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プロローグ

 風が心地よくて桜が満開に咲いている。空は青く、新しい制服を着た新入生達が目を輝かせて登校している。今日は入学式。俺もその新入生のうちの一人だ。


 でもその目に希望を抱いた新入生と違う点がある。それは俺の目に希望などない。だってそうだろう。高校生になるって事は大人に一歩近づくという事。それは物凄い苦痛だった。なぜかと言うと俺は大人になりたくなかった。いや、正しくは社会に出たくない。

 

 だって考えてほしい。僕はSNSとかで色々な人と通じている。特に社会人とかとよくかかわりを持っている。その人達と話していて、僕が学生と伝えたら皆口をそろえてなんていったと思う?


「いーなぁ!俺も学生に戻りてぇーよ。」


 恐ろしくないか!?俺は中学校の時に学校に行くのがだるいと言っていた人種だ。それが社会に出てやっていけるとは思えない。なので社会に出ないために色々努力をした。初めにニートになろうと思ったけどうちの親が許してくれるとは思えない。なのでまずは絵の練習をしてみた。自分の才能を売るのは社会に出なくてもやっていけると思ったからだ。


 でも現実は残酷だった。


 とある絵師さんに絵を売る方法を聞いてみた。ならまずは絵を企業に持ち込んで売り込みに行くと教えてくれた。てっきりSNSに適当に上げといたら勝手に買い手がつくと思っていた。そんなことをさっきの絵師さんに言うとそれは画力お化けだけ。そう答えてくれた。俺は泣いた。

 気の弱い俺だ。知らない会社に持ち込んだりは到底できないであろう。


 次に目を付けたのは投資だ。知り合いに投資家がいて色々聞いて勉強した。その為の本も買った。インターネットで色々調べて勉強したりもした。これで勝つる!そう思ってた。


 でも現実は残酷だった。


 俺は一つの株式会社に有り金全部突っ込んだ。小学生からコツコツ貯めていたおこずかい、年末年始に貰ったお年玉。それはもう俺が持っている全財産を。その企業は俺の知り合いの投資家もお勧めしてくれた穴場だった事もあり、失敗などを考えずに突っ込んだ。

 結論から言うと会社は暴落した。俺は待った。ただひたすらに待った。彼ら(お金)が仲間を連れて帰ってくることを。しかし仲間どころか彼らも帰ってこなかった。俺は泣いた。

 その日有り金をすべて溶かした人が新たに誕生した。


 もう俺には社会に出ずに稼ぐ手段がすべて途絶えた。これからの人生どうしようと寝ずに真剣に考えたこともあった。しかしいいアイデアは出てこない。いっそのこと社会に出たくないのであれば自殺も考えた。でも根性なしの俺にはそれができない。どうしても社会に出たくないので人の禁忌を犯すことにする。


「父さん。将来すねをかじらせてくれ。」


 うちの親は両親共に優しかった。僕が悩んでいたら表情を読み取って何かあったのか?と心配してくれるし、いい行いをすれば褒めてくれる。そんないい両親のもとで育ってきた。だからこそワンチャンあるかと思った。


 でも現実は残酷だった。


 父さんに全力で頬を殴られた。走って助走をつけて全力で。その威力はすごくて軽く吹っ飛んだくらいだ。初めて父さんに殴られた。むしろ殴らせる行為をさせてしまった。俺はその事実に泣いた。


 そして今に至る。これが俺が高校生になりたくない理由で目に光が宿っていない理由だ。


 そんなことを思い出しても時間は進むだけなので取り合えず適当にスリッパに履き替え、教室に行く。

これが新しいクラスという事もあり、教室は静かだった。もちろん俺も仲のいい人をまだ作っていないので無言で先生を待つ。


 暇だ・・・。


 そんなこんなで先生がきて、自己紹介をさせられて配布物を配ってこの日は終わり。学校に残っても意味などないので俺はさっさと帰ることにする。

 クラスに一人は居ただろう。学校が終わったら最速で帰る奴。それが俺だ。自転車通学なので飛ばして帰ることにする。家に帰って漫画を読みたい。今はまっている漫画があってそれが本当に面白いのだ。


 俺は今読んでいる漫画のストーリーを思い出してさらに自転車の速度を上げる。目の前の信号が赤から青に変わって、信号運も付いている。これならすぐに家に着きそうだ。


 

 そう思って信号を渡ろうとする直前で急に赤に変わった。


 「な!?」


 俺はそのことに驚いた。信号機の故障か?そう思って周りに車が来ていないか確認する。横を見たらあり得ない速度で走ってくるトラックがあった。


 これアカン奴や。


 そう思ってもどうしようもない。ぐんぐん近づいてくるトラックを目の前に急激に頭が回る。懐かしい日々の記憶。幼稚園、小学校、中学校と色々なことがあった。これが走馬灯ってやつか。そう思いながら轢かれたのであった。



――――――――――――――――――――――





 ・・・眩しい。


 そう思って目を開ける。そこは何もない空間だった。何もないくせにやたらと眩しい。俺は体を起こして現状を把握しようとする。


 「あら。目が覚めたの。」


 目の前に居たのは美しい少女だった。ただ顔が整っているだけではなくて少女のしぐさ、態度、なんて言ったらいいのだろうか。それらをひっくるめて神々しいオーラをまとっていた。


 「いや、あなただれですか。」


 多分この状況になったら皆が思うだろう。知らない空間にいて知らない人がいるのだ。まさにここはどこ?あなたはだれ?って状態だ。


 「そうね。私はとある世界の女神ってとこね。」


 なるほど。分からん。多分その説明だけで分かる人はほんの一握りだけだと思うんだ。で、その一握りは絶対頭のおかしい人だ。


 「とりあえずあなたを殺した理由は私の世界の住人になってもらおうかと思って。」


 どんなヤンデレだよ。私の世界に欲しいのであなたを殺しましただって?この女神様頭おかしくない?そう訳の分からないことを言われて少し考え込む。

 ・・・とりあえず俺を殺したって?俺は生きているじゃん。そんなことを考えるとだんだん記憶が蘇ってくる。そうだ。確か。この空間に来る前は信号が不自然に変わって急にトラックが突っ込んできたんだっけ。


 「だんだん顔が青ざめてきたわね。その通りよ。あのトラックをあなたにぶつけたのは私よ。」


 怖すぎるだろこの女神様。でもなんでそんなことをしてきたのだ?俺はいたって平凡な人だ。他人からひねくれているとよく言われるだけの。この自称女神の恨みを買う行動などした覚えない。


 「うちの世界なんか魔王が復活しちゃって。あなたにそれを討伐してきてほしいの。」


 いや、聞いてない。そしてなんか急にファンタジーな展開になった。もしかして俺が勇者となって魔王を討伐するとか?そう思うとワクワクしてくる。


 「なんか急に目の色が戻ったわね。魂をこの世界に持ってくるとき死んだ魚よりもひどい目をしていたから生き返らないと思っていたわ。」


 なぜか俺の目のことをぼろくそに言われた。酷いって自覚はあるけど流石に死んだ魚より酷くはないわ。てか死んだ魚より酷い目ってどんな目だよ。見てみたいわ。あ。鏡を見れば解決か。


 「俺が魔王に勝てるのか?」


 さっきも言ったが俺は平凡な人だ。特別な力とかはないし、特に右腕もうずかない。でもって魔王って言えば強力な存在ってことくらいは変わる。読んでそのまま魔の王だし。


 「ただのあなたが勝てるとは思っていないわよ。・・・できる限りあなたの身体能力を向上させて私の世界に送ってあげるわ。」


 なるほどねぇ。それを聞いて一つ疑問に思ったことがあった。


 「身体能力を向上させて魔王に勝てるのか?」

 

 問題はそこだ。目的は魔王に勝つことだからそれで俺が魔王を討伐できるくらい強くないといけない。


 「それは運ね。」

 「運なの!?」


 びっくりだ。俺を殺して女神の世界に送られるくらいだから確実に倒せる実力が手に入るものだと思っていた。


 「いちいちうるさいわねー。心が綺麗なほど比例して身体能力が上がるからあなたが綺麗な心を持っていたらそれはすごい倍率がかかるわよ。それと夜は凄く弱くなるから注意してね。」


 なるほどね。心が綺麗な人ほど勇者に近づけるという訳か。なら俺絶対無理じゃん。物心ついた時からひねくれものと呼ばれてきた男だ。そんな凄い倍率がかかるとは思えない。


 「女神さん女神さん。他の強い能力とかってないですか?心がすさんでるほど強くなる能力とか。」

 「そんなのないわよ。御託はいいからさっさと行きなさい。」


 そう言って女神は俺に手をかざした。俺の周りに淡い光がまとう。そして下を見ると魔法陣が。これアカン奴や。女神の世界に転移させようとしている最中なのだろう。


 「ちょっと待ってよ!?俺このまま転移させられてたら絶対に死ぬよね!?絶対身体能力上がらないまま送られるよね!?」

 「・・・何とかなるでしょう。」


 なんてことをいうんだこの女神!?勝手に人を殺しておいてこの女神の世界で殺すつもりか!?せめてなにかしらのケアをしてくれよ!?


 「よし!行ってらっしゃい!!」

 「ちくしょぉぉぉお!!覚えていろよ!魔王を倒し終わったらお前を倒してやるからな!!」


 俺はそんな勇者らしからぬ言葉を残して魔法陣に吸い込まれていくのであった。





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