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最後の少女 後編

「ひとりで突っ走るバカはどこにいるのやら」


 腰に下げている剣に触れようとするシルクをバカにするかのようにさっそうと姿を現す一人の優男。


「フェルナンデス!」

「瞬間的かつ効果時間長めの眠り薬だ。調合まで時間かかっちまった」


 バタバタと倒れる少年少女の兵士たち。剣や槍、弓が地面へと転がり、命令を聞くという脳の伝達が途切れていく。先ほどまでサイモンを尊敬する眼差しと敵と見出し初めて殺すという殺意を抱いていたその場の空気は虫の声が聞こえるほど静かになった。


「お、おまえら!?」

「あらま救世主様が身ぐるみはがされてしまいましたぜ!」

「っぐ!」

「来るのがもう少し遅ければ、優雅に阻止できたのにさ」


 シルクがフェルナンデスに口をこぼす。


「お前がやる優雅っていうのは危険すぎる。ラグエル様だって、認めていないだろうそんな技」

「認めるのはラグエル様じゃないさ。それに、もう数年がたつのにまだ眠っている老人だ。認められるまま待っていたら、誰かに先越されたら、誰が責任取ってくれるんだ?」

「俺が責任取れってのか?」

「誰が君にっていったの?」


 シルクとフェルナンデスが口喧嘩し始めた。二人がそろったときは必ずと言っていいほど喧嘩が起きる。互い両者能力的に認め合ってもかみ合わないところは必ず出てきてしまう。


「おい、サイモンという卑劣な奴がいなくなっているぞ!」

「あらま。喧嘩中に逃げるとは飽きっぽい人だね」

「とはいえ、「兵士たちは洗脳されていた」と報告しておけばいいな。どのみち彼らは自由の身だ。俺らがやれることはこれ以上の犠牲者を出さないことだ」


 さて、サイモンの後を追う。彼曰く、旅の準備と言っていた。この大陸を出て逃亡してしまう可能性がある。そうなれば、権限がない俺らは用済みとなってしまう。


 そうならない前に何としても捕獲しなくてはならない。


「少女とサイモンのどちらかを捉える。 裏表で決めよう。 俺は表」

「どっちって…両方仕留めればいい話だろーが。まあ…裏で」


 シルクの指によって弾かれるコイン。1ギニが宙へ舞う。縦に回転するコインが表裏どちらに向くのかシルクの手のひらに落ちたとき、その運命が開幕する。

 なかを覗くと答えが見えた。


「表!」


 シルクが正解だった。少女の奪還を引き受け、サイモンの逮捕はフェルナンデスが請け負うこととなった。


「っち! クジ運ねぇーからな」


 フェルナンデスはそう言っていたが、女性との運勢が比べればフェルナンデスの方が一枚上手だ。女性関係はフェルナンデスの方が扱い方がうまいのだ。


「さーね。そのサイモンはどこに行ったのか、わかるのか?」

「うん。発信器を取り付けてあるからね。ほら」


 頭上に人差し指を向ける。そこには一羽の鷲が飛んでいる。鷲はすべてを見ている。サイモンがどこに逃げ、どこへ向かっているのか。それを知ることができるのだ。シルクの魔法のひとつ。創作魔法ユニークマジック。相手に継承することはできないが、個人的にどのような過程で生まれ、発動できるか指定・設定することができる。


「サイモンと少女の行方はどこだい?」


 シルクの尋ねに鷲は付いてこいと大きく羽ばたき一直線に西の方向へ突き進む。「あっちだ」とシルクの声とともにフェルナンデスも走り出す。


 向かった先には馬車の荷台に少女を乗せているサイモンと凶漢の男二人がいた。サイモンは馬車に凶漢の男を二人載せ、荷台にサイモンと少女が姿を隠し、近くに通りかかるであろう列車に乗っていく先方のようだ。荷台の大きさも列車の荷台の大きさと同じだ。外見もなるべく似るようにして細工してある。


 これならば、ただ荷台を引いているだけの馬車。列車に乗れば海外へ逃亡が成功する。もし、途中で見つかっても雇った凶漢の男たちが何とかしてくれる。かなり高いお金を支払わせたのだから。


「いいか! 列車にうまく乗せれるまでは私は一切、口を出さない。お前たちで行動し、そして列車に乗せれたらお前たちは自由だ!」


 凶漢の男どもは首と両腕、両足に罪を犯した者たちがつける手錠をつけられている。手足は伸ばせれるようにある程度は距離を開けることができるように長さが調整されている。


「自由…あの凶漢たちもまた、洗脳済みというわけか…」


 フェルナンデスの呆れた息が吐かれる。洗脳の繰り返し、サイモンはよっぽどの臆病で用心深い男だったようだ。あんな方法を使わずとも転送魔法とやらで移動すれば細工までして逃げる必要はないのにとつくづく思ってしまう。


「凶漢と悪党に分かれたな」


 先ほどの取引が無効となる。サイモンと少女を分けるはずが凶漢を相手にするかサイモン逮捕&少女救出の二つの選択に分かれてしまったのだ。


 あの凶漢たちがつけていた手錠。あれもなにか仕掛けがあるのだろう。うかつに攻撃するのも危険すぎる。けど、凶漢たちを倒さなければ、容易に近づけない。


「俺が凶漢の相手をしてくる。その間に、逮捕と救出はお前が行け!」


 意外な素直っぷりに思わず「「お前いつそんなに素直になったんだ!」という顔はやめてくれ」とフェルナンデスに返された。


「コインの再度は時間食ってしまうし、それに、シルク…君の魔法があれば簡単に捉えれるだろう。だけどな、今回の任務は二人で捉えることだ。お前単独なら、お前の自由だが、協力だ。それは頭にいれておけよ」

「知っている。それに、―――もう済んだ!」


 バッサリと荷台と馬車が分裂する。いやスパッと切れた。馬車はそのまま勢いよく突き進み、運転という技術を失った荷車はそこら辺の木にぶつかり停止した。


「おまえ……」

「これならスパッと分けれた。あとは、よろしく頼むぞ」

「はぁー…」


 フェルナンデスは再度大きなため息をした。こういう性格だから組みたくはなかったと上昇部に宣言したのだが、却下された。シルクは単独だと六星座の中でも三番目に強いが、誰かが止める役割がいないと上限なしで暴れてしまう。だから、必ず一人は相棒として見張りとして付きそうなのだとか。


 シルクの行動力・戦闘能力は確かに俺よりも上手だ。けれど、相棒という心強いという感じ方をシルクは知らない。それが教えるのも大事だとラグエルはそう言っていたが…。


「難しーぜ。複数人の不倫した女を納得せるよりも…」


 シルクの後を追って崖から飛び降りた。



 動きを停止した荷台から姿を現すサイモンと無表情の少女。藁のおかげで怪我はなかったが、荷台はグチャグチャになっており、もはや列車の荷台としてのカタチはしていなかった。周りと化ける魔法も溶けてしまっており、これでは再度専用の魔法使いにお願いしなければ修復不可能となってしまっている。


「だれが…これを…」

「あれ? 無事だったんだ。よかったー」


 空から舞い降りるシルク。突然の出現にサイモンは盛大に転んだ。お祭り騒ぎをした小僧に思いっ切り突き飛ばされたときのような感じに。


「おまえ…なぜここが分かった!?」


 空に飛ぶ鷲に指をさす。サイモンもその指先を目で追い、ようやく理解する。鷲が追跡し場所がばれた。準備という時間はシルクにとってはあくびをするだけの時間でしか取れていなかったのだ。


「おまえ…何者なんだ? ただのギルドのものでもねぇ、冒険者でもない。警察官か? 帝国のスパイか?」

「帝国…スパイ?」


 一瞬口にした“帝国のスパイ”という言葉。少なからず恐ろしく思っていたがこの一件に帝国のスパイが関係していたという事実をサイモンは口にした。帝国のスパイと接点があったということを。ということは、少女をこのまま連れていくという辻褄もわかる。


 海外に逃亡するなどサイモンはもう財産も知人もない。少女を連れて海外に出るなんて無謀すぎる。つまり現地で手引きしてくれる連中、協力者がいるということだ。一時は商人か領主の関係者と思っていたが、しょっちゅう抜け出しては遊んでいた領主サイモンだ。そんな人脈もないし、同じ立場と触れ合おうとする人でもないという情報はあった。


 帝国スパイ。少女は帝国も欲しがっている。少女を誘拐させ、財産も持ち出せればなおかつ海外生活も楽になる。そう考えて行動をしたということなのか。


 シルクはあるバッチを見せる。六角形に記された★(星)マーク。それぞれの角には模様が描かれている。小さいけれども大きくする虫眼鏡と同等の力の魔法でそのバッチをはっきりと目にする。


「〔六星座〕!?」

「そうだ」


 六星座。神々の封印の事情を知る数少ないメンバーで構成された組織。名前と存在は各大陸で知らされており、王族よりも権限があると噂されている程の権力者。国のいざこざや問題、悪事などを成敗、見張る役目もしている。

 数百年前から存在し、名前が枯れることなく存在し続けるある意味伝説と呼ばれ、ある意味見つかった時は悪運であったと言われるほど。


 そのバッチを持つとされる六星座の刻印を持つ人物が目の前へと現れた。サイモンは思わず偽物だと罵声するが、先ほど見せた馬車と荷車を分けた技を再度見せつけた。


 へこみグチャグチャに押し込まれていた荷台がさらに嵐でも吹かれたかのように中身の木箱が砕け散り、財産が散乱する。瞬きする瞬間もなく積み荷が崩れた。


 その異様な瞬間とどうやってそうなったのか頭では理解できない範囲。驚異的な人物と自分の立場がこの先ないことを案じる四つの恐怖と絶望が一斉に舞い上がる。


 サイモンは崩れ、「あははは…はは」と笑みをこぼしながら空を見上げる始末。束縛の魔法で地面からツタが飛び出し、サイモンを両手足、身体を縛り付け、地面に固定させる。


 サイモンをフェルナンデスから貰って(奪って)おいた眠り薬で一旦最後のお祭りを眠りの中で味わってもらい、少女を救出した。


 少女は無表情のままだったが、この先どうするのか六星座に委ねないといけないので、一旦転移魔法で少女とサイモン、財宝を六星座の基地まで移動した。


 移動した先で、フェルナンデスと偶然にも遭遇し、凶漢の相手はどうだったのかを聞いたところ「つまらなかった」と言い放ち、その場から立ち去ってしまった。


 後から聞いたのだが、サイモンが崩れる少し前に鎖をすべて切ってしまったら、凶漢の男は倒れてしまったのだという。鎖は魔法が掛けられており、鎖が解き放つたびに術者にダメージがいくように仕掛けられていたらしい。


 製品は帝国のものであることは証明済みで、あの凶漢たちの洗脳や鎖はどうやら帝国の仕業だということだ。そのため絶望とともに鎖解除のダメージだ。頭がいかれてしまったのだろう。何か変なことをせずに済んだのはいいのだが、サイモンの逮捕後のバロッサの領地についての争いが起きたのは数時間後だった。


 少女はシルクが預かることになった。神々が封印した最後の鍵は少女の中にあるらしい。心の壁という魔法使いによって鍵を心の扉に施錠したために少女の記憶や感情を閉じ込めてしまったということだ。


 少しずつだが少女の記憶、感情が思い出されるようになれば、鍵も自然と出てくるのだろうという結論に至った。


「シルクよ、しばらくは少女の安全と管理を任せてもらうよ」


 ウソだろと思った矢先、フェルナンデスから「これでお揃いだな」と言われたのが一番傷ついた。不倫相手や女性とナンパし続けるフェルナンデスと一緒にするなと。


 この一件はこれで終了。

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