無人島生活十五日目 今日の計画
「アマチャ! ハヨー!」
ミュンのいつもの声が聞こえてきた。
そして、バンバン、ポコポコと太鼓を叩く音。
昨日から引続き、ミュンの人力による目覚まし時計なのだ。
「おはよう、ミュン」
お腹にぼーんと乗られるよりも、全然いい。
「ハヨー!」
今日も朝から元気なミュン。
早寝早起きがミュンの信条なのだ、多分。
最近気付いたのだけれど、どうやら俺が寝ている間も、ちゃんとトイレに起きて行っているらしい。
夜中にごそごそする気配を感じて目覚めたら、ミュンがカニを抱っこして階段を上がってくるところだったのだ。
道理でおねしょしなくなったと思った。
一人でトイレ行けるなんて、偉いぞミュン。
ミュンの成長を感じて、グッと来る俺なのだった。
「さて、朝ごはんどうしようかね」
ミュンと一緒に家のはしごを降りていると、ミュンがハッとした顔をした。
「アマチャ、パン! パンー!」
おお、昨日のパンか。
ミュンはパンが気に入ったらしい。
それはそうだな。
この島で初めての、複雑な調理工程を経た食品であり、完全無欠の炭水化物だ。
「だけどな、ミュン。パンは焼くのに時間掛かるから、お昼に食べような」
「ンー」
ミュンが難しい顔をした。
どうしてもパンが食べたいらしい。
しかし、昨日作った生地は全部焼いて食べてしまったから、また位置から粉を作らないといけないのだ。
どうしたもんだろう。
「アマチャ、ゴハン、ネ。ミュンモ、ルーノ」
ミュンがジェスチャーを交えて、一生懸命語りかけてくる。
これは多分、ミュンもお手伝いするから、パンを焼いて、ということだろう。
そこまで言われては断れない。
「よし、じゃあパンを焼くか!」
「キャー! パンー!」
そういう事になったのだった。
途中、果物を齧りながら作業を開始する。
麦を採取して、ゴリゴリ潰して粉にして……。
……もっと楽に粉にする何かがあればなあ。
例えば、水車とか風車みたいなので……。
よし、今度作るか。
とにかく、クタクタになって粉を作った。
これに水を混ぜて、コネコネ。
ミュンは今度は、とても細長いパンを作っていた。
それをくるくるーっと丸める。
蛇みたいだなあ。
「チャー」
満足げに頷くミュン。
よし、今回のパンの造形は、ミュン先生に全部お任せしよう。
「ミュン先生、お願いします」
「チャモ! ミュン、ルー!」
ミュンはどーんと自分の胸をたたいた。
そして、えほえほ、と咳き込む。
どこで覚えたんだろう、そんな仕草。
さて、ミュンが工夫を凝らしたパン生地を練っている間、俺は石釜の温度調整だ。
薪に火をつけて窯の中を熱し、石が変色するころあいまで待つ。
「アマチャー!」
「できたか。うわあ、凄く独創的なパンだなあ」
一号、蛇型ぐるぐるパン。
二号、ヒトデ型? ひょろひょろパン。
三号、潰れた楕円みたいなパン?
「三つ目のこれ、なに?」
「カニー!」
ミュンがとてもいい笑顔で答えた。
そうかあ、カニかあ。
カニは自分が呼ばれたと思って、「ピョイー」と返事をしている。
この三つまでが凝った形をしていて、残りは飽きたらしく、適当なお団子だった。
これを窯に入れて、焼く。
「今度は、パンに塗るジャムとかバターが欲しいなあ。……そうだ。今日はそれを作ることにしよう」
パンが焼けるまでの間、俺は今日の予定を決定する。
やがて、ミュン先生が作り上げた、独創的パンの数々が焼きあがった。
蛇型ぐるぐるパンは、思ったよりもまともに焼けた。
縦に膨らんで、平たい丸いパンに螺旋の切れ込みが入っているみたいだ。
ヒトデ型のひょろひょろパンは、いい感じで腕の部分が膨らんで、本当にヒトデみたいになった。
これを見越してひょろひょろに作っていたのか……?
いや、偶然だろう。
最後のカニのパンは、膨らむと実にカニだった。
なるほどー。
どれも、見た目が結構いいぞ。
ミュンはパンを捏ねる天才かもしれん。
「もがー」
「あ、ヤシガニもまた来た」
すっかりパンの味を覚えたヤシガニが、凄い勢いでこっちにやってくる。
そして、ミュンの隣に行儀良く並んだ。
このヤシガニ、明らかに高度な知性があるよな。
何なんだろうなあ、一体。
まあ、今はパンを一緒に食べる仲間だ。
熱々のパンを、ヤシガニが均等に切り分けていく。
職人の技を感じる。
「ピョイー」
おっと、カニ、フライング!
パン目掛けて奪取したカニだったが、後ろからミュンによって捕まえられてしまった。
「カニ! メーヨ!」
ミュンに怒られている。
そう、パンに抜け駆けは無しなのだ。
俺は焼きあがったパン群の他に、用意していた食材を並べた。
これらをパンに載せて食べる。
スライスした果物とか、野菜代わりの果実とか。
ヤシガニからは、真っ二つに割った椰子の実が差し入れられた。
この内側を削いで、ココナッツパンみたいにして食べるのもいい。
手間隙掛かった分、豪華な朝食になった。
ミュンはお腹がぱんぱんになるまで食べて、ころりと転がった。
「マー」
苦しくて動けないらしい。
食べすぎだ。
後で、消化にいい植物があるかどうかズーガーに聞いておこう。
天然の胃腸薬だ。
さて、では本日。
ミュンのお腹がこなれてきたら、パンのつけ合わせ探しに出発しよう。




