解放の光 前編
六星座の会議が行われた。六星座に集ったのは三人だけで、他のメンバーは任務中で留守だった。三人は六星座でも古株のヤノジュ・ミハエル、フェルナンデス・F・アギト、マーダ・クロノエが席についていた。
「ご苦労だったな、まあつい先日あったばっかりだけどな」
軽口をたたく六星座の中でもまだ新参者フェルナンデス。先日の組織ライズの壊滅に作戦に出場し壊滅に追い込むことに成功させた仲間。優男。女には弱い。
「その少女をどうするのかね? シルクよ」
エルフと人間の間に生まれし存在ハーフエルフ族。高度な科学技術・魔法技術を共に研究し高い地位を手にした学者。現在は老衰で研究は弟子に任せているが、いまだ融合技術(科学と魔法の組み合わせ)の開発をひっそりと続けている。ヤノジュ・ミハエル。
先日確保した奴隷少女A9082。名前もなくいく宛てもないかわいそうな女の子である。書いてであったサイモン氏はすでに逮捕され、いまは裁判中の身。しかも、国を売ってまで少女を手に入れ、他国へ逃亡したなどの重い罪によって今後の状況が気になるところだ。
「ラグエル様はなんとおっしゃっていましたか?」
ラグエル・オーリヴァ。六星座の最も古株。六星座を立ち上げ、〔一夜戦争〕の事実を知る数少ない方。重い病にかかり、眠ったままの生活が続き、会議にも数年に一回は起きてこられるかどうか怪しい現状が続いている。
「ラグエル殿は、いまだ目が覚めておらぬ。我らで解決するしかなにのだ」
「左様ですか」
ラグエル様はまだ眠ったまま。起きてくる様子は当分ないようだ。ヤノジュが答えたのなら事実だ。
「個人的な意見ですか。鍵が取り出されるまでの間、六星座のみんなで守るということはできませんでしょうか?」
個人的な意見だ。素直に通るか怪しいところだ。
「…俺は少し違う見方をしていたんだがな」
重く口を開いたのはフェルナンデスだった。
「俺は相棒……シルク、君のそばで守っていてほしいんだ」
「おおぉ。それは的確な意見ですな。我も賛同しますぞ」
俺に保護責任として見ろということなのか? 冗談じゃない。単独孤独で任務に全うするのが俺だ。仲間などましてや不要。保護として傍にいるのも邪魔だけだ。俺はすぐに反対した。
けど六会議にいたメンバーは賛同するばかり、たった三人しかいないのに。押しのけられてしまった。不甲斐ない俺自身とともに少女の守護者として守らなくてはならないという新たな任務に足されてしまった。
六星座では半分以上のメンバーが賛同すれば決定となる。今回のメンバー人数は俺自身含めて四人。三人賛同してしまった時点で確定としてしまう。
もし、親友アリスティアや竜騎士ミッドナイト、双子のアルフィノ&アルセリアがいたら、きっと反対してくれたはずだ。もしくは別の見方も答えてくれたのかもしれない。
いや、いないメンバーのことを頼っても意味がない。決まったのなら、任務として遂行するまでだ。鍵さえ取り出すことが成功したら用済み。そう、そうなのだ。
「了解しました。俺が責任もって保護します」
俺はお辞儀をし、この場を去ろうとした。
一人の男が口を開きこういった。
「ひとつ任務が追加された。サイモン氏の代わりに跡を継ぐ人物が確定した」
マーダ・クロノエだった。
商人から貿易・関税など取り仕切る男。上半身がカモメのような姿をし、下半身が人間のような姿をした人物。
「サイモン氏の弟ジバンが跡を継ぐことになった。サイモン氏のことを含めて彼に直接渡してほしい書類だ」
マーダは懐から煙管を取り出す。火をつけ、ふーと息を吐く。すると煙が伝書バトのような形になり、“禁”と書かれた書類を口に食わせさせ、シルクの元へと飛ばした。
シルクの手に渡ると同時に伝書バトは煙となり消えていった。
書類には「ジバン宛て」と書かれているだけで、他は真っ白い紙だった。中身は不明だが、高度な魔法が掛けられているのが指で触れた瞬間からわかった。
ジバン以外の者が開けたら、命を奪うという仕掛けだ。
シルク自身は魔法具〈一定時間魔法ダメージ無効〉効果がつけてあるおかげで命が奪われるということはなかった。シルクはマーダに睨み、なんで自分で行かないと。
マーダは首を左右に振るばかりで答えを返すことはなかった。触れている限り命を奪う魔法は発動し続けている。魔法具の残り時間を含めてそう時間がないと悟ったシルクは早々に六星座の会場から出る。
会場の前で待たせていた少女を連れて、サイモン氏の弟ジバンに向かっていった。
ジバンに到着したのは数分後だった。転送装置であっという間だったからだ。
小国バロッサに早い乗り物を使ったとしても一日かかってしまう。けど、六星座の会場には直接国へ瞬間移動できる装置、転送装置がある。
ヤノジュが開発したもので、科学技術による座標を的確に表示し、魔法というエネルギーを外へ逃がさない役割をもち、魔法技術で送りたいものを瞬時に送ることができる機能を果たしている。二つの組み合わせによる開発は当時、ものすごい反応があり、一年もしないうちに全大陸で使用されるようになった。
けど、敵国や武器を持った野蛮人などのお手軽侵入されてしまうという理由でよっぽどな地位を持つ人物か、六星座、お国のお偉い人たちしか使用できなくなってしまっているという悲しい結末へと運んでしまっている。
現在は、パスポートやIDカードでも移動ができるように改造され、配置されている。
「兄の件につきまして、誠に申し訳ございませんでした!」
ふかふかと謝罪され、シルクは戸惑う。やったのは弟じゃない。家族であってももはや赤の他人だ。兄のしでかしたことは兄の責任であって、家族の責任ではない。そう言って、妙に納得してくれた。
「それで、こちらに何のようでございますでしょうか」
兄のサイモン氏とは打って異なる性格のようだ。穏やかで話しやすい。マーダから預かっていた書類を弟ジバンに渡した。弟ジバンは書類を見るなり、慌てて走っていった。そのとき、何枚か書類が落ちてしまう。呼びかけても振り返ることも回収することもせずに奥の部屋へと入って行ってしまった。
なにか大事なことが書かれていたのだろうかと落ちた書類に目を通すが何も書かれていない。白紙のままだった。本人以外には見えない魔法のペンの仕業だろう。味方でも要人ということだ。
ジバン氏が戻ってきたころには、血相をかきながら「これをマーダ様にお渡ししてください」と積荷のようなものを渡された。大きさはそうないものだ。子供でも運べるお手軽で軽いものだった。真っ白い箱というのがなんだか気になるが、再びお使いとなるというのはしんどいものだと感じる。
転送装置によって大事な書類や秘密類のものは送れない。そんなシステムにさせた国民を憎たらしく思う。どんないいものができても使い勝手が悪ければ、あれもこれも禁止、禁止だ。
まあ、大事なものだから仕方はないのだがね。
「ところで、少し面白い情報を耳にしましてね。なんでも奴隷船から逃げたとか…」
切り出したジバンから聞いた話は、どこかの貿易商人から譲り受けるはずだった奴隷を脱走してしまったという。その脱走した人物は高価格で取引される予定で、隣の国バレムに運び込む最中だったようだ。
高価格という提示した貿易商人はすでに組合ギルドから冒険者、傭兵といった組織に懸賞金として配布してしまっていた。価格は商人にとってはこれっぽっち。ギルドだと施設を一回り大きくできる。傭兵や冒険者にとってはしばらくは暮らして行けれる額だ。
「逃げたという人物はいったいどんな方なのですか?」
「ええ、なんでも耳に猫耳、頬に髭を生やした少女だという話です」
「少女?」
またしても少女。昨日も少女だったぞ。貿易商人たちはいったい何人の少女を逃がしたら気が住むんだ。というよりも女の子が多いのはなぜなのか。男も混ぜろと心の中で大声を上げてしまう。
「はい、まだ成人も迎えていない年代だという情報です。しかも、珍しい異能力を持っている少女だとかで…」
その言葉を聞いて、シルクはある提案を思いつく。少女を助けることができれば、昨日助けた少女を代わりに世話してくれるのかもしれない。たとえ奴隷であっても他生の心得はあるはずだ。もし、知らなくても教えることができる。六星座にもその術を知っている人もいる。
シルクはジバンに感謝を述べ、「俺も助けに行きます。六星座の紋章にかけて」とカッコよく胸に右手で握った拳を軽く置く。六星座の誓の言葉だ。
このとき、魔法が発動する。六星座の紋章が光を放ち、シルクを包む。大きな花がシルクの足元に出現し、シルクを覆い隠す。再び花が開かれたとき、シルクの紋章は少し変わっていた。
六角形のうち一か所に白く光り輝く宝石が宿っていた。小さいけど光り方はまぶしいほどに明るい。光が見える人物は同じ六星座のものだけ。だから、周りが見えるはずもない。
「………」
少女の目が合った。黙ったままの無表情で無垢な少女がずっと白く光る六角形の一か所に見つめていた。これが見えるのかとシルクは驚くが、すぐに気のせいだと思い、目を逸らした。
少女を連れ、逃げた場所を特定するために、一度、ヤノジュがまだ滞在しているだろう六星座の会場へと戻った。
預かった書類もこのまま持って出歩くことはできない。マーダに渡して準備を整えてから出発しよう。面白くなりそうだ。シルクは弾む鼓動にワクワクしながらヤノジュとともに現地へ向かう。