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英雄達のフロンティア  作者: ハル
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第六話 Castle in a Frontier・下

 第六話。よろしくお願いします。


「面白そうな戦いだのう。俺も混ぜてくれないか?」


 野太い声。アンドレイの声だった。


「おや、一人で何の用だい? アタシャ今忙しいから、帰ってくれると嬉しいんだがな」


 ニコラは薙刀を構え、騎士とアンドレイを同視界内へ収める。


「残念だが、それは無理だな。代わりに騎士さんにでも頼んでみたらどうだ?」


 アンドレイは騎士を指差して言う。騎士は何も発さず、剣を強く握る。

 騎士とニコラから、返事はなかった。


「やれやれ、だんまりか」


 騎士は強く地面を蹴り、アンドレイへと一直線に跳躍する。


「速い」


 ニコラは呟いた。その言葉の通り、騎士の勢いは弾丸のようだった。

 アンドレイはエナジーをビームのように放出した両刃の槍で応戦する。


「ほう、これは素晴らしい剣だ」


 アンドレイは感嘆の言葉を零す。アンドレイは騎士の剣を受け太刀するだけであり、防戦一方。アンドレイが傷を負うのは時間の問題と思われた。

しかしその時、アンドレイは騎士の背後二十メートルほどに瞬間移動する。

 エナジーを弾丸に変え、高密度に濃縮する。その弾は分裂を繰り返し、十数個の青い弾丸となる。エネルギーが高密度に集約しているのを、掃除機のように吸い込む気流が現していた。


 騎士へとその弾を放とうとした時、その弾は一瞬にして消滅した。その代り、アンドレイの顔の横数メートル先には、集約された六角形のシールドが見える。シールドには、矢が一本刺さっていた。


「そっちか」


 アンドレイは別に弾を五発分生成し、矢が飛んできた方向へと放った。弾道周囲が、青く光り、夜道を照らす。

 手応えは無かった。


「チッ」


 吐いて捨てるような声がアンドレイの口元から溢れる。その直後、ニコラと騎士はアンドレイへと刃を振る。アンドレイは素早くシールドを展開、再生成繰り返し、二人の刃を捌く。

 そして、合間を縫って雷のような勢いと威力を帯びた弾を幾度となく放つ。

 ニコラは身を捩って避ける。騎士は鎧で受け止め、攻撃を続行していた。

 

「おいおい、あんたら手ぇ組んでたのか?」

「さぁ、どっちだろうね!」


 剣と盾がぶつかりあう金属音も、戦士たちの叫び声も、少し距離を取れば静かになる。

 メイは百メートルほど三人の戦場から距離を取り、壁の輪郭に隠れながら様子を伺っていた。

 弓の強みは、第一に音をあまり発しないこと、第二に弾道が放射状になること。前者のおかげで、居場所を音で悟られず、後者おかげで、居場所を弾道で悟られずに済む。それに、矢の初速は込めるエナジーの量で決められる。だから、多彩な攻撃が可能である。


 メイは睨むように三人の戦場を眺める。アンドレイは一見防戦一方で手一杯に見られるが、すぐに二人の攻撃を掻い潜って逃げられる位置を常に取っている。これは、自分の狙撃を警戒している証拠である。警戒している相手を一撃で仕留めるのは厳しいことになるだろう。

 騎士は間合いを不規則に変えながら攻撃を行っている。動きが止まっていなければ鎧のつなぎ目。いわゆる鎧のエナジー量が少ない場所に当てるのは困難を極めるであろう。


 つまり、メイが二人に致命傷を与えるには、何かしら戦場を動かす必要があった。それをニコラに任せることはできるか。いや、それは難しいだろう。

 メイが属するベリウム共和国のレジスタ技術は、他の先進国に比べて、一歩か二歩、遅れを取っていた。しかし、ベリウム共和国は常任理事国。つまり、技術が遅れていても、多くの国の上に立てていた。

 その秘訣は、個人の技量にあった。ベリウム共和国は武道を重んじる国であり、幼い頃から武術の手ほどきを受ける。それが、遅れたレジスタ技術を補っていた。


 メイは矢を引き、放射線を描くように矢を放つ。それと同時にメイは走り出し、狙撃地点を変える。

 三人の頭上に矢が訪れる。その矢は幾千も分裂し、雨のように降り注ぐ。

 アンドレイ、ニコラは傘のようにシールドを展開し、矢の雨を防ぐ。シールドを一方に展開すれば、他の方向に展開できるシールドの量は減る。体術で敵の攻撃を躱す戦闘スタイルのニコラとは真逆のアンドレイにとって、シールドリソースを削られるのは痛手だった。


「これはマズイが、ベリウムの弓兵よ。一つ忘れていないか?」


 ニコラと騎士が、アンドレイに斬りかかった時だった。

 アンドレイは瞬間移動によって、矢の雨を抜けて、ニコラと騎士の後背、約二十メートルへと移動する。


「まずは婆さん、あんたからだ」


 アンドレイは青く光る球体状の弾を出力する。高密度に集まるエナジーからは、ジェットエンジンが加速するような音が漏れている。


(さぁ、撃ってくるか? 弓兵さんよ)


 アンドレイの口元が吊り上がる。勝ちを確信した表情だった。

 しかし、瞬間、大きな爆発音とともに、背面の壁が、幅五十メートルほどに渡って崩落する。


「やれやれ、優雅な城へ続く道だというのに、迫力も対してない白兵戦を行っているとは。

 何とみっともないことか」


 崩落した壁の向こうから姿を現し、言葉を放ったボレアースへと、アンドレイは浮かべた弾を放つ。光線のような弾道を見せ、一直線にボレアースへと飛翔する。

 しかし、ボレアースを目の前にして、弾は爆発して消え失せる。


『銀河帝国とは、厄介な事になったねえ‥‥‥』


 ニコラの声がメイへと、ブルートゥースイヤホンのような、小型通信機越しに届く。


『どうするの? 幾ら相手が一人でも‥‥‥』


 ボレアースに勝てるシナリオが見当たらない。


『そりゃ、隙を見て逃げるに決まってるよ! ゴーグルしっかりはめときな!』


 メイとニコラは、同じ形状のゴーグルをはめる。これは、漏出したエナジーを見えるようにするゴーグルである。ボレアースの周りには、明らかに周りとは違う、空気流体のようなものが存在していた。


 ボレアースは空気体のエナジーを地面へ潜らせる。


「やれやれ、直接見せてくれるほど、無鉄砲な攻撃はやらないか」


 地中から軋む音が鳴る。そして、地面から地上へと、アッパーのようにエナジーの空気体が振り上がる。その空気体は鋭利な形をしていて、当たれば換装体が裂けて消えることは目に見えていた。

 ニコラは後方へ跳躍しながら、薙刀で軌道を逸らしながら、鋭利な空気体を躱す。

 ボレアースはいつになく不機嫌そうな顔をしていた。それは、焦燥感から来るものなのか、彼の頬には、汗が数粒流れている。

 ボレアースは、一番距離の近いアンドレイへと攻撃を繰り出す。クロスするような空気体をぶつけようとする。

 アンドレイは瞬間移動で躱し、ニコラと騎士の二人と同列ほどまで間合いを空ける。それと同時に青い弾を五発ボレアースへと打ち込んだ。

 ボレアースは青い残像を見せる弾を全て命中前に撃ち落とす。

 その時、騎士がエナジーを剣に流し、ボレアースへ向けて縦に大きく振る。それは衝撃波を媒介とした中距離斬撃となり、ボレアースへと襲いかかる。

 ボレアースは換装体を空気体へと戻し、横数メートルに再構築させる。ボレアースの横を、騎士の放った斬撃は通り過ぎ、暗い夜の背景へと消えていった。


(わたしだって!)


 ボレアースは次の攻撃態勢に移っている。ボレアースのエナジー能力はこの空間内に居るレジスタ使いでは突出している。一回の全開攻撃で、ニコラを含んだ三人は屍に変わってしまうだろう。

 そんなことはさせまいと、メイは強く矢を引く。

 最大初速で矢を放った。今の矢の速度は、アンドレイの弾丸とも引け目を取らない。

 死角からの一撃では無い。視認された直後、大きな衝撃波を上げて矢は受け止められた。ポトッと矢は力尽きたように地面に転がる。

 メイの一撃は三人の攻撃へ移るための時間を繋いだ。

 騎士とニコラが距離を詰める。


「小癪な真似を」


 騎士とニコラを空気斬撃で払おうとした時、アンドレイの射撃が死角から囲うように放たれる。射撃が止んだ時と同時に、二人の近接手が風のような斬撃を潜り込み、攻撃に出る。


「無駄な事を」


 ボレアースは再び換装体を空気のように消し、ニコラと騎士、アンドレイ三人と十数メートルの距離を取れる位置に移動する。

 ボレアースは再び空気へ身を変える。姿を消した直後、先程まで居た場所へ矢が撃ち込まれる。矢は標的に当たること無く地面と衝突した。


「チッ」


 ボレアースは舌打ちし、それと同時に左右の壁へ空気体を忍ばせ、自分の力の及ぶ範囲内全てを破壊した。

 しかし、残念ながら、ボレアースの間合い内にメイは居なかった。


『逃げるよ!』


 ニコラは崩壊した壁から出た砂煙の中へと飛び込み、その場から逃げ去った。

 騎士も同様だった。その場には、アンドレイとボレアースだけが残る。

 戦闘時の騒々しさとは裏腹に、周囲は静寂に包まれていた。


「なぁ兄弟。今日のところはどうか‥‥‥その、見逃してくれないか?」


 アンドレイは手のひらを宙へ向けて言った。


「お前の不機嫌になってる理由は分かってる。俺はそれに対して有益な情報を持っている」


 ボレアースは、淡々とアンドレイの瞳の奥を覗いていた。


「‥‥‥もし、貴様の話がつまらないものと、俺が判断したらどうする」

「そんときゃ、殺ってくれていいさ。それくらいの自信がある情報だ」


 ボレアースは自分の周りに流していた空気体を仕舞った。


「それじゃあ、聞こうか。貴様の言う面白い話を」

「おう。それじゃまずは」


 アンドレイは周囲にカメラが無いことを確認する。


「これを見てくれ」


 アンドレイは丸めた紙をボレアースへと投げた。

 ボレアースは空気体展開。それを使って紙を開いて近づけ、文字を読む。


「それは、うちの国の諜報員が手に入れたもんでな。ヴェストファーレンの連中は、どうやらこの戦いが始まる数ヶ月前から、お前らの暗殺を決め込んでたっつー訳よ。

 本来は軍事機密で秘匿するべきものだが、当事者故、特別だ」


 ボレアースは文字を読み続ける。


「ま、彼らは転送機に入ったところを殺そうとしたんだが、どうやらお前は殺しそこねちゃったみてぇだ」


 ボレアースは紙を足元まで降ろし、再び丸める。

 視線は、アンドレイへと向いていた。


「その話。信じても良いんだな」

「おう。軍務局長のお墨付きだ」

「よろしい‥‥‥。貴様らは後にしておいてやろう」

「ああ。健闘を祈る」


 ボレアースは風のように去っていった。

 アンドレイはボレアースのエナジー反応が無いのを確認し、耳に付けた通信機に手を当てる。


『兄貴。何とか上手く行ったぞ』

『ああ。よくやった』

『けどよぅ兄貴、本当にこれで良いのか? 俺はヴェストファーレンとも組んで、銀河帝国に当たったほうが良いと思うんだが』


 書類を纏める音が、アンドレイの耳元に届く。


『ああ。それで良いんだ。これで、銀河帝国の脅威は無くなる』

『そこまでヴェストファーレンを買ってるって訳か‥‥‥』

『そう言われてもおかしくはないな。大富豪で例えるなら銀河帝国がジョーカーで、ヴェストファーレンがスペードの三だったもんでな』


 通称“スペ三返し”。どこかで生まれたローカルルールであり、最強であるジョーカーを唯一倒す方法。


『理想はあのちっこいのと引き換えに銀河帝国が消え失せることだが、はて、どうなることか‥‥‥』


 アンドレイの兄との通信は薄れていった。


「やれやれ、性格がねじ曲がった奴だ」


 アンドレイは吐き捨てるように呟いた。

崩壊した両の壁、ぼろぼろになった石レンガの道路。奥にそびえる城の裏には、青白い月が浮かんでいた。

それは、一見落ち着いているようだが、どこか裏の顔を感じさせた。


「俺はてっきり、藍原がジョーカーだと思っていたがな」


 アンドレイの口元が吊り上がる。


「さ、次回の定期通信が楽しみだ」


 アンドレイの姿は、その声とともにどこかへ消えていった。


 ご購読ありがとうございます。

 まだ続きます。どうぞよろしくお願いします。

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