表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

ぺちぺちぺちぺち

 「凄い魔法だったな」

 「確かにすごかったですよね」

 「本当にな」


 あの鬼ごっこに終止符を打ってくれた魔法を思い出す。今何をしているのかというとギルドのテーブルで反省会を開いている最中だ。

 

 「あの人うちのパーティーに入ってくれねーかなぁ」

 「ですよね。あの方が居たら僕ら寝てるだけでお金が入ってきそうですもんね」

 「おいこらニートども」


 俺も人にニートとか言えないがこれに関しては許してほしい。反射的に言葉が出てしまった。


 「はぁ・・・。俺らに何が足りなかったんだろうな」

 「本当に・・・。やっぱりやる気ですね」

 「お前らそれ本気で言ってるの!?」


 あの状況でやる気で何とか思えるとは思えない。


 「ジュン。なら他に何がいけなかったんだよ」

 「いや、まずは武器を見直そうぜ」


 何言っているのだこいつは。あんな木に鉄を軽くメッキしただけの剣で戦える訳がないだろう。


 「な!?毎日必死に働いてくれる母ちゃんの財布から盗み出した10ゴールドで買った剣だぞ!?盗んだことばれたけど!!それでもこの剣を馬鹿にするっていうのか!!」

 「安心してくれ。今の発言でお前と剣の両方馬鹿にしたから」


 大声で何言ってるのこいつ。クズじゃん。


 「何か言ってやれよ。エア」

 「そうですよ。ジュンさんの言う通り。盗むならばれないようにやらないと」

 「そんなこと言ってねーよ!?」


 もうだめだこいつら。頭に凄くデカい腫瘍を抱えているんだ。絶対そうだ。


 「で、今夜どうするんだ?飯も無ければ宿もないぞ?」

 「この中で金持っていそうな奴いるか?いねーだろ・・・」

 「ギルの言う通りです。最悪服でも売ろうかな・・・」


 そう言ってため息をつく二人。そして同時に俺の方を見る。


 「な、何だよ。」

 「ジュンのその服って珍しいよな。」

 「ええ。見たことありません。」


 そう言ってギラついた目で俺の体(正確には学生服)を見てくる二人。


 「な、なぁ。冗談だろ?俺らパーティーメンバーだろ?落ち着けって・・・。ちょ!?嫌!止めて!!犯さないで!服を脱がさないで!!!!」


 まじでヤバイ。ギルとエアがギラついた目で俺の学生服を脱がそうとしてくる。


 「何やっているんですか!!!!」


 ギルドの職員さんが大声で駆けつけてきた。

 そして職員さんが見た光景は、はぁはぁ言いながら服をはだけて横たわっている俺の姿とそれを実行したであろう二人の男の姿だった。


 「いや本当に何やっているんですかぁ!?」


 俺は弁解を求むように二人を睨んだ。そしたら彼らは察してくれたのだろうか。ギルがポツリと話し始めた。


 「自分の欲に勝てませんでした。すみません・・・」

 「僕も同じです・・・」 

 「ちょっと待てお前ら!?せめて言葉を選んでくれよ!!」


 そうだった。こいつらの頭の悪さを忘れていた。このままでは職員さんに大いなる誤解を与えているだろう。ほらその証拠も頬を凄く赤くしているし。


 「あ、あの職員さん。これは誤解で—―」

 「そういうのはほかの場所でやってください迷惑です!失礼しました!」

 「待って!?行かないで!誤解したまま行かないで!」


 俺の叫びは無残にも届かず、職員さんは戻っていくのだった。


 「ジュン。すまなかったな。俺、どうかしてたよ」

 「本当に。ごめんね。ジュン」


 謝るならあのお姉さんに誤解を解いてから謝れよ。しばくぞこら。何で昨日だけで二度の黒歴史を作らなければならんのだ。まぁ、一つ目は自業自得だけども。


 「それはそうとしてさ。本格的にどうするか考えないといけないぜ」


 そう言ってギルは外を見る。

 外はオレンジ色に染まっていた。この世界の夕焼けを始めてみたが、とても綺麗だった。


 空気が綺麗だと風景が綺麗と聞いたことがある。そのせいかな。俺はぽけーとその景色に見とれていた。・・・魔王討伐とか俺が本当にできるのだろうか。そんなことを考える。

 

 「ジュンって宿なしだよな?」


 ギアが話しかけてきた。その声のおかげで考え事からは逃れられる。


 「そうだよ」

 

 俺はこの平和な街、脳内お花畑のこいつらを見ていてとても魔王とかがいるとは思えない。


 「なら最悪俺らのところに来るか?野宿だけどいい場所があるんだ」

 「いい場所?」

 

 そう言って案内されたのは川の橋の下だった。


 「ここが俺らの宿って訳だ」

 「そうそう。案外いい場所だよここ」


 確かに橋の下なんて人は来ないだろうし寝るだけなら安全だな。


 「あれ?ギルって実家暮らしじゃないか?親の金盗んで剣買ったんでしょ?」

 「ああ。そのせいで家を追い出されたんだ」


 なるほどね。理解した。


 「ちなみにエアは何で宿なしなんだ?」

 「え~僕が小さい時にちょっとね・・・」

 「す、すまん」


 俺の本能が言っていた。これは気軽に踏み込んではいけない奴だと。おそらく涙なしでは語れない事情があるのだろう。


 「そういえばそうだな。エアは何で宿がないんだ?」

 「あ、ギルも知らないか?」


 てっきり知っているもんだと思ってた。


 「そりゃな。昨日エアと出会ったばっかだぜ?知ってるわけねーじゃん」


 なら君たち打ち解けすぎじゃない?てっきりもっと深い歴史があるのかと思ってた。


 「そうですね。えっと僕って孤児院で育てられたんですよ。いっぱい兄妹が居て。で、僕は一切働かなかったんですよ」

 「ほう。それで」

 「おい馬鹿。それでじゃねーよ」


 今ので理由分かっただろうが。こいつは働かなかったから追い出されたんだよ。


 「それで追い出られてしまいました」

 

 てへへっと笑う糞ニートのエア。それに可哀そうな奴と同情するダメ人間ギル。

 俺は覚悟を決めた。明日はこのパーティーから抜けようと。こいつらなら勝手にたくましく生きていくだろ。そんな気がする。


 「なぁ。そんな暗い話は置いておいてそろそろ腹減らね?」

 

 そうだな。君たちのお先が真っ暗って話だな。


 「そうですね。そろそろ準備をしましょうか」


 そう言ってギルとエアが立ち上がる。そして服を脱ぎ始めた。


 「な、何するんだ!?」


 夜は冷える。実際今の学生服だけじゃ、クシャミをしそうなくらいには冷えていた。

 そんな中で全裸になったギルとエア。


 「決まっているだろう。漁だよ漁」


 ギルは後ろの川を指さした。




 「ほら!ジュンもっと足をばたつかせて!!」

 「うぉぉぉぉおお!!」

 「遅いぞジュン!もっと速く!!」

 「うおおおおおお!!」


 今何をやっているのかというとギルとエアが服を持って下流にスタンバイする。それを俺が上流から必死に足をばたつかせながらギル達の方に向かう。もちろん服を濡らしたくないので全裸だ。


 「気合を入れろ!!!」

 「うおおおおお!!!」

 「ママーあれなにしてるのー?」

 「こら!見ちゃいけません!!」


 本当に俺は何をしているんだろうか。全裸で必死にバチャバチャしながら全裸のギル達に向かっていく俺の姿。橋の上の親子に見られてしまった。ギル達はそんなこと気にしている様子はない。

 彼らは将来、きっと大物になるだろう。


 「よし!大量だ!!」

 「ですね。昨日僕とギルでやたら取りこぼし多かったですもんね。」

 「はぁはぁ・・・。本当だ。結構いるな。」


 その日の晩は体力と精神力と大切な何かを引き換えにして取った魚を美味しく生で頂いた。ちなみにこの世界は生の魚は疎まれるらしいけど彼らは特殊みたいだ。


 「食うもん食ったし、明日に備えて寝るか」

 「そうだね。明日も依頼をこなさないとね」

 「いやあれ以来こなしたの俺らじゃねーからな?」


 なんか一仕事終えた感満載だけど今日やったことと言えばこの漁くらいしかやってない。

 

 「ま、今日は寝るかぁ」

 「うん。お休み」

 「・・・お休み」


 明日もまたつらい一日になるんだろうなぁ。そんな見えない先の不安に駆られながら俺は寝た。



――――――――――――――――――――――




 皆が寝静まった深夜。静かにヤマモト・ジュンのギルドカードの能力値は書き換えられた。今までは一般人に毛が生えた程度だったが書き換えられた能力値は魔王に匹敵するくらいの能力へと。

 それは日が出ている時の綺麗は心に力を与える能力ではない。心が歪みし者に力を与える能力だ。


 そんなことは寝ている彼にとって知る由もなかった。

 

 そして月が沈んで太陽が昇る瞬間、また彼のギルドカードは書き換えらる。魔王並みの能力値からまた凡人より少しまさる程度の能力値へと。



――――――――――――――――――――――



 「おい!ジュン!起きろよ。起きろって!」

 

 眠い。昨日色々あって疲れたのだ。もう少し眠らしてくれ。


 ぺちぺちぺちぺちぺち・・・


 「あーもううっとうしい!なんだ!?」

 「やっと起きたか。死んだのかと思って心配したぞ」

 「ちょっと待て」


 少し気になることがある。


 「その手に持っているのって。」

 「魚」


 見たらわかる。取り立てだろうか。凄く活きがいい。ギルに体の下半分を握られているせいで上半分はピチピチピチっとカオスなことになっている。


 「・・・それで俺のことを起こしたのか?」  

 「おう」


 少し手で顔を拭く。

 

 「生臭!?」


 俺のそのリアクションを見て満足したのだろうか。ギルが大笑いしてきた。


 「そりゃそうだろ。いい目覚めになっただろ?」


 俺は無言で奴を川に落とした。俺には突き落としていい権利を持っているはずだ。


 「朝からにぎやかですね・・・。」

 

 エアが俺らの姿を見て何か言っていたが顔のぬめりを落とすのに必死だった。



――――――――――――――――――――――



その後結構頑張ったが顔の生臭さは落ちなかった。しょうがないのでこのままギルドへ向かって依頼を見る。俺らがモンスター討伐の依頼を受けるか採取系の依頼を受けるかもめていた。

 その瞬間、突然大声が響く。


 「勇者はいるか!?」


 なんか面倒ごとが起きそうな予感がした。


 

少し面白いな。少しクスっと来たのならば、ブクマ、評価の方してくれたら犬が尻尾振るかの如く喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ