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英雄達のフロンティア  作者: ハル
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第二話 デスゲームの箱庭世界・下

 甘い甘い百合回です。年の差CPも良いですね。

 どうぞよろしくお願いします。


「デスゲームって、ただの戦争と代わりないじゃない」


光は反論する。


「そうね。あんたそう思ってもおかしくない。

けど、これは人の手によって作られた戦争。だからゲームなのよ」


「なんでよ。そんな意味の無いことをやって、何になるのよ?」


光は意味の無い殺し合いを嫌っていた。それを人の手で作るなんて、信じられない。


「さぁね。娯楽か見世物か、或いは権威を示すためか」


そんなの知った話じゃない。そんな声でノーラは言った。


「‥‥‥じゃあ、あの壁を、今からぶっ壊す」


光の口調は本気だった。そして、それは彼女の能力上可能ではあった。


「それは止めておきな。この空間内はルールが全て。勿論、SSの使用は禁止されている。もし起動するような真似をしたら、この結界に封印されるわよ?」


SSとはSoul Sacrificeの略称で、以下のような特徴がある。


(Ⅰ)SSは人智を越えた魔力を有する精霊の宿し主を指す。

(Ⅱ)人を選ぶ。また、適性が不十分である場合、拒絶反応を起こす。

(Ⅲ)SSは、その人智を越えた魔力を扱うことができる。しかし、使用において精神・身体と摩擦が生じる為、SSの寿命は使用した魔術に比例して短くなることが知られている。


光の不満げな顔は収まらなかった。


「じゃあ、どうすれば出られるのよ」


「簡単よ、勝てば良いのよ。

この結界内には五つのペアがしのぎを削っている。だから、他のチームを倒して、勝てば良い」


ノーラは自分の白衣の胸元に印刷されているエンブレムを摘まんで続ける。


「そして、薄々気づいているでしょうけど、あたしとあんたは同じチームよ。ま、お互い上手くやりましょ。

‥‥‥それにしてもあんた」


ノーラは膝を曲げて、光に近付く。そして、彼女は指で光の頬や髪や、上半身を軽く撫でるように触れる。

上に着ているスポーツタイプのインナー越しに、一五の少女の柔らかい肌の感触がノーラの指へと伝わる。


「あんた、綺麗な体しているわね。お人形さんみたい」


「いい加減止めないと、斬るよ」


 ノーラは光の言葉を無視し、左右の手を光の腋の傍を通して、背中へゆっくり手を回す。そして、背骨に沿って、首元からゆっくりと腰まで指を使ってなぞる。

 時折何かを堪える籠もった声が、体の振動を伴って光の口から聞こえる。


「この‥‥‥変態っ!」


 光は、体が火照り始める中、左手をノーラの背中に掛け、電撃魔法を放った。


「ぐわっ!」


 ノーラの断末魔が聞こえ、光の横に倒れ込む。スタンガン程度の威力のため、死ぬことは恐らく無い。

 光は口を大きく開け、乱れた呼吸を整える。


「‥‥‥っ!」


 光は咄嗟に片腕で自分の胸部を隠すように抑えた。恥ずかしさからか、頬は僅かに紅潮している。


(危なかった‥‥‥)


 そっと腕を胸から離すと、立った乳首がインナーに透けているのが目に映った。

 光は首を左右に振って、木製の床を駆け建物の二階に登り、ある扉を開いた。


 その部屋は、六畳ほどの洋室で、ベッドとチェストとドレッサー。床には柄の入ったカーペットが部屋の一部に敷かれていた。ベッドの傍の窓からは、夕日によって橙色に染められた空が見えた。


 光は、部屋の鍵を閉めてから、ベッドで横になる。掛け布団や枕は備え付けられて無かった。しかし、体をゆっくりと受け止めるように、ベッドのスプリングが機能する。その寝心地は、今まで光が生きてきた中で、最も良いものであった。


(気持ちいい‥‥‥)


 光の視界はだんだん狭くなり、ぼやけてくる。うっとりとした顔を浮かべ、体が重くなり、ある所で意識が飛んだ。テレビの電源が切れるように、ぷっつりと。



 焦げ茶色の天井が目に映る。

 今までの疲労感が全て取れ、逆に節々にもどかしさを感じるほどだった。

 大きく伸びをして、大きな欠伸をし、意識を取り戻す。


「!」


 何か違和感を覚え、光は素早く体を起こす。

 そういえば、寝る時には無かった掛け布団が、体を包んでいた。生地は肌触りが良く、軽くて、柔らかかった。

 そして、光は窓へと目を向ける。

 光は狼狽した。視界には、白銀の雪景色が広がっていた。


 粉雪が降っていて、街の石レンガの道路や、建物の屋根には数十センチの雪が積もっていた。

 何が起きているのか、さっぱりわからなかった。

 ベッドを飛び出て、扉へと向かう。金色のドアノブを見ると、鍵が開いていた。つまり、ノーラか、または何者かが、部屋に入ったことになる。光はドアノブをひねり、廊下へ出る。


(寒っ!)


 廊下は凍るような寒さだった。肌からは差すような冷気が襲い、足裏からは痛いような寒さが伝わる。

 光は、意を決めて走り出し、寝る前ノーラと話した部屋に向かう。

 そして大きな音で木製のドアを開き、昨日の部屋へ駆け込んだ。


 部屋はこの前と変わらず、床は書類が散乱しており、ダイニングテーブルの上には多数の酒瓶が乗っており、煙草のケースが積まれていた。

 部屋は暖かかった。けれど、どういう技術なのかは、光にはわからない。

 ノーラはダイニングテーブルの傍のチェアで空間中に映し出されたパネルをタッチして、何かの作業をしていた。ドアの開ける音と、光の足音を聞き、ノーラは光に目を向ける。


「おはよう。寒くなかった?」


 体が震えている光へ、ノーラは傍に寄り、チェアに掛かっていた毛布を羽織らせる。


「あと、寝る時はちゃんと布団かけないと、冷えるわよ」


 不満げな顔をして受け取るも、毛布で強く身を包み、その場にうずくまる。


「いつ鍵開けたの?」


 歯をかじかませながら、光はノーラに言う。ノーラは白衣の左ポケットから鍵を取り出す。


「そりゃ、家主だし、マスターキーの一個や二個は持っているわよ」


「で、寝てる私に何したの? あなたが何もしない訳がない」


 光は、上目遣いで、抗議の視線を送る。ノーラは口の端を吊り上げ、ニヤけた目をした。


「さぁね。体に聞いてみたほうが早いんじゃないの?」


 光の頬が、燃え上がるように赤くなる。


「‥‥‥最っ低」


 小さく、低い声で光は呟いた。ノーラが足音を数回鳴らし、光の傍でしゃがむ。

 光は、顔を反らし、林檎のように赤い頬を見せ、ノーラを睨む。


「冗談よ」

 

 ノーラはそっと光を両腕で包み、背筋に指を走らせる。


「あぁ‥‥‥」


 光は体重をノーラに預け、気の抜けた声を漏らした。


「本当に背中弱いのね。こんな歳でこんなに出来上がっちゃってるなんて、えっちな子ね」


「‥‥‥ふざけないでよ」


 光は以前と同じように、ノーラの背中に手を当てて、電撃を放つ。


「残念」


 電撃はノーラに目もくれぬように通り抜け、こげ茶色の木製の床へ抜ける。


「あたしだって、学習するわ。それに、ただのスキンシップよ。

 別にあんたを犯そうなんて気なんか無いわよ。ただ可愛いから、つい弄りたくなっちゃうだけ」


「‥‥‥意味わかんない」


 ノーラは光から腕を離し、立ち上がる。光は毛布に包まったまま、その場に座り込んだ。


「じゃあ、下から服持ってくるから、待っててね」


 ノーラはドアまで足を運び、続ける。


「別に、あんたに布団を掛けたときも、何もしてないわよ」


 淡々とした声で言い放ち、金色のドアノブをひねって、木製のドアを開き、ノーラは出ていった。

 光は、包まっている毛布の触り心地の良さに、魅了されていた。


(何この毛布‥‥‥。暖かいし、‥‥‥いい匂い)


 ヘビースモーカーのノーラの物とは信じられないほど、甘く、優しい匂いだった。


(あんな奴にこんな端ない顔見せるなんて‥‥‥)


 彼女の身と心は完全にノーラの手中に収められていた。というか、こんなにも早く、他人に女の顔を見せるとは思ってもいなかった。

 悔しかった。逆らえない自分が、そして、恥ずかしくもあった。


(おかしい‥‥‥。 こんなの絶対におかしい!)


 心臓が光の耳に届くほどの音を立てて動き出す。そして、熱が全身に迸る。


(ホント、最っ低‥‥‥)


 もしかして、あの女に惚れた? そんなことはない! 否定の声を心の中で叫ぶも、ぐしゃぐしゃに掻き消える。


 体が熱くなり、光は毛布から手を離す。全身から汗がどっと滲み出ていた。光は覚束ない足をゆっくりと進めて、椅子に座る。ノーラが座っているものとは違う、木でできた安っぽい椅子。


(そんなわけ‥‥‥絶対に無いんだから!)


 光は否定し続けた。否定すればするほど、意識的に悪魔のささやきが過る。

 荒れた息と、汗を漏らしながら。



 ノーラの軽やかな足音が、茶色の木製の床から響く。

 鼻歌を歌いながら廊下を歩き、光が頬を赤く染め、上目遣いで静かに抗議していた顔の写真を、空間上に画面として、目から映し出す。


 それは、『お手製コンタクトカメラ』。コンタクトレンズサイズのカメラで、写真の撮影、そして閲覧が可能、それでいて、透明な魔力回路を動力源とし、それを電気エネルギーに変えて動作させているため、視界に影響も及ぼさないという、まさに盗撮向けの機材だった。

 欠点は写真を数枚しか保存できないこと。けれど、それは保存用の端末に移せば良いだけである。

 もう一枚の写真は、光の寝顔だった。安らかで油断しきっている顔だった。


 ノーラの理想の相手は、自分よりちっちゃくて、それでいて可愛らしくて、そして重要なのは、魔法を信じてくれてかつ、ちょっと年下の女の子であることだ。

 ノーラは現在十八歳。まさに、光は自分の理想の相手だった。


 ノーラは一階の衣装部屋に入る。彼女がここをアジトと決めた時から、この部屋には多くの服が有った。男物も、女物も、子供向けのものも、老人向けのものも、何もかもが揃っていた。

 彼女は、小さい女の子が着せ替え人形のコーデを考えるような、そんなウキウキした気持ちで、洋服を漁っていた。

 できるだけ無難でかつ、自分好みな服装を‥‥‥。ここの部屋の鍵を閉めておけば、少なからず今日のうちは、自分が指定した服を、光は着ざるを得ない。

 

 ノーラは十数分悩んだ末、上下一式を持って二階に戻った。


「おまたせ」


 光は、小さい椅子に座っていた。毛布はひざ掛けのようにして扱っていた。どこか落ち着かない表情をしていたけれど、きっと気のせいだと、ノーラは心に唱えた。


「はい。じゃあ、早速着替えてみて」


 ノーラは畳んだ衣服を光に渡した。光は受け取ってから、抱きかかえるようにそれを持った。


「それじゃあ、あたし後ろ向いてるから」


 自分でも普段とは違うと分かるような明るい声で、ノーラはさっき座っていたチェアに腰を降ろし、チェアの軸を回転させ、光に背中を向ける。


「振り向いたり、しないよね?」


「しないわよ。約束するわ」


 光は、上のインナーを脱いだ。色白な肌と、ピンク色の乳首が露出する。

 ノーラから貰った服の中には、ブラジャーも入っていた。黒色で、サイズもぴったりだった。

 ノーラに問い詰めようと、言葉を喉元まで運んだが、着ていた服が、体のラインをそのまま表すものだったのを思い出し、言葉を飲み込んだ。

 ブラジャーとセットで、パンツも付いていた。光は、何も仕込まれていないことを確認し、ハーフパンツとパンツを降ろした。

 別に変える必要は無かったけれども、体液で布製のパンツがぐちょぐちょになっていたという理由と、有事のことを考えて履き替えることにした。

 次に、新しい黒のインナーを着る。Vネックのインナーで、体にぴったりと張り付いた。そして、タイツ。生地は厚く、温かい。

残ったのはジーンズ生地のショートパンツと、少し丈の長い、白く無地のパーカー。前者から後者の順で着た。光は傍にあった鏡で、自分の容姿を見る。


 ノーラの事だから、変な服でも着せるのかと彼女は思っていた。しかし、鏡に映った自分は、それを裏切るかのような、シンプルにまとまった姿だった。


「もういい?」


「うん」


 ノーラは椅子の軸を回し、着替えた光の姿を注目する。


「うん。やっぱ素材がいい子は、シンプルにまとめた方が可愛く見えるわね」


 思い描いた通りという口調で、ノーラは言う。

 ノーラの視線に、光は恥ずかしくなって顔を下にそらす。


「あたしは、光の国にも滞在したこともあるから、どういう服装をしていたかぐらいは、薄っすらだけど覚えてるわ」


 光は、こういうのに慣れていなかった。戦場続きの毎日で、おしゃれとかは二の次だったからだ。だから、照れくさくとも、嬉しくもあるこの気持ちを、どうすれば良いのかわからなかった。


「とりあえず‥‥‥。その‥‥‥。ありがとう」


「どういたしまして、気に入った?」


 光は、戸惑いながらも、小さく、静かに頷いた。


「そういうのは、ちゃんと『はい』って伝えるのよ」


 ノーラは光が目線を下に反らしているうちに近づき、光を抱きしめた。


「うわぁあ」


 光は不意を突かれた声を上げる。


「ね。せっかくペアになったんだから楽しくやりましょ」


 光は頷いた。結局、声には出せなかった。

 けれども、二人の距離が縮まった気が、心のどこかで感じられた。




 ご購読ありがとうございました。

 まだまだ続きます。どうぞよろしくお願いします。

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