始めたこの少女に、背中がゾクッとする。この少女の異様な雰囲気に俺は呆然と眺めるしかできなかった。
「・・・領主様は。領主様は絶対・・・」
彼女がそれを言い終わったのは屋敷に着く直前だ。それまでずっと言い続けていた。本当に怖かった。どうしていいのか分からなくて窓から外の景色を見ていた。むしろそれしか出来なかった。
「勇者様。着きました」
騎士が馬車の扉を開けてくれる。俺は一度少女の方を見た。彼女の服は少し雫が落ちた跡がある。そして座ったままで動こうとはしなかった。なので俺は彼女をほっておいて一人で馬車を出る。
そして目の前にある屋敷は物凄く大きかった。まず真っ白で大きな塀。それを潜り抜けると大きな庭が見えた。真ん中に噴水があり、地面は全部煉瓦で作られている。凄く立派だった。
「どうですか。勇者様。これが我が主の自慢の庭で御座います」
なるほど。自慢するだけはある。日本でこんなのあったら観光名所にはなりそうだ。
「確かに・・・。凄いね・・・」
その俺の言葉に満足したのだろうか。騎士がにっこり嬉しそうにする。
「こちらへ。」
そのまま俺は屋敷の中に入っていった。
そしてグルグルと屋敷の中を歩いて行って領主の元に着いた。何でこんな迷路みたいな構造なの?と質問したら他の貴族が攻めてきた時にこっちの方が便利なんです。そう答えてくれた。急いでいる時とかは不便そうだけどいいのかな。まぁ、俺に教えていないだけで隠し通路とかあるんだろうな。
「グラード様。勇者様をお連れしました」
「おぉ!ご苦労」
そのグラードと呼ばれた男は豪華な服を来ていた。そしていちいち動作が大袈裟だ。例えば今騎士に呼ばれたとき、無駄にマントをバサァッ!となびかせてる。見てて少し不愉快に思った。
「うちの領土で勇者が現れたときは耳を疑ったが事実なのか・・・。おい、ガルド。勇者って言うのは本当なんだろうな?」
「えぇ。私はこの目で彼のギルドカードを確認しました。彼は正真正銘の勇者で御座います」
「・・・そうか。そうか」
俺めっちゃ疑われてるじゃん。そりゃそうか。今の身なりは学生服だけ。しかも少し痛んでるし。この姿をみて勇者と信じとと言われても無理か。俺自身、自分が本当に勇者か不安だし。
「勇者よ。知っているかと思うが一応自己紹介を。私はこの街の領主!グラード・グレンだ!これからよろしく頼む!」
いら、知らねーよ。そう突っ込みたかったがここはそんな雰囲気ではない。さいですか。みたいな顔をしておく。
「これであの忌まわしき魔女を処分できる・・・。やっと私にも運が付いてきたか。・・・勇者よ!ここまで疲れただろう。この屋敷でゆっくりとするが良い」
そうグラードは言って使用人を呼ぶ。
「彼を客間に案内しろ」
「かしこまりました」
そのまま使用人に案内されて客間に移動する。そこは大きな部屋だ。そして見るからに柔らかそうなベッドがあり、ベランダもあり、洋服入れ、テーブルにイス、といろいろある。生活に不自由しなさそうだ。
「ここが勇者様のお部屋でごさいます。グラード様の伝言でここを自由にしてもよい。との事です」
おぉ・・・!凄い!勇者っていいね。こんなサービスを受けられるのか!初めてこの世界に来てよかったと思ったぜ。
「それをこのベルをお渡ししときます。私たち使用人に御用がある場合鳴らしてください」
そう言って小さなベルを貰った。試しに鳴らしてみるとチリンチリンッと心地よい音が鳴る。そして使用人の首輪が淡く光った。なるほどね。これを鳴らしたら連動して首輪が光るって訳か。
「ではごゆっくり」
そう言って彼女は去っていった。
「さて何しようかな」
まずは部屋を探索だろう。俺は大きなベッドにダイブする。・・・おぉ!すごい!ふかふかだ!しばらくポヨンポヨン弾んで遊ぶ。多分皆もこれやったことあるだろう。結構楽しい。それにしても想像以上に弾む。なんの素材を使っているのだろうか?まあいいや。
次に洋服入れを開けてみる。中は何と剣が入っていた。それに俺は興奮する。手に持ってみるとずっしりと重い。ギルみたいなあんな木にメッキしただけのおもちゃとは大違いだ。
剣を抜いてみる。すると眩しいくらいの刀身が身に入る。凄い。とても強そうだ。これ貰っていいんだろうか。俺はその剣をベルトに差して姿見で確認する。
超強そうじゃないか!?初めて木刀を持った時ってこんな感じでテンションが上がっていたなぁ。そんなことを思い出す。
それから俺は色々部屋を物色する。めぼしいものは特になさそうだ。ひとしきりあさり終わった時、ドアを叩かれる。誰だろうか?
「どうぞ~」
そう言って入ってきたのは食事をワゴンに持ってきた使用人だ。
「昼食はお取りになりますか?」
そうか。もう昼か。この世界に来てから魚しか食べていない俺は貰うことにした。
「欲しい」
「では少し失礼します」
使用人はテーブルに食事を置いていく。
「食べ終わったならベルでお呼びください。食器をかたずけに参りますので」
そう言って一礼をしてから去っていった。
取り合えず出された物を食べ、ベルを鳴らして食器を持って行ってもらった。
その後は暇なので適当に屋敷内を探索する。色々な部屋があり適当に見て回っていく。あちこちこの迷路みたいな屋敷を歩いていたら大切なことに気づいた。
———帰り道どこだ?
そう。俺は迷ってしまった。そして周りに人の気配はしない。まぁ真剣に帰り道を探して帰ってもすることなどないから進むのだけどさ。
適当に歩いていったら地下へと続く道を発見する。何か宝物とか隠してありそうな怪しい雰囲気がした。ここを進んでいいのか不安だったがせっかくここまで来たのだ。男なら行くしかない。そう思って進む。
暗い洞窟を抜けて目の前にあったのは厳重に固められた扉があった。俺の勘が言っている。ここは宝物庫だと。中を覗いてみたい気持ちがあった。でもそこまでするのは怒られそうなのでやめることにする。
「帰ろうか・・・。」
ここが終点なんだろう。ほかに道はないし。なので来た道を戻ろうとする。
———ジャラ
「え?」
後ろの扉の中からそんな金属の音がした。