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無人島生活十六日目 ミュンの挑戦

「アマチャー! ハヨー!」


 今日もミュンに、腹をぺちぺちされて目覚めた。


「おはよー。ミュンは元気だなー」


「チャ!」


 お元気に返事をするミュン。

 俺が起き上がるのも待たず、トコトコと家の出口に向かってしまう。


「あぶないあぶない」


 慌てて追いかける俺。

 だが、ミュンは慣れたもので、するすると梯子状の昇降口を下りていってしまう。

 この二週間ちょっとで、完全に家の構造をマスターしたな!

 子供は覚えが早いなあ。


 一緒に顔を洗い、水を飲み、健康的にお通じをした後、さて朝飯だとなった。

 朝は適当に、フルーツと昨日の残りのパンで済ませる。

 食事中に、ミュンが何か言ってきた。


「アマチャ! ミュンネー」


「どうしたどうした」


 ミュンは、握っていたパンをもぐもぐもぐっと口に押し込むと、ハムスターみたいにほっぺたを膨らませてもぐもぐした。

 一生懸命噛んで、それから飲み下す。


「プウ」


「おおー、食べた食べた」


 拍手したら、ミュンがニコニコした。


「ミュンネ! パン、ルノー!」


「パンがどうしたんだ? まさか……」


「ン!」


 パン焼き窯と、俺が手にしているパンを交互に指差す。


「コネルル!」


 それから、パンをこねこねするジェスチャー。

 これはつまり、彼女は一人で最後までパンを作ってみたいと言っているようなのだ。

 何という事だろう。

 素晴らしい向上心だ!


「そっか、ミュンはパンを作りたいかー!」


「チャー!」


「よし、今日はミュンにパンを作ってもらおう。俺はお手伝いだぞ」


「チャ! アマチャ、オテチュ、ネ!」


 そうと決まれば話は早い。

 さっさとパンを食べきって、俺は今日の計画を立てることにした。

 粉にした小麦は、まだまだたくさんある。

 これを水とかで練って、生地にするところまで一気にやってしまおう。


 俺はコントローラーを使い、砂浜に作業台を作った。

 その上に、小麦粉と水を用意する。


「レ! ミュン、レ、ウノー!」


 おや?

 ミュンがいつも、おやつで食べているベリーのような果実を持ってきた。

 これを、パンに?


「ン! マー!」


 ミュンは小麦粉の中にベリーを混ぜると、手のひらでべちゃっと潰した。


「なんと大胆な! え、水を混ぜるの?」


「ン!」


 水を加えると、ミュンが小麦粉をまとめて、こねこねしだした。

 おお、いつもなら白っぽい生地が、ベリーを巻き込んでピンク色になっていく!

 まさかここまで見越していたのか、ミュン。


「きれいな生地だなー。ミュンは天才かもしれない。すごいぞ」


 思わず頭をなでなでしたら、「チャー!」と怒られた。

 作業中だった。

 ミュン先生は仕事を邪魔されることを嫌うのである。


 俺は近くでじっと見て、生地がこぼれ落ちそうになったら掬うという作業に徹することにした。

 おっ。

 おおっ。

 今回の生地、長いぞ。

 ミュンがどんどん、横に横に伸ばしていく。

 蛇のように長い。


「ミュン先生、今日のパンは長いパンですか」


「ン! パンネ、ムウウウーッテ!」


 ミュンが、粉だらけの手を持ち上げ、左右に、いっぱいに広げて見せた。

 なるほど、今日のパンは大作になるらしい。


 やがて、こねこねし続けていたら、ミュンは疲れてしまったようだ。

 プウーと息をつきながら、ぺたんとへたり込んだ。

 そこにすかさず、果実を水に絞った飲み物を差し出す俺。

 ミュン先生の疲れを癒すのだ。


「アーッ! アマチャ、レー!」


「お水を飲んで一休みだな」


「ン!」


 ミュンは木のコップを両手で受け取り、ゴクゴクと飲み干した。

 口の端から汁が垂れて、洋服の染みになる。

 子供の服は汚れるものなのだ……!

 後で染み落とししておこう。


 休憩が終わったミュンは、また作業に取り掛かった。

 ここまでの間で、既に一時間くらい経過している。

 大掛かりな作業だ。

 額に汗しながら、ミュンがうんうん唸って生地をこねていく。

 ついに完成したのは、作業台の上をくねくねと、三往復くらいするほどの長い長い生地だった。


「チャー!」


「おお、完成! 長いなー。すごく長い」


「ネー」


 ミュンが誇らしげに笑う。


「ところでミュン、これは長すぎて、窯に入らないんだけど」


 俺が窯を指差して、生地を指差し、ジェスチャーでとても無理っぽいと伝える。

 ミュンがハッとした。

 そしてしょんぼり。


「ムー」


 だが、こんな時こそが大人の出番なのだ。


「ミュン、見てろよ。長ーいパンも、こうすれば焼けるんだ」


 細長い生地の端を持った俺。

 これを、くるくる、くるくると巻き始めた。


「アーッ!」


 ミュンはびっくり仰天だ。

 彼女も生地の反対側をとって、くるくる巻き始めた。

 おお、左右から巻くのか!

 その発想はなかった。

 やがて、俺のくるくるロールと、ミュンが作ったふにゃふにゃロールが合流する。


「ムー」


 おや、ミュン先生はご不満な様子だ。

 どうやら、俺みたいに生地をきれいにくるくるできないのが気に入らないようだ。

 ミュンは何か妙案は無いかと、その辺をトコトコ歩き始めた。

 そして、そこへ、運悪くカニがやってくる。


「ピョイー」


「アーッ、カニー!」


 ミュンはそう叫ぶなり、カニをむぎゅっと捕まえて作業台まで持ってきた。

 そして、何をするのかと思えば……。

 なんとカニを使って、生地をくるくる巻き始めたのだ。

 なるほど、カニを軸にすればちゃんと丸く巻けるな。

 何しろカニは丸いのだ。


「ピョイー」


 世界の無情を嘆くかのように、カニが無表情に鳴いた。

 これで、ミュン特製のくるくるパンが完成だ。

 ここから生地を寝かせて焼いていくぞ。

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