無人島生活十三日目 ばらまけ肥料
たっぷりの芋から作った肥料を抱え、浜辺にやって来た俺。
横を、太鼓代わりのお芋を叩いてミュンが行く。
ポコポコバンバン、ポコバンバン。
だんだん、ミュンの太鼓もテンポが良くなって来ているぞ。
やはり、うちの子は天才……!?
ラティファに言わせれば、親バカということになるであろう事を考えつつ、俺は遠く麦畑に目をやった。
『おかえり。その器いっぱいの粉が肥料かい?』
「ああ」
最初に気付いたのはアフサンだった。
浜でしゃがみこんでいた彼は、俺に気付くとこっちにやって来る。
アフサンの前にいたのは、まん丸な謎の鳥、カニだった。
見かけないと思ったら、アフサンと遊んでたのか。
『ピョイー』
カニは一声鳴くと、ミュンの足元まで走ってきた。
「カニー!」
ミュンはお芋をぽーんとほうり捨てて、カニを迎える。
芋が、芋が。
幼女と謎の鳥が、数十分ぶりの再会を喜んでいる。
心温まる光景だなあ。
『ピガー』
あっ、投げ捨てられたお芋が、ズーガーの上に。
カメラ型ロボットは、いつもの悲鳴を上げながら平たくなっている。
あのサイズの芋は持てないか。
『なんだい、この芋? 僕が持とう』
アフサンがズーガーを助けてくれた。
「ラティファは?」
『彼女なら、麦畑だよ。水をやってると思う。国にいた頃は職場の花壇を管理したりしていたからね』
「ほうほう」
そんな話を聞きつつ、麦畑にやって来る俺たちだ。
畑は、今日も緑の穂先をゆらゆら。
潮風に吹かれながら、大きく育った麦は元気に揺れていた。
……待て、穂先だと?
「麦っぽいのが成ってる……?」
『あら、数多。肥料を持ってきたの?』
「ああ、これ。こいつを撒くといいんだと。それで、麦に穂先が出来てきて、順調に育ってるように見えるんだけど」
『これねえ』
ラティファはじょうろを降ろして、難しい顔をした。
『パッと見、普通の麦が育ちつつあるように見えるんだけど、これ麦のつぼみじゃないのよ。毛が生えてぶつぶつしてるだけの茎』
「なんだそりゃ!?」
意味が分からない。
『うん、僕もこの麦は、とても興味深く研究してるんだ。そもそも、これは麦なのかい?』
「セントローンは麦だって言ってたぞ。あ、いや。あいつ、基本的に俺の言葉をコピーして会話するから、俺が知らない植物の話はできないんだっけ」
これはもしかすると、セントローンが麦に近いと判断した謎の植物ではないかと思われるのだ。
だが、よく考えたらこの島にある植物は、どれも俺が知らない謎の草木ばかりだ。
うん、今更だな。
「アマチャアマチャ!!」
ミュンが俺の名を呼びながら、膝小僧をぺちぺち叩いてきた。
「痛い痛い。なんだいミュン……って、お芋をアフサンから返してもらったのか」
「ン! オイモ!」
いいでしょー、という風に、ミュンは芋を掲げて俺に見せびらかした。
俺がうんうんと頷く。
そうしたら、ミュンはハッとしたようだ。
「メー! チナーノ! ネ、アマチャ! ヒリョ!」
「おお!! そうだったそうだった!! 肥料を蒔かなくちゃな!」
「ン!」
ということで。
わんさか作ってきた真っ白な粉の肥料。
これを、俺、ミュン、アフサン、ラティファに分ける。
ミュンが、「ミュンネ、ター! ワーノ! ナノー」と言うので、言葉の意味はいつも通りよく分からないが、いっぱい肥料を撒きたいんだなと俺は察し、半分くらいを彼女の取り分にした。
どうやら正解だったらしく、ニッコニコのミュンである。
「では、蒔きましょうー!」
『はーい!』
『やろうやろう!』
「チャモー!」
俺の掛け声を合図に、めいめい勝手に、自己流で肥料を撒き始める。
風に乗る白い粉。
ひっくり返って頭から肥料を被るミュン。
自分で蒔いた肥料を吸い込んでむせるラティファ。
慎重にさらさらと少しずつ撒くアフサン。
「キャハハハハ!」
ミュンは真っ白になってしまったのが楽しいみたいで、畑の中を走り回りながら、残った肥料を大雑把に、ばっさばっさばら撒く。
走ってるうちに、体についた肥料も落っこちて、何気に満遍なく撒けてるかもしれないな。
とりあえず、手持ちの肥料は撒ききった。
見た所、麦に変化はない。
「ま、今日の今じゃ、変わって見えないのは当たり前かあ」
「チャー」
「うわ、改めてみると真っ白だなミュン! お風呂入るか!」
「オフロ!」
ミュンが同意したので、俺は彼女を伴ってお風呂に向かうことにした。
ミュンと一緒に真っ白になったカニもついてくる。
『それじゃあ数多。僕らは麦の様子を今日から明日にかけて観察しておくから』
「悪いな」
『いいんだよ。これは僕の研究分野でもあるし、ラティファに至っては趣味だし』
『趣味と言うか、人間が育てている植物に水をあげたりしないのは、虐待だと思うのよね。私、そこはきっちりしたい人なの』
なるほど、心強い二人だ。
では、麦の観察はお二人に任せて、俺とミュンは一汗流すことにしよう。
その後発見したのだが、芋の粉はお湯に付けるとまん丸な玉になって固まるのだ。
触るとプルプルしていて、なかなか旨そうだった。
温泉に浮かぶたくさんの玉は、ミュンとカニが洗い落とした芋の粉。
試しに食べてみたミュンが、「エー」と不味そうな顔をした。
そうかあ、肥料用だから不味いのかあ。
ちなみに、カニはこの芋球が気に入ったようで、「ピョイー」と言いながらパクパク食べていたのだった。




