無人島生活二日目 遺跡かく語りき
「マウー」
「どうどう、ミュン、落ち着くんだ」
俺が後ろから幼女を抱っこすると、テーブル状のそいつはホッとしたようだ。
『ミュン、オチツク、ミュン』
「あんたも、ズーガーみたいに、俺の言葉をちょっと分かるのか? ええと、言った単語を覚えていく?」
『コトバ、ワカル。タンゴ、オボエテイク』
なるほど、理解した。
つまりこれは、俺が言葉を教えれば教えるほど、流暢に喋るようになるわけだ。
これが何なのか分からないけれど、ミュンが関わっているらしいことは確かだ。
だが、このテーブルやズーガーにとって、ミュンはコミュニケーション不能のモンスターみたいなもんだ。
俺が間を取り持たないと、みんなミュンに叩かれて壊れてしまうかもしれない。
「ムムー! アマチャ、ムー!」
「なになに、どうした? ああ、あの中に喋る人がいると思ったのか! だから叩いてたんだな」
「チャ!」
おお、ミュンも思考しているんだな。
俺は彼女を抱っこしなおして、適当なところに座ろうとした。
『ピピガー』
テーブルがズーガーみたいな音を立てると、床がニューっと盛り上がってきて、座席になった。
「あ、どうも」
腰掛ける。
さて、どうしたものか。
こっちから話しかけないと、向こうは言葉を拾って返してくる事ができない。
逆に、俺が言葉を発すれば、それを一瞬で理解できる性能を、このセントローンというテーブルは持っているようだ。
「ズーガーが得た情報を、そっちに反映してる?」
『ハンエイ、シテル。アマチャ、シャベル、セントローン、ワカル』
「ああ、それ! 数多ってのが俺の名前で、アマチャはミュンが上手く舌が回らなくてだな……」
『アマタ』
「そう、それ。まず聞きたいんだが。ここは、どういう場所なんだ? 俺とミュンが流れ着いたけれど、昨日から今日まで、一人の人間にも会ってない」
『ピガー』
セントローンは音を立て、テーブル状の体をゆっくりと起こしてくる。
のっぺりとした面がスーッと透き通っていく。
その中には、カラフルな砂のようなものが大量に入っている。
これが、ざわざわっと動き出す。
お……?
これは……砂が反転し、色が変わる。
全体が青い砂で埋まり……その中央に、歪な形の緑の砂の山。囲むように黄色い砂のリングがくっついていて……。
「あ、これ、島か! 上空から見た地図?」
『チズ』
「マー?」
「これはな、ちず、って言って、俺たちがいるここ。ここは、こういう形してるんだ」
「チズー? カタチー」
未知の情報を得て、ミュンが難しい顔をする。
あとで砂の上に地図を書いて教えてあげるとしよう。
しかし、改めてセントローンが示した図を見て、ここは孤島だったのか、と少なからぬショックを受ける。
どうりで、誰にも会わないはずだ。
それどころか、ヤシガニ以外の動物にも会ってないんじゃないか……?
最初は、森のなかに危険な動物がいるんじゃないかとドキドキしていたが、さっきのさっきまで、全く会うことは無かった。
「なあ、動物はいないのか?」
『イナイ』
「じゃあ、ここは植物しかいないのか……。いや、待ってくれ。ヤシガニがいたが」
『ピピピガガガー!!』
俺がヤシガニという言葉を発すると、途端に部屋中が赤く明滅し始めた。
『ヤ、ヤシガニ! ヤシガニ……!!』
どうやら触れてはいけない情報が存在するようだ。
なんだかよく分からないが、ヤシガニはNG、と。
ズーガーのボディも、ヤシガニに壊されていたしなあ。
「落ち着け、セントローン。ええと、で、あんたたちは、ミュンが大事、と。それで、俺たちに一体どうしてほしいんだ?」
『ミュン、セントローン、タチ……ウウウー』
「語彙が無いんだな……」
イマイチ話が通じない。
参った。
すると、セントローンから俺に向けて、ニューっとホースのような物が伸びてきた。
先端が平たくなっており、そこに銀色の棒が乗っている。
『アマタ』
「俺にくれるの? ミュンじゃなくていいのか?」
『ミュン、タタイテ、ダメ』
「あ、そうね」
納得する俺。
案の定、ミュンは物欲しそうに俺が手にした銀色の棒を見つめている。
「ミュン、これは俺の。ズーガーはミュンのだろ?」
「ムー」
「それでセントローン、これ、何?」
『シマ、ショクブツ、アマタ、ドウスル』
「……つまり……この棒で、植物をどうにかできる、ということ?」
『ピピ』
なるほど。
恐らく、俺の勝手な受け取ったイメージなんだが、こいつはミュンと何らかの関わりがある存在なのだ。
しかも、高度なやり取りが出来る高性能AIみたいな存在だ。
で、本当は彼等は、ミュンを保護したいのかもしれない。だが、ご覧のようにミュンは好奇心任せにどたばた走り回り、気になったものをバンバン叩く系幼女だ。
AIでは手に負えまい。
ということで、ある程度の権限みたいなものを俺にわたして、ミュンを守ってもらう、と。
俺は、この解釈をセントローンに向けて話す。
「合ってる?」
『アッテル』
よし、ならば、これを使って色々なことが出来そうだ。
とりあえず、今日は……家を作る。ミュンを星空の下で二日連続で寝かせるなど、俺の良心が許さない。
「ミュ?」
「今夜は屋根の下で寝られるぞ」
俺は膝の上にいるミュンの頭をぐりぐり撫でるのだった。




