無人島生活十四日目 麦を加工するのだ
まずはコントローラーを使い、手近な石を変形させた。
すり鉢の誕生だ。
そして、すりこ木を作る。
荒く石で砕いた麦をすり鉢に入れて、すりこ木でごりごり、ごりごり。
「アマチャアマチャ!」
「なんだい」
「チャモ、ルーノ?」
「これか」
俺がごりごりやる作業にミュンが興味を抱いたようだ。
説明するよりも、やらせてみた方が早いな。
俺がおいでおいですると、ミュンは膝の上にちょこんと座った。
彼女にすりこ木を持たせる。
そして、その上から俺が支えてっと。
「こうしてな。麦を、ごーりごり、ごーりごりってこすって細かい粉にするの」
「ゴーリゴリ!」
理解したようだ。
ミュンは鼻息も荒く、全身を使ってすりこ木を動かす。
硬い麦だが、石とすりこ木で擦られて、どんどん粉に変わっていく。
「ムフー!」
ミュンがふんふん鼻息を漏らしながら、ひたすらに麦を擦る。
ゴリゴリやればやるだけ、麦は細かい粉になっていくのだ。
そして、あらかた粉になった辺りで、ミュンは満足したようだ。
「マ!」
「おう、お疲れ!」
立ち上がったミュンが、んーっと大きく伸びをする。
隣でカニも真似をして、ちょーんと背伸びをした。
さて、その間に俺は、もう少し麦を粉にしておかないと。
ゴリゴリと擦り、それなりに麦粉の量を作っておく。
この麦、小麦では絶対ないし、大麦と言うにもでかすぎる。
麦としか呼びようがない。
ということで、麦粉だ。
「ええと、次に麦を水で練って、ちょっと置いて発酵させておくんだっけ」
俺は水を汲んできて、麦粉と混ぜ合わせた。
ぐにぐに、ねりねりやっていると、麦粉は粘り気を帯びて、一つに纏まってくる。
「アマチャー!」
「はいはい、ミュンもやりたいんだろ? 分かるぞー」
ということで、麦粉を練るための台を二つ用意し、二人で向かい合って麦粉を練り練り。
「ムギー! ネ、レーッテ!」
「そうだなあ。練り練りしてると、不思議な感触になってくるよな。ん? 食べるのか? 美味しくないぞ」
ミュンは練り麦粉をペロッと舐めた。
そしてすぐに、エーッと舌を出す。
やっぱり美味しくないよなあ。
ということで、麦粉はミュンにとって、おもちゃという位置づけになったようだ。
次々に水を加え、作り置いた麦粉を練っていくミュン。
「よーし、ミュン! ここからはこねた麦粉を、こうしてお饅頭にしていくぞ!」
俺が麦粉を千切り、こねこねと丸めてちょこんと置く。
「オー!」
ミュンは目を輝かせた。
俺の真似をして、にゅーっと麦粉を千切り、小さな手でこねこねする。
お団子ができたな。
ミュンのサイズだとお饅頭じゃなくてお団子だよなー。
俺とミュンで、次々にお饅頭とお団子を作っていく。
俺が四つ、ミュンが十個くらい作った所で、練り麦粉は無くなった。
「さあ、ここからは発酵だ」
「ハコー?」
「そうそう。こうしておくと、菌がだな……って、イースト菌ないじゃないか」
肝心なことに気付き、がっくりくる俺。
だが、困ったときはズーガーに頼るものだ。
「ズーガー、いるか?」
『ピピー』
当たり前みたな雰囲気を漂わせて、カメラ型ロボットのズーガーが茂みからトコトコ出てきた。
「ズーガー、イースト菌っているか?」
『ピガー』
「いないか」
『イナイ』
やっぱりな。
だけど、この島は不思議な力で色々な事が起る島だ。
代用になるものが何かあるかもしれない。
「じゃあさ、生地の中に細かい気泡を作れるような何か無いか? こう、ぶくぶくっとさ」
『ブクブク、ピピー』
ズーガーの頭にあるランプがピカピカと点滅する。
これは何か考えてるのか? 検索してるのか?
ピカピカするのは珍しいようで、ミュンがズーガーをつんつんつついた。
『ピガー』
つつかれてよろけるズーガー。
「ミュンだめだめ。ズーガー考えてるんだから」
「マ!」
ミュンは良いお返事をして、俺の膝の上に乗ってきた。
「ピョイ」
そのまた上に、カニ。
俺達二人と一羽で、じーっとズーガーを見るのだ。
しばらくして、ズーガーから「ピンポーン」という音が聞こえた。
「見つかったか!」
『ミツカッタ。ブクブク、ミズ』
「ぶくぶくする水……? ええと、つまり炭酸水がある?」
なんと、意外な情報だ。
そう言えば、世の中のパンも炭酸水で膨らませて作るものがあった気がする。
この麦粉も、同じようにしてパンにできるかも知れない。
だとすると……。
あちゃあ、全部普通の水で練っちゃったぞ。
「また新しい麦を粉にしないとかあ。骨が折れるぞお」
『ピー』
ズーガーが体を振る。
なんだろう。
ええと、違うってことか?
『ピピー』
ロボットの細い足が、俺の腰にぶら下げたコントローラーを指し示した。
ええと、つまりこれは……。
俺はコントローラーを手に取り、パンに向けて振った。
「麦粉に使った水よ、泡立て!」
どうだろうな、と思ったのだけど、その一言で劇的な変化が起きた。
居並ぶお饅頭とお団子が、一斉にプクプク言い始めたのである。
「うおわー!」
「ワー!」
「ピョイー」
俺とミュン、びっくり。
カニはこれ、真似してるだけだな。
こうして、生地を膨らませることには成功したのだった。
次はいよいよ、焼きだな。
生地をパンにするのだ。
手間隙掛かった、麦育成計画の仕上げである。




