表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄達のフロンティア  作者: ハル
4/6

第四話 偵察・下

 第四話。やっとこのゲームの真相が明らかとなります。


 夜。

 石レンガが円状に広がり、十字に道路が広がっている。周囲は三階建てほどの家が、広場を囲んでいる。

 四隅は水が、放水口から流れ出ており、石レンガとその水溜りを花壇が隔てていた。ぶら下がる街灯や、地中に埋められたライトがガラス越しに広場を照らしている。

 光は、南方向の道から入り、広場中心部で周囲を見渡す。花は美しく咲いており、透き通った水は、仄かな温かい光を反射している。


 街灯を一瞥すると、どこも電球とセットで、監視カメラらしきものがぶら下がっていた。形は半球形で、黒い。それは、ここに限らず、最初にニコラと交戦した際も、昼に街を回った時にも、街灯とセットで監視カメラはぶら下がっていた。

 それは光にとって不快だった。別に自意識過剰という訳ではないが、常に追われている感じがしていて、誰かに常に見られていると思うと、背筋がゾッとする。


『娯楽か見世物か、或いは権威を示すためか』


 先日のノーラの言葉が脳裏に浮かぶ。

 ノーラの憶測通りなのであれば、ここでの死闘を誰かが監視して、それに愉悦を覚えている。そう思うと、監視カメラを見るだけで、虫酸が走る。


 足音が聞こえた。ザッ、ザッ、と、その一歩一歩は重く聞こえる。


「おー。ようやっと見つけたわい」


 光の向かいに、一人の大男が現れる。顔立ちは二十過ぎほど、髪は短く立っており、体は筋肉質だった。

 深緑色一色の軍服には国を示すエンブレムが付いていた。それは光にとって見覚えのあるマークだった。


 光は剣を出力し、身構える。すると、大男が手のひらを見せて言った。


「おいおい、俺はそんな物騒な事をしにあんたに会いに来たわけじゃない」


「じゃあ、何の目的。ウラジミール連邦共和国」


 ウラジミール連邦共和国。光が、十ぐらいの時に会敵した国だ。


「何‥‥‥。そうだなぁ~」


 大男は背負っていた布のリュックから瓶と盃を取り出す。


「あんたと話をしたくて、俺は来た。オーレリアの麒麟児と呼ばれた、あんたにな」


 大男は広場へと足を入れ、光に近付く。これ以上近寄るな、と、光は剣先を大男に向ける。


「今の俺は生身の状態だ。おまいさんに手出しはできねーよ」


 光は測力眼で大男の対内のエナジー、魔力の状況を調べる。

 確かに彼の言う通り、彼は生身の状態で、魔力量も低く、即時に攻撃が繰り出せられる状況では無かった。

 光は剣の出力を切り、大男が地面に座るのに続き、腰を下ろした。

 大男は、二つの、透明で空の盃に紫色の液体を瓶から注ぐ。


「折角、世界中の高級銘柄が飲み放題なんだ。堪能しておかねば損であろう」


「それも、盗んだの?」


 大男はキョトンとした顔で光を数秒見つめた後、大声を上げて笑う。


「乱入者と聞いたが、まさか何も知らないとは!」


「ああ、知らないよ。何にも」


 二つの盃に紫色のワインが注がれる。光、大男の順で盃を選び、底を持って眼の前に持っていく。


「そういや、自己紹介が遅れたな。俺の名はアンドレイ。命のやり取りを見て、カッコいいと思ってしまった、ズレた男だ」


 大男から、無垢な笑顔が溢れる。


「インジェクス出身、藍原光」


 インジェクスとは、外界からの光の故郷の呼ばれ方だ。

 グラスのような盃をカチンと接触させ、アンドレイはワインを一気に飲み干す。それに対して光は、小さく一口だけ飲んだ。

 濃厚な果実の味わいで、コクが豊かだった。今まで飲んだことのあるワインの中でも、このワインは一線を画していた。

 光の表情が綻んだ。彼女は盃を口へと持っていき、一口、また一口とワインを喉へ運んだ。


「ぷはー! 流石は銀河帝国の高級ワインだ」


「これ、幾らするのよ」


 アンドレイが瓶をそーっと持ち上げ、銘柄を覗き込む。


「中小国の年収ぐらいはするんじゃねぇのか。なんせ、一番厳重に保管されていたのを持ってきたからな」


「ふうん。美味しいのも納得ね」


 上を見上げると、濃い藍色に光の点が幾つも浮かんでいる。広場は、とてもロマンティックな雰囲気を醸し出していた。


「けど、こんな美酒がタダだなんて、余計不自然だよ」


 アンドレイは三杯目を飲み干し、盃を石レンガへと置く。


「不自然でも、何でもないさ。この街全体が、世界中のスポンサー会社によって成り立っているからな。この空間内では、戦いも、今の俺らの会話も、ほぼ全世界に放映されてんだ。

 逆に言えば、世界に売り出すチャンスでもあるんだ。それに、実際の戦争費用に比べれば、コイツなんてほぼタダだからな」


 光は、街灯と一緒にぶら下がっている監視カメラを一瞥する。アンドレイの言うことが真であるならば、彼女の顔が、全世界に放映されていることになる。

 アンドレイの心音からも、嘘をついているようには思えない。


「というかおまいさん。本当にヴェストファーレンに雇われた訳じゃないのか?」


 目を開き、疑問に満ちた表情でアンドレイは言った。

 ヴェストファーレンは、ノーラの属している国で、換装体の服装である、赤いジャージの胸元にプリントされたエンブレムが示す国であろう。


「ああ。故郷を目指して世界を転々としていたらこれだよ」


 光は一口、ワインを口へ運ぶ。甘く濃厚な味わいが、口内へ広がる。


「去年、見知らぬ土地に飛ばされて、最近やっと帰国の目処がついた。

 この国には三日ほどで通り抜ける予定だったけど、来てみりゃこれって訳」


 光は続けた。今日で三日目。光の帰国に対する予定はもうすぐ瓦解する。

 アンドレイは大きく濁った声を上げて笑う。


「この結界を突き破るほどの勢いで国を跨ぐだなんて、そんな必要無かろう」


「いや、降り立つ場所を誘導される可能性があるから、それなりのエナジーは必要だよ」


 今回は、それが皮肉にもこんな結果を招いたのだ。


「なんなら、リタイアすればいいじゃないか。ま、そんな事しようもんなら、俺が立ち塞がるがな」


 アンドレイは五杯目を飲み干した。瓶の七割ほどが、もう消費されていた。


「ふうん。リタイアできるんだね。このゲームは」


「まぁな。俺の国は許されていないがな」


「じゃあ、何で皆リタイアしないのよ。こんな理不尽なデスゲーム」


 六杯目を飲み干し、盃を床に置いて、アンドレイは立ち上がる。


「そうだなぁ。おまいさんは何にも知らないんだからなぁ」


 アンドレイが街灯を一瞥してから、続けた。


「これはな、次期の覇権国家を決める戦争なんだよ」


 放水口から出た水が、四隅の水溜りへと落ちる音が響く。


「少し前だ。俺の国が独立した直後、ほぼ世界中を巻き込んだ戦争が起きた。

 この戦争で滅びた国は数知れず。大体どの国も、戦争によって一世代分ぽっかり穴が開いちまったんだ」


 円状に広がる石レンガを歩き、光をぐるりと一周するようにして、アンドレイは歩き出す。


「その後、自国民が大きく死ぬことを嫌がった多数の国が考えた結果、この戦いが生まれた。通称『ヒーローゲーム』。

 発展している五国が競い、優勝国が覇権を握り、上位参加国が世界連合の常任理事国となって、次期の主導権を握る。今回で二回目だ。確かに、おまいさんには関係の無い話かも知れんがな」


 光は、盃に入った残りのワインを飲み干し、地面に盃を置いた。金属製の盃から、高い音が聞こえた。

 光は立ち上がる。アンドレイは丁度光の背後に立っていた。


「ああ。私には、この戦争に意味は無い。じゃあ何故あんたは、もし私がリタイアするなら、立ち塞がると言ったんだ」


 まばゆく、温かい街灯が、急に冷たく感じられた。


「それは、麒麟児と呼ばれたおまいさんと、手合わせしてみたかったからだ。

 言ったろ、俺は、『命のやり取りを見て、カッコいいと思ってしまった、ズレた男だ』と。そして、俺にそう自覚させたのは何を隠そう、おまいさんだ」


 一つの街灯が、切れかけているせいか、しきりに点滅し始める。


「あんたは、戦いが楽しいとでも、思っているのか?」


 光が、淡々とした口調で言う。アンドレイは再び円状に歩き出し、光の正面へと回り込む。


「おう。楽しいと言ったらただの狂いもんみたいだから、おもしろい、と言った方が相応しいのかもしれん。戦場は、普段じゃ味わえねぇもんを見せてくれる。

 だからこそ、おまいさんとはできれば最後に戦いたい。だから、おまいさんがリタイアするのであれば、俺は、今ここで立ち塞がるつもりだ。」


 点滅していた一つの街灯の電球が、今消えた。


「あんたは、確かにズレてるよ。

 戦場は、地獄だ」


 アンドレイの唇はゆっくりと釣り上がり、そしてそれは大きな笑い声へと変容した。


「まさかおまいさんに言われるとは、思いもよらんかった! ‥‥‥じゃあ、時が経った今のおまいさんに聞きたい。

 おまいさんはどうして剣を取り、戦っているんだ」


「それは‥‥‥」


 どうして、何のために、この剣を振るうのか。光にその答えは出ず、言葉を詰まらせた。

 答えに迷っている時、遠くから何かがこちらへ向かう足音が聞こえる。屋根と屋根を伝って、物凄い速度でこちらへ向かっている。

 光は剣を出力する。


「この話は今度にしよう」

 

 両手にそれぞれ一本ずつ剣を携えた光が言う。

 アンドレイは目を閉じ、笑みを浮かべながら、換装体へと変身する。見た目は余り変わっていないが、コートのような長いマントが増えていた。


「酔い覚ましには、丁度良いか」


 光から見て右手の建物の屋根に、黒く流線形の鎧を装備したナイトが一人立っている。右手には、光の身長ほどの、太く重そうな剣が握られていた。


『逃げ切るまで、共闘といこう』


 アンドレイの声が通信機越しに聞こえる。光は小さく頷いた。

 

 アンドレイは後ろへ大きく跳躍し、彼の背中に二十発ほどの青い弾が円状に浮かぶ。

 黒のナイトは屋根を蹴り、光の方向へと降りる。


 空中に居る黒いナイトへアンドレイは浮かべた弾を撃ち込む。青い玉は直線状に素早く飛び、黒いナイトへ命中した。しかし、爆風の中降りるナイトの鎧に傷は見当たらなかった。


 黒いナイトは広場へ降り、大剣を片手で振る。その剣は何倍速かしたかのように早い。光は潜り、跳び、身を捻って攻撃を躱す。


 光は黒いナイトが生む僅かな隙を見逃さずに反撃の刃を、黒いナイトの首へと振る。

 しかし、剣は鎧に受け止められていて、傷一つも見当たらなかった。


 黒いナイトが横に大きく振った剣が光に命中する。

 二本の剣で受け止めたものの、剣は砕け散り、光は強く突き飛ばされる。家四軒を貫通して、ようやく体の自由が光に戻る。剣は持たなかったものの、光の体の傷は軽微なもので済んだ。


 広場から爆発音が聞こえる。アンドレイの弾によるものだ。


隠密モード(ステルス)・オンっと)


 光の姿が透過される。


(悪いね、先に逃げさせてもらうよ)


 光は裏路地を抜け、アジトへと戻った。



 シェルターの開く音が聞こえる。中は、赤い電灯が最低限点いているだけで、薄暗い。


「兄貴! ただいま戻ったぜ」


 アンドレイの声がシェルター中に響く。高い身長と、アンドレイと同じ軍服を着た男性が、背を向けて立っていた。


「データは全部見てある。ご苦労であった。

 しかし、ヴェストファーレンに藍原(ヤツ)が居るとは、少し厄介な事になったな」


「別に俺らが恐るるに足りる相手か? だってあいつのレジスタは旧式だし、相方は二十歳も満たない大学教授だ」


「ああ。油断はできない」


「ふーん。兄貴に言わせるなら、そりゃ大した教授なんだろうな」


「そういうことだ。それとアンドレイ、銀河帝国の方に増援が来ているとかは、無いよな?」


「ああ。レーダーで確認した生体反応は俺含めて九つ。まさかあの結界を突き破る奴が二人も同時に現れるわけがない」


「ならいい。まぁ、暗殺計画は成功したと踏んでいいだろう」


「うっひょ~。相変わらず外道にも程が有るぜ」


「それが戦争というものだ。

 アンドレイ。次は分かるな? 銀河帝国に『暗殺したのはヴェストファーレンだ』と伝えろ」


「それ、作戦立案段階から疑問に思ってたけど、本当に上手く行くのか?」


「ああ。暗殺したのは彼の愛妻であり、彼からして藍原はいつでも殺せる相手だ。それに、銀河帝国とヴェストファーレンの外交関係は悪い。彼が乗らないはずが無い。

 ヴェストファーレンを全滅してくれたらそれで良し。

 逆に、銀河帝国が敗北するようであっても、それだけの力を我々に見せてくれるから、それはそれで良し」


 淡々とした口調で、アンドレイの兄は言った。


「開始は明日の早朝だ。それまで仮眠を取っておけ。

 後、戦時中に酒はよしといたほうがいいぞ」


「余計なお世話だ」


 アンドレイは隣の部屋へと去っていった。


 ご購読ありがとうございました。

 まだ続きます。何卒よろしくおねがいします。


 また、ブクマ等登録してくださると日々の励みとなりますので、気が向きましたらどうぞよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ