無人島生活十五日目 まだまだあるよ付け合せ
さて、ジャムがしっかり冷えるまでは一日かけるとして。
今日はまだまだやることがある。
ようやく主食であるパンを作り、俺たちの食生活が豊かになってきたところだ。
パンと一緒に食べる副菜が欲しい。
それはなにか?
例えば、卵だったり、ハムだったり。
そう、この島、魚介類以外の動物性タンパク質に欠けているのだ。
「さあ、どうしたものか」
俺は腕組みをして考えた。
ズーガーやセントローンに頼んで、またなにか作ってもらうか?
それもいいが、例えば鶏などは、輸入できないだろうか。
何もかも自分で用意する必要はない。
必要なものは、外から手に入れるのだって立派な手段なのだ。
「よし、ラティファたちが戻ってきたら考えよう」
つまり、計画は後回しということになった。
では、今できる事はなにか。
手に入る動物性タンパク質による、付け合せの考案だ。
「カニカニー!」
「ピョイー」
眼の前では、ミュンがカニと追いかけっこしている。
カニは小さい鳥だが、なかなか早い。
逃げるミュンを、トテトテと結構なスピードで追いかけている。
あの様子では、一人と一羽はすぐにお腹を空かせてくる事だろう。
それまでに何か一品考えておきたい。
「パンに乗せる付け合せだろ……?」
浜辺にやって来て、じいっと水の中を見る。
この無人島には、ごく小さな規模の満潮と引き潮がある。
水が引いた後、磯のくぼみに貝や魚介が残されているのだ。
そして、こいつらを獲ってご飯にするのが、俺とミュンの日課。
食べるのは同じものだけど、料理の仕方でずいぶん変わる気が……。
「……そうだ、カルパッチョか!!」
俺の頭に電撃が走る。
魚を焼くばかりでなく、ペーストになるまでタタキにする。
そしてパンに乗せて食べれば……。
「いやいや、だけどやっぱり、ナマモノは怖いな」
考え直す俺。
何しろ、うちには小さい子供がいるのだ。
ミュンがお腹を壊したら大変だ。
カルパッチョ案はやめておこう。
では他に何があるだろう?
ナマモノではなく、火を通して、焼き魚や煮魚ではない料理……。
カルパッチョ状にしたものを焼いて、さらさらにして、塩で味をつければ。
「ふりかけだ!!」
ピンと来た。
そうと決まれば、やるだけだ。
俺は取り残された魚をつかんで、その辺に突き刺さっている金属板をまな板代わりにする。
魚をスパッと切り裂いて、ばかすか刃物で叩いてたたきにするのだ。
軽快にパカポコとまな板を叩いていたら、興味を惹かれたミュンが走ってきた。
「アマチャ! レー、ナーノ?」
「これはな、ふりかけを作ってるんだ」
「フカケー?」
おっ、俺の言葉を真似するのが上手くなってきたなあ。
ミュンは凄い速度で言葉を学習している気がする。
俺はニコニコしながら頷いて、たたきを火にかけることにした。
例の石油を取ってきて、これで焼く。
この石油、爆発もしないし、火をつけるとにおいも全くなくなるし、本当にいいなあ。
考えてみれば、石油かどうかすら怪しいな。
この島に来てから、火の元はもっぱらこいつに頼っている。
これ無しじゃ暮らせないな。
「よし、これで塩水をちょっと掛けて」
じゅわっと水が蒸発していく。
「マー!」
魚が焼ける香ばしい香りに、ミュンが鼻をくんくんさせる。
「アマチャ、レ、ネー。チャーノ」
「おっ、言いたい事はなんとなく分かったぞ。匂いがちょっと違うだろ。魚をたたいてから火に掛けてるからな。全然違う感じになるぞ!」
魚のたたきが、水分を飛ばされてパラッとした感じになってきた。
ちょっと味見。
うん、うまい。
「ミュン、もうお腹ぺこぺこだろ?」
「チャ!」
元気にお返事をしたミュンのお腹が、合わせたようにグーッと鳴った。
「キャハー!」
これがおかしかったようで、ミュンがけらけら笑い出した。
転がって笑う彼女のお腹に、不思議鳥のカニがぴょんっと飛び乗る。
「ピョイー」
「カニカニ!」
ミュンは、上に乗ったカニをわしゃわしゃとかき回した。
その間に、俺は料理の最終仕上げだ。
ここに、焼きあがったパンが用意してあります。
こいつに甘いジャムと、そしてふりかけ……!!
甘さとしょっぱさの、悪魔のマリアージュだ。
「いや、さすがにジャムに魚ふりかけはどうだろうな。どれどれ」
齧ってみる。
おっ!?
悪くない。
割と素朴な味付けのものばかり食べてきたせいか、甘さとしょっぱさの悪魔合体は、俺の舌を強く刺激した。
うおっ、唾液が出てくる感じがする!
「アーッ、アマチャー!」
ミュンが慌てて起き上がって、味見をしている俺を指差した。
「ミュンモー!! アマチャレ、ルノー!!」
おっ、ぷんぷん怒っている。
俺だけご飯を食べてずるいって言ってるんだろう。
安心しろミュン。
新作のふりかけは、パンとジャムともよく合うぞ!
ミュンのパンに、たっぷりジャムとふりかけを乗せた。
「さあ召し上がれ」
「チャー!」
ミュンが歓声をあげた。
ついでに、ふりかけとパンくずはカニにあげておこう。
鳥は猛烈な勢いで、パンくずとふりかけを平らげていく。
ミュンは大きく口をあけ、ジャムとふりかけが混じったところをがぶり。
そうしたら、彼女の目がまん丸に見開かれた。
「ン────!!」
俺のほうに真っ直ぐ伸ばされたミュンの脚が、ばたばたする。
そうか、美味しいか。
「パン! フカケー!」
「パンとふりかけ美味しいなー」
「ン!」
大きく頷くと、ミュンはぱくぱくぱくっと、凄い速度でパンを食べてしまう。
これは、俺も負けてはいられない。
ふりかけ多目で、ちょっと大人な味のパンを、俺はもりもりと平らげるのだった。




