無人島生活十四日目 少しだけのお別れ
ラティファが起きてきたので、詳しい話をした。
彼女は寝ぼけ眼だったが、この話で目が覚めたようだった。
『そうね。一度報告に戻らないといけないのはあるのよね。この五日間、異常なくらい濃厚な毎日だったし、実は報告書もたっぷり溜まってるからね』
彼女も賛成のようだ。
ということで、ラティファとアフサンは、本国に戻ることになった。
「アマチャー。ラチハ、アプサン、クーノ?」
お芋をの上に座ったミュンが、なにやら尋ねてくる。
多分、ラティファとアフサンが行ってしまうのか、と聞いているのだと思う。
「そうだなあ。でも、二人ともすぐに戻ってくるからな。そうしたらまた、甘い紅茶とか飲めるからなー」
「コチャ!」
分かる単語が出てきたので、ミュンがパッと笑顔になった。
「ラチハー! コチャー!」
あっ。
立ち上がって、パタパタと船のほうに行ってしまった。
俺も慌てて後を追う。
カニは、「ピョイー」と鳴きながら芋をつついていたが、ミュンが走っていってしまったので、転がるように後をついてくる。
『あら、どうしたの二人とも?』
「コチャ! アマイマイ!」
『あ、紅茶が飲みたいのね! そうねー。茶葉も少なくなってきてたし、お砂糖も減ってきてたし。ここで飲みきっちゃいましょ』
『ああ、なら出航の準備は僕がしておくよ。どちらにせよ、船は島に乗り上げてるんだ。数多の手を借りないと最後はどうしようもないからね』
話の分かるアフサンだ。
ということで、紅茶を淹れる準備を始めるラティファ。
ミュンは鼻歌なんか歌いながら、その光景を間近でじーっと見ている。
すっかりミルクティ大好きっ子になったミュン。
だが、カフェインをたくさん摂取するのはよくないので、紅茶は一日一杯、それも朝かお昼寝後のおやつだけと決めて、俺が管理している。
『はい、おまちどうさま』
湯気を立てて、良い香りのする紅茶が差し出された。
「キャー!」
大喜びのミュン。
ラティファたちが来てから、五杯目の紅茶だ。
すっかり飲み方もなれたようで、ふーふーと覚ましながら、少しずつ飲む。
島には、砂糖みたいな甘味がない。
だから、あまーい紅茶はミュンにとって特別なごちそうなのだ。
そうだなあ。
ミュンのためにも、俺も砂糖の栽培をしてみるかなあ。
まだ、麦の栽培に奮戦しているところだけど。
「ピョイ、ピョイ」
「なんだ、カニも紅茶飲みたいのか」
「ピョイー」
「よーし、じゃあスプーンに掬ってやるから飲んでみろ」
俺は紅茶を冷まして、匙一杯ぶんをカニに差し出した。
この不思議な鳥は、ぴょこぴょこ匙に近付いて、キーウィみたいな嘴で紅茶をすすった。
「ピョイ!?」
おっ、ジャンプして下がった。
そして、キョロキョロ周囲を見回して、おもむろに砂浜にダイブする。
かと思うと立ち上がり、ミュンの周りとトテトテと走り始めた。
これは、カフェインにやられてテンションが上がってるんだな。
俺の紅茶は、ミュンほどじゃないが砂糖を入れてるから、渋いだけということは無いはず。
何でも食べるカニだが、カフェインへの耐性はなかったか。
この島にカフェインを導入するのは考えた方がいいな。
「マーイ」
そんな騒ぎの中、ミュンはマイペースで、ちょびちょびと紅茶を飲んでいるのだった。
そして、少しばかりのお別れの時がやって来た。
とは言っても、ラティファとアフサンがいつ戻ってくるかは分からない。
次に来るときには、音楽を入れたCDなんかを持って来てもらう約束だ。
そうしたらミュンにも音楽を聞かせてやれるな。
『じゃあ、ちょっと時間がかかるかもしれないけど』
『数多、元気で。まあ、僕は麦の研究がしたいから必ず戻ってくるけど』
「ラチハー。ネー」
ラティファが行ってしまう事を理解したミュン。
カニを抱っこしながら、ラティファに手を振る。
小さい子のバイバイは、手全体を振るというか、手首をくりくりひねってちっちゃく手を振るんだな。
これを見て、ラティファはグッと来たらしい。
なぜか涙目になった。
『うー! ミュン、私も絶対にすぐ帰って来るからね! 今度は新しい紅茶とか、甘いものいっぱい買ってくるから!』
ミュンをぎゅーっと抱きしめた。
ミュンはびっくりして、手をぱたぱたさせている。
「ピョイー」
あっ、カニがサンドイッチされている。
『実際、この島の調査担当は僕だけど、責任者はラティファなんだ。彼女はしばらく、本国での書類仕事が待っていると思うよ。それから数多、聞きたいんだけど』
「うん、なんだ?」
『この島だけど……他の人間も入ることが出来るのかな?』
「さあなあ。多分、コントローラーを使えば何とかなるかもだけど。でも、島には俺以外にメインコンピューターみたいな奴がいてさ。彼がよしとしなければダメなんじゃないかな」
『そうか……。じゃあ、不心得者が一人でもいたら難しいかもしれないね』
「そうかもな」
なんだか不穏な話だな。
だが、アフサンは笑顔だった。
『でも、そうなったらそうなったで実験だね。本国のスタッフが門前払い食らう所、見てみたいなあ』
そうだ。
彼はこういう男だった。
そして、船が出て行く。
俺がコントローラーの棒を振り回すと、船が載っていた浜辺が大きく凹んでいき、そこに大量の海水が流れ込んできた。
あっという間に、入り江になってしまう。
そして海流が発生し、船を海へと押し出していく。
『ミュンー! 数多ー! またねー!』
『色々持ってくるから、今度来るのを楽しみにしててよ!』
「おう! 元気でなー!」
「チャー!!」
俺はミュンを肩車しながら、遠ざかっていく船を見送る。
ミュンは両手をぶんぶん振り回して、彼女なりのさよならをやっていた。
さて、彼らの戻りはいつになるんだろうな。
でも、この島にいる俺たちにもやることはあるのだ。
それは、肥料を撒いた後の麦畑をチェックすることなのである。




