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冒険者と言えばこれだよな

 俺はさっきの恥ずかしさからテーブルにうつ伏せになっていた。

 あれは忘れたいくらい恥ずかしかった。本当に黒歴史すぎる。


 「なあ。勇者さんよ。良ければ俺らとパーティーを組まないか?駆け出し冒険者なんだろ?」


 そう声をかけられた。仕方ないので顔を上げる。

 声の方向をに顔を向けた。そこにいたのは2人組だ。一人は剣を腰にかけ、一人は弓を持っていた。


 「その勇者って呼び方止めてくれないか」


 さっきのことを思い出すから。俺のメンタルボロボロだから。


 「だってなぁ」

 「勇者以外なんて読んだらいいか分からないもんね」


 そうだけども。俺のこの今にも泣きだしそうな顔を見てくれ。それでもあんた達は勇者と呼ぶのか?


 「・・・俺はジュンだ」


 これ以上いじめらるのは嫌なので名乗っておく。


 「おぉ!ジュンっていうのか!よろしくな。えっと。俺はギル。で、こっちがエアだ」

 「よろしくね」


 えっと。剣持っているのがギルで、弓を持っているのがギアね。理解。

 ギアに差し出された手を握って握手する。


 「俺がそっちのパーティーに入ってもいいって話だったよな?」


 俺みたいな戦闘経験がないやつでも入れてもらえるのか不安な念のために確認する。このまま一人で活動するよりもパーティーに参加させてもらえた方が良さそうだし。


 「あぁ!歓迎するぜ!素人でも戦いに関しては徐々に学んでいったらいいさ。初めのうちは誰でも初心者なのだからさ!」

 「そうだよ。最初は失礼だけど足手まといでもいいさ。一緒に強くなろうよ」


 ギルとエアがそんな嬉しいことを言ってくれる。

 俺はこの二人に感動していた。なんていい人たちなんだろうと。これが冒険者の絆ってやつか。さっきの事で傷ついた心が温まる。


 「グスッ。あ、ありがとう。俺、しっかり強くなるから。これからよろしくな。それでどんな依頼を受けるんだ?」


 彼らの優しさで自然と涙が出てくる。俺は彼らみたく頑張ろうと思った。


 「あぁ!頑張ろうぜ!それで俺らが受ける依頼はこれだ!ゴブリン退治!」

 「・・・なるほど!」


 ゴブリンは俺の知識が間違っていなかったら弱いモンスターのはずだ。始めてのモンスター狩りだが彼らが居れくれたら何とかなるだろう。


 「問題ないな?ならこれを受けに行ってくるぜ!」


 そう言ってギルとエアが依頼を持ってカウンターに向かったので俺も付いていく。


 「えっと。受ける依頼はゴブリン退治でよろしいでしょうか?」

 「あぁ。問題ない!」

 「えぇ。大丈夫です」


 なんかいいなぁ。俺も冒険者になったのか。その実感が凄く沸いてくる。


 「ではギルドカードを貸してください。」

 

 そう職員に言われて俺ら三人は素直に渡す。


 「おや。三人とも初依頼ですね。それなら薬傷採取とかのほうがよろしいのでは・・・?」

 「いや、これでいい。冒険者と言ったらモンスター退治だからな!」

 「これで大丈夫です。彼の言う通り」


 なんでだろう。急に不安が増してくる。彼らの装備がやたらと綺麗だなと思ってたんだが一度も依頼をこなしたことがなかったのか。てかそれよりも初依頼のくせによく俺にあんなに言えたな。

 

 「さて!ひと暴れしようぜ!」

 「ええ荒稼ぎしましょう!!」

 

 これ絶対に駄目なやつだよね?俺の第六感の危険センサーがビンビン反応している。

 いや、これが初依頼なだけで実際はモンスター狩りの経験があるのだろう。きっとそうだ。


 「なぁ、ゴブリンって強いのか?俺武器持ってないぞ?」

 「行けるだろ。戦った事無いから変わらんが多分弱い」

 「えぇ。ゴブリンですよ?強い訳がありません」


 俺は確信した。このパーティーは地雷だと。多分下手したら死ぬと。


 「おーい!ジュン置いていくぞ!さっさと歩け!」


 嫌な予感がビンビンする中、俺はただギアについていくのだった。




――――――――――――――――――――――





 門を出て数時間前に見た平原に出る。


 「おぉ~!ここが街の外か!初めて見たぜ!」

 「ギルは初めてなの?僕は一度子供の時に見たことあるよ」


 おぉ~エアすげぇ~っと言っている彼らを見て頭が痛くなってきた。絶対ダメな奴らだ。こいつら。


 「えっとゴブリンってあの森にいるんだよな。さっさと退治しに行こうぜ。・・・フフフ。こいつに生き血を吸わせるのが楽しみだ」


 そう言ってギルは新品の剣を抜いて笑う。

 多分剣に生き血を吸わせるよりゴブリンに血を出される事になるんだろうな。


 「なるほど。あの森ですか。行きましょう。僕のこの弓がまた火を噴かせるとこになるでしょう・・・」

 

 エアは弓を取り出し意味ありげに呟く。

 多分弓が日を噴くより血が吹くほうが早いんだろうな。

 てかまた火を噴かせるとか言ってるけどその弓新品だろ。


 この馬鹿共の無駄に高いモチベーションは何だろか。どっと疲れる。

 俺らは歩いて行き、ギルがさっき指さしていた森に着いた。


 森の中は薄暗く、どこからともなくワォーン…とかキリキリキリ…とかそんな色々な生物の声が聞こえてくる。正直言って怖い。彼らは武器がある分自分を守れるけど俺は素手だ。襲われたらどうしようもないだろう。まぁ、頼りないとはいえ武装している彼らに何とかしてもらうか。


 「なぁ。エア」

 「何だいギル」

 「俺なんか用事を思い出したから帰ろうと思うんだ」

 「奇遇だね。ギル。僕もなんか用事があったと思うんだ」


 いや怖気づくなよ!!さっきまでのモチベーションはどこに行ったんだよ!確かに怖いけども!しかもなんか用事があるってどういうことだよ!馬鹿なの!?


 俺は一人で心の中で突っ込む。もうやだこの人達。一緒にいて疲れる。

 

 「さて。戻るか」

 「だね」


 そう言って帰ろうとする二人の背中を呆然と眺める俺。確かに怖いのは分かるので一緒に帰ろうとする。でもこのまま帰るのは少し勿体ないので後ろを見た。そしたら遠くのほうに緑色の小鬼がいる。


 「あ!待って二人とも!あれってゴブリンじゃないのか!?」


 俺は無言で立ち去っていこうとする彼らに語り掛けた。


 「まじ!?どこだ!?」

 「本当ですかジュンさん!?」

 「あ!いたぞエア!」

 「本当だ!確かにあれはゴブリンだ!流石ですねジュンさん!!」

 「よし!行くぞ!」

 「えぇ!!援護は任せてください!!」


 この間僅か5秒。怒涛の会話に俺は呆然とそれを眺めることしかできなかった。てか凄い食い付きだったけど。どんなけゴブリン好きなんだよ。てか飛び出していったけど大丈夫なのか?


 彼らを見るとギルがダッシュでゴブリンの方に走って行った。


 「おらぁぁあ!死ねやぁぁああ!」


 そのギルの姿はまさにバーサーカーだった。あの姿を街の警備員に見つかったら即捕まるだろうな。そんな姿だった。


 「ギッ!?」


 その姿に驚いたゴブリンはとっさに棍棒を構える。

 ・・・これは倒せる。案外何とかなりそうだな。そう思っていた。


 バタッ!


 ギルがこけた。


 俺、エア、ゴブリンまでもが目を疑った。


 「ギッ!ギギィィッ!!」


 あ。ゴブリンが仲間を呼んでる。


 ダッ!


 ギルがこっちに走ってきた。


 「「「「ギギィィッ!!!」」」」


 「ちょっ!?馬鹿ですか!?こっちに来ないでくださいよ!!」

 「うるせぇ!援護をしてくれるんだろ!?この状況を何とかしてくれよ!!」

 「無理でしょこの量!!!」


 何やらギルとエアがゴブリンたちと楽しそうに追いかけっこしている。

 ・・・え。ちょっと待て。


 「何でお前らこっち来るの!!?」


 俺もその追いかけっこの仲間に加わった。


 「元はと言えばお前がゴブリンを見つけたからだろ!それにお前勇者だろ!?何とかしろよ!!」

 「そうですよ!勇者なんでしょ!何とかしてくださいよ!」

 「お前ら俺の能力値聞いただろ!?一般人に毛が生えた程度だぞ!?何とかできるか!!」


 俺らは必死に走る。森を出て平原に出ても走る。


 「まだついてきてるじゃん!どうする!?本格的にやべーぞ!?」

 「ギル!剣士でしょう!ならさっさとぶった切ってくださいよ!!」

 「は!?それを言うならジュンは勇者だろうが!ほい!パス!!」


 そう言ってギルが剣を投げてくる。


 「危な!?お前!今回俺がキャッチできたからいいものの刺さったらどうしてくれる!?」

 「それに関しては悪かった!この件が終わったらきちんと謝罪するから!!」

 「あーもう!!」


 俺は走るのを止めて足を止める。


 ザッ!


 「「「「ギィッ!?ギギッ!?」」」」」


 突然足を止めた俺に驚いたのだろうか。ゴブリンたちも足を止めた。


 「はぁ・・・。はぁ・・・。エア。援護頼むぞ」


 俺は息を切らせながらエアに頼み込む。


 「はぁはぁ・・・。分かりました」


 正直その言葉を信用していないが彼がいないよりはましだろう。

 俺は剣を構えて全力でゴブリンを叩き切りに行く。


 「おらぁぁあ!!」


 ボコッ。


 「ギィィィッ!!」


 ん?ボコッ?


 その音に違和感を持った俺はゴブリンの方を見ると、大きなたんこぶができたゴブリンがいた。


 「「「「ギッ!ギギギギッ!!!」」」」


 俺らはみな同時に走り出した。走るタイミングなど合わせなくても息がぴったりだった。


 「ギル!お前この剣!!木にメッキしただけじゃねーかよ!!」

 「知らねーよ!俺に言うなよ!それを売った鍛冶屋に行ってくれ!!畜生!道理で10ゴールドと安かったと思ったぜ!」

 

 俺らはまた鬼ごっこを始めた。正直この世界に来てこんなに走るとは思ってなかった。

 しばらく走ると目の前に深く大きな帽子をかぶった少女がいた。


 「ちょっとそこのお前!!逃げてくれ!!」

 「状況は後ろを見れば分かります!!」

 

 それを聞いた少女は俺らの後ろを見る。そして一言。


 「・・・消えて。」


 ドォォォン・・・。


 後ろの方で爆音が聞こえた。


 「「「え?」」」


 後ろを見るとゴブリンの姿など一切なく、焼け焦げた大地があった。






 


 

 

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