無人島生活十四日目 麦の収穫!
「よし、じゃあ麦畑を見に行くか!」
「チャ!」
俺がこれからの予定を口にすると、ミュンは諸手をあげて賛成した。
大変よいお返事だ。
そして、ミュンは先頭を切って歩き出す。
大またで、手を大きく振りながらの行進。
その後ろを、ちょこちょこと小走りでカニがついてくる。
俺は最後尾だ。
「アマチャー! レ、ムギー!」
「どうしたんだ? む、むむむー!!」
麦の異変に気付いたミュン。
大声で俺に知らせてくる。
なんだなんだと見てみたら、そこには驚くべき光景が広がっていた。
なんと……麦畑の様相が一変していたのだ。
昨日肥料をやったのだけれど、その効果は絶大だった。
「麦が、成ってる……! いや、麦なのか、これ?」
俺が見つめる先では、穂先というか、茎の先端にでっかい実を一個付けて、身の先端に生えた毛を風にさわさわと揺らす麦らしきナニカがあった。
「ムギー! チャーッテ! レ、ナノー!」
困惑する俺をよそに、ミュンは大興奮。
ぴょんぴょん飛び跳ねて、喜びを表現する。
カニが真横でジャンプして真似をしている。
「うん、成ってるなあ。麦だよなあ。麦のはずだよなあ……」
葉から茎までは、多分麦だ。
昨日までは青々としていたのに、今日は黄色っぽく変色して、まさに収穫時。
だが、成っているのが馬鹿でかい実が一個なのだ。
どれくらい大きいかと言うと、俺の握りこぶしくらいある。
ミュンなら、拳二個分だ。
「どれ。刈って見るか……」
俺は麦の実を一つつかむと、その付け根の辺りに石で作ったナイフを走らせた。
ナイフはなかなかの切れ味で、茎の部分はスパッと切れた。
そして、俺の手の中にずっしりと麦の実が転がり落ちた。
ずっしり……?
「アマチャ、アマチャー! ムギー!」
ミュンが麦を欲しがって、俺の服の裾を引っ張る。
「うん、多分麦だぞ! ほれ、ミュン、受け取れー」
「キャー!」
俺が渡した麦をキャッチして、ミュンの興奮は最高潮だ。
手の中でずっしりとしたその物体を、高く掲げながら踊る。
俺はその間に、幾つかの麦を収穫して回った。
うーん。
多分、麦だよな。
形は楕円形。
麦穂と言われるあの毛が、中央部からずどんと生えている。
こういう生え方だったっけ?
「いや、まずは食べてみれば分かるな。ええと、どうやって食べようか」
俺は収穫した麦を前に、頭を捻った。
元々俺のプランでは、収穫した麦を粉にして、パンを焼く予定だった。
だが、実った麦のあまりの不思議さに、そのアイディアはどこかに吹き飛んでいってしまっていた。
「そうだ。とりあえず、お湯で茹でて食べてみるか」
イメージ的には、麦ご飯みたいなものだ。
俺は椰子の実を割ったものを用意すると、そこに温泉のお湯を入れた。
そして海水を一すくい。
これを、ズーガーで起こした火に掛けて、じりじりと熱する。
実が燃えてしまわないように、いつも鉄板焼きに使っている金属板を挟む。
「ムギムギー」
ミュンが砂の上で、麦を転がして遊んでいる。
カニが後を追いかけていって、麦を嘴でツンツンっとつついた。
「カニ、メーヨ」
ミュンが腰に手を当てて、カニに何か言い始める。
ミュン語なので、例によってよく分からないんだが、多分麦を食べようとしたカニにお説教しているようだ。
カニは説教なんて全く聴いていなくて、いつもの無表情な鳥の顔をしてきょろきょろしていた。
ミュンが満足すると、カニはトコトコトコーッと麦に駆け寄っていって、嘴でつんつんする。
「アー! カニー!」
ミュンが慌てて追いかけて、カニを抱き上げてやめさせた。
嘴でつつかれた麦は、実を覆う皮が剥がれてきている。
中にあるのは、真っ白な実だった。
俺の手の中にも同じものがあるな。
これをナイフで細かく切って……って硬い!!
ええい、石で粉々に砕いてやる。
大きな石を持って来て、平たい石と挟むようにしてガンガン上から叩き付けた。
すると、麦はバリバリと割れて、かなり粗い粉状になる。
これを、沸騰したお湯に入れるのだ。
じーっと見ていると、粉がふにゃふにゃとふやけていくのが分かった。
「どれどれ……」
匙で一掬い。
すると、細長いひし形の破片が掬えた。
食べてみると、ぷにぷにとおかしな食感をしている。
味は塩味。
うん、不味くは無い。
というか、純粋な炭水化物の味だ。
不味くは無い程度の味なのに、腹の中にするする入っていく。
「うわあ、体が炭水化物を求めてたんだなあ」
自分の体の反応に、ちょっとびっくりした。
そして、ミュンに声を掛ける。
「おーい、ミュン! 食べられるぞー」
「ンー? チャーモ?」
ミュンがカニを抱っこしてやって来た。
匙を手渡そうとしたら、カニと麦で手が塞がっているジェスチャーをされたので、食べさせてあげることにした。
「はい、あーん」
「アー」
お口の中に、ふうふうと冷ました麦を入れてやる。
ミュンはこれをもぐもぐ、もぐもぐと噛んでいた。
そして、難しい顔をする。
「ンー」
「あー、あんまり美味しくないか。これ、言うなれば歯ごたえがあるオートミールだもんなあ」
やはり加工をしなければな、と思う俺なのだった。




