せめぎ合い
朝か……。
今日は何曜日だろうか。
とにかく仕事だ。
私はゆっくりと身を起こす。
なぜか腹部に鈍い痛みがはしる。
どこかにぶつけたのだろうか。
「お目覚めですか?」
澄んだ声が耳に飛び込んできた。
私は反射的に身を固くした。
「森野あおい様。先ほどは驚かせてしまってすみませんでした」
声のする方に視線を動かすと、白いカーテンが見えた。
ここは病院?
私は事故か何かにまきこまれたのだろうか?
「森野あおい様」
隣のベッドの人は森野さんというのか。
後で挨拶しなきゃなぁ。
わかってる。
わかってますよ。
まだ、あの悪夢の中だってことは。
だけど、それを認めたくはなかった。
「森野あおい様」
私は布団を頭からかぶり耳を塞いだ。
「聖なる乙女」
舌打ちを含んだ男の声がし、私の布団が引っ張られた。
私は布団を掴む手に渾身の力をこめる。
「ぬぬぬっ」
先程より強い力で引っ張られる。
しかし、こちらも死にものぐるいで布団にしがみつく。
何度か攻防戦を繰り返し、とうとう私は布団ごと床に転がり落ちた。
「痛いっっ」
身体に落下の衝撃を受けた私は金切り声をあげた。
実のところ、布団がクッションになっていたので、たいして痛くはなかった。
しかし私としては、なぜ自分がこのような目にあわなければならないのかという怒りでいっぱいだった。
だから、抗議の意味も含めてわざとらしいくらいの大きな声を出した。
これは、身体ではなく心の悲鳴であり精一杯の抗議の声なのである。
「ファンダー・エドヴァルト」
涼やかな声が叱責の色を帯びる。
それに反応して、引っ張られていた力が緩んだ。
私はおもむろに布団から目を出した。
こちらをじっと睨んでいる男とバッチリ目があった。
やはりお前だったか、外人その壱。
さらに不快度が高まった私は目をすがめ、ヤツを睨み返した。
「何をしたのです?」
しかし、ヤツは涼やかな声の詰問に応えなかった。
私は身じろぎもせず黙ってじっと睨んでいた。
「さがりなさい」
涼やかな声が、おそらくヤツにむかって命令した。
そーだ、そーだ。
さがれ、さがれ、さがりおろう。
お前が消えるまで、絶対にしゃべらないからな。
「クイーン」
「さがりなさい。ファンダー・エドヴァルト」
外人その壱、もといファンダーなんたらは何か言いたそうな顔つきをしていたが、口を歪ませ私をさらに睨みつけると、観念したかのように回れ右をして歩きだした。
ざまぁみやがれ。
溜飲を下げた私はニヤリとほくそ笑んだ。