無人島生活十四日目 太鼓の音で目覚めた
「アマチャー!」
ポコポコバンバンポコバンバン。
「ハヨー!」
バンポコバンバンバンポココン。
「うおー」
朝から賑やかだぞ。
「アマチャー!」
ポンポコポコポコバンバンバン「ピョイ」
あっ、今、太鼓の音だと思ったらカニの声が混じった!
あまりに気になったので、俺は飛び起きた。
すると、丸いお芋とカニを並べて、ポコポコやっているミュンがいる。
俺が急に起きたので、ミュンは目を丸くしていた。
「ハヨー」
「おはよう! カニをポコポコやってたのか」
「カニ、ポコッタ!」
「そうかー。だけどカニは芋じゃなくて鳥だからなー。ポコポコしたらかわいそうだろ」
「ンー」
ミュンが首をかしげる。
かしげながら、カニをポンポンッと叩いた。
すると、「ピョイー」と鳴きながら、カニが弾む弾む。
本当に、どういう構造をしてるんだろうな、この羽毛。
ミュンは手首だけで叩くやり方を覚えたようで、カニがいつになくいい音を立てる。
芋とカニで、二つの打楽器があるようなものだ。
「カニ! チオ、テー」
「ピョイー」
ミュンが手招きすると、カニはトコトコトコっと走り、ミュンが広げた足の間に納まった。
これを、ミュンは太ももで挟んでから、ポコポコ軽快に叩き始める。
ポコポコポンポン。
ポンポンポコポン。
「おっ、なんか体がウキウキしてくるリズムだな」
カニの羽毛がミュンの指を押し返して、不思議な音を立てる。
昨日散々、お芋を叩いていたミュン。
なにやら独自にリズム感を身に着けつつあるようだ。
カニを叩いて鳴らす音が、なかなか心地いい。
やはりミュンは天才……。
そのままずーっと、ミュンが奏でるカニ太鼓の音を聞いていたら、途中に「グーッ」という音が混じった。
「マー!」
ミュンのお腹か。
元気よく立ち上がるミュン。
「そうだな、朝ごはんだ!」
「ゴハンー!」
「ピョイー」
ミュンの手を繋ぐと、彼女はお気に入りのお芋を小脇に抱えようとした。
抱えようとしたが、ミュンが両手でいっぱいいっぱいに抱っこできる大きさだ。
なかなか支えられない。
……おかしいな。昨日、ミュンはこのお芋を叩きながら歩いていたような。
「ミュン、ちょっとこのお芋、抱っこしてみて。こう」
「ンー?」
俺がジェスチャーでやり方を見せると、ミュンは不思議そうな顔をしながら真似をした。
すると、お芋がミュンのワンピースのお腹のあたりにくっついてしまったではないか。
「なんと! この芋には不思議な特性があるようだ……。まるで太鼓になるために生まれてきたお芋」
いや、この島自体が、ミュンのためにあるっぽい島なのだ。
芋はミュンにポコポコバンバンされたことで、太鼓として扱いやすいように変化したのかもしれない。
まだまだ、島には分からない事が多いな。
ともあれ。
「これで手をつなげるな!」
「アマチャ! テー!」
俺の手を、ミュンがむぎゅっと握った。
相変わらず、ぷにぷにした手のひらなのだ。柔らかい。
ミュンは指先と、掌底のあたりを使って太鼓を叩くので、あれだけポコポコバンバンしてても手は硬くならないのだ、たぶん。
「ピョイ」
俺とミュンが手を繋いだところに、カニが器用に飛び乗ってきた。
さあ、朝ごはんに出かけよう。
顔を洗ったら、即席のバスケットを作って、木の実や果実を収穫する。
これを持って浜辺までゴーだ。
船の近くまで行くと、いつも通りアフサンは起きていて、ラティファの姿は無かった。
「おはよう」
「ハヨー」
『おはよう、二人とも。ラティファはまだ寝てるよ。彼女、夜型なのかもしれないねえ』
ということで、アフサンと三人で朝ごはんとする。
「ズーガー」
『ピピー』
ズーガーの名を呼ぶと、船と砂浜の隙間から、カメラ型ロボットが起き上がってきた。
アフサンと言葉が通じるから、近くにいると思っていたが、一体何をしてたんだ。
俺は、ズーガーを使って火を起こし、いつも通り木の実や果実を焼く。
そして朝飯にするのだ。
「ところでアフサン、やはりミュンは天才ではないかと思うんだ」
『うんうん。子供というのは可能性の塊だからね。何にでもなれるかもしれないね』
「そう、ミュンはミュージシャンの才能があると俺は睨んでいるんだ。いいか、昨日掘り出した芋を叩くうちに、この子は類稀なるリズム感を会得していてな」
「ンー?」
自分が話題にされて、こっちを見るミュン。果物の汁で口の周りをベトベトにしている。
俺は葉っぱを使って、彼女の口元を拭いてやる。
アフサンは俺たちの様子を見て、何か考えていたようだ。
『親バカだねえ、と言いたい所だけど……。打楽器が好きというのは、ミュンが所属していた民族がそういう音楽を持っていたという証明かもしれないね。専門外だけど、これはこの子のルーツを探る手がかりかもしれない』
「えっ、そんな大きな話になるのか!?」
深いことなんか何も考えていなかった俺。
アフサンの言葉を聞いて大変びっくりする。
『いや、例えばの話さ。それに、ミュンが音楽に興味を持ったというなら、実際に聞かせてみたらどうかな? 例えば僕の国の音楽とかね』
「ミュンを島の外に連れて行くのか? うーむ……心配だなあ」
『数多はパスポートが無いし、国の領海にある島に不法に住んでる扱いだからね。この島と数多の立場が国の方で決定しないと、立場的に難しいかもしれない。ならば、僕たちが船で戻って、音楽をダウンロードして持ってくるよ』
アフサンから、とても文化的な話が出てきた。
ダウンロード……!!
この二週間、大自然の中で開拓っぽい生活をしていた俺には、懐かしい言葉だ。
でも、音楽が聴けるのはいいかもしれない。
「じゃあ、頼んでいいかい? ミュンに音楽を聞かせてみたい」
『よしきた。この島の様子も、直接報告しなくちゃいけないしね。この島、直接電報を送るのも難しくてね。ちょっと国に戻りがてら、音楽を探してくるよ』
よしよし。
ミュンに音楽を聞かせてあげられるぞ。
これで、彼女のミュージシャン的才能が開花するかもしれないな。
俺はウキウキだ。
当のミュンはよく分かっておらず、でも俺が嬉しそうなので、ニコニコっとした。
「アマチャ、ネー」
ニコニコしながら、カニとお芋をポコポコポンッと叩くのだった。




