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無人島生活十六日目 ミュンのパン屋さん

 生地から、ぎゅっぎゅっと搾り出すようにしてカニを追い出す。


「ピョイー」


 搾り出されて、カニがしんなりした。


「アマチャ、レー!」


 完成した巻き巻きパン(ちょっと潰れてる)をミュンが差し出す。


「よーし、焼くか!」


「チャー!」


 いよいよ、パン焼き開始だ。

 窯に入れる木べらの上に、ミュンがパンを載せる。

 俺のやり方を見ていたようで、なかなか堂に入っている。練習してたのかもしれない。

 そして、俺に支えられながら、木べらをそろーっと釜の中に差し入れて、パンを上手いこと置く。

 蓋をして、後は焼き上がりを待つばかりだ。


「ムフー!」


 ミュンは鼻息も荒く、どや顔をしながら振り返った。


「よくやったな! ミュン、凄いぞ!」


「ムフーフー!」


 ミュンが得意げにふんぞり返った。

 なでなでしておく。


「ピョイー」


 早くも復活したカニが、トコトコと走ってきてミュンの太ももにぺちんとぶつかる。

 おや、これはカニなりの抗議かもしれない。


「チャ? カニー」


「ミュン、カニを麺棒の代わりに使ったのは良くなかったなー。カニが怒ってるぞ」


「ンー」


 ミュンが難しい顔をした。

 まだ、他人を麺棒代わりに使ったらよくないという事が分からないのだろうな。

 ミュンもまだ小さい子供だ。


「いいか。パンの生地でぐるぐるにされたら、べたべたして大変だろう。なので、次はちゃんと麺棒を作ろう」


「ン!」


 分からないなりに、ミュンは分かる努力をしたようだ。

 神妙な顔をして、カニに向き直った。


「カニ、ミュンネー、レ、ナノ。モー、カニネー」


「ピョイー」


 カニがジャンプした。

 そしてミュンの懐に飛び込んでくる。

 どうやら和解したらしい。

 仲良きことは、美しきかな。


 パンが焼けるまでの間、しばらく彼女たちが遊んでいる様子を眺めることにする。

 途中からヤシガニがやって来て、三人で遊びだした。

 砂に何か、奇怪な図形を書き、これについて三人でわいわいと言い合う遊びらしい。

 ミュン語、カニ語、ヤシガニ語。

 全員言語が違うのに、どうも意思が通じ合っているように見えるのが不思議だ。

 最後はミュンの描いた図形が一番だということになったようである。

 図形を三人で囲んで、盛り上がっている。

 実に不思議な遊びだ……。


 そうこうしていたら、窯から香ばしい匂いがしてきた。

 もうすぐ焼きあがる。


「アマチャー!」


「もう少し、もう少しだぞミュン。焦ったら生焼けになる」


 散々パンを焼いて、タイミングは掴んでいる。

 早過ぎず、遅過ぎず。

 ちょうどいいタイミングは……ここだーっ!!


 俺は気合とともに、窯の蓋を開けた。

 大量の煙やら蒸気とともに、こんがり焼けたパンが登場する。


「パンー!!」


 ミュンが両手を挙げて叫んだ。

 ミュン謹製のカニ巻きパンは、見事にふっくら焼きあがり、中空の特大ロールパンみたいになっている。

 これは凄いな!

 俺の片手では余るほどのサイズだ。


「これがミュンのパンだ!」


 俺がパンを取り出し、掲げる。

 すると、カニとヤシガニが飛び上がったりハサミを上下させたりして、興奮する。

 いつの間にかズーガーもいて、『ピピー、パン』とか言っている。

 ミュンは得意げに、島の生き物たちを見回した。


「ネー、ミュンノー」


「ピョイー」


「もがー」


『ピピー』


 うん、言葉は分からないが、島の生き物たちがミュンをリスペクトしていることだけは分かるな。

 見事などでかいパンに、みんな感心しているようだ。


「でもさすがに、このサイズだと食いづらいよな。よし、俺が千切って分けてやろう……」


 俺は座り込み、パンに手を掛けた。


「アマチャ、メー!」


 そこに待ったをかけるミュン。

 え、なに、自分でやるの?


「ン」


 深くミュンは頷いた。

 そして、パンを手ずから千切っていく。


「レ、カニ!」


「ピョイー」


「レ、ヤチガニ!」


「もがー」


「レ、ズーガー!」


『ピピー』


「レネー、アマチャ!」


 おお、俺には特大だ。


「ありがたき幸せ」


 うやうやしく受け取ったら、ミュンはキャッキャと喜んだ。

 今日は、さながらミュンのパン屋さん開店だな。

 並んで食べたパンの旨いこと。

 でかいから、ちょっと火の通りが甘い所とか、焦げてる所とか、ミュンの練りこみが足りない所もあるが、それはご愛嬌。


「ミュンは初めてだってのにこんな凄いものを作ってしまって、天才ではないか」


 思わず褒めながら頭を撫でると、ミュンが口をパンでいっぱいにしながら、「ムフーフー」と笑った。 

 この笑顔を見るために、しょっちゅう一緒にパンを焼いてもいいな。

 飽きないために、塗るものとか色々用意していかないとなあ。


 そんなことを考えつつ、パンを齧った。

 すると、遠くを見ていた俺の目に、何かが近付いてくるのが映る。

 あれは……船だ。

 ちょっと待てよ。


 帯がわりの紐に挟んでおいたコントローラーを取り出す。

 確か、島にあるあらゆるものはナノマシンが関わっていたはず。

 だからもしかして、空気も……。


「空気よ、望遠レンズになれ」


 命じながらコントローラーを振ったら、成果が出た。

 俺の目の前にある空気が変化し、遠くの風景を映し出すようになったのだ。

 そこに見えたのは、船の上。

 手を振っている見覚えのある男の姿。


「アフサンじゃないか!」


 アフサンが戻ってきたのだ。

 しかも、振っている手には何かを握っている。

 あれはなんだろう。

 書類?


 そんなわけで、平和な島にまた新しいイベントの予感なのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミュンがかわいい!いずれまた再開してほしいです
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