無人島生活十二日目 肥料が必要?
ラティファがいそいそと、完成したてのシャワーを楽しみに行った。
俺は、ほこほこになったミュンと一緒に、夕食を済ませた後でデザートの椰子の実ジュースなど飲みつつのんびりする。
「ンー、チャー」
「おや、ミュン眠くなってきたか」
「ニュ」
ミュンが眼をこすっている。
今日ははしゃいでいたしな。
初めてのシャワーでハッスルしていたから、無理もない。
こっくりこっくりし始めたので、俺はミュンを抱っこした。
彼女は俺に体を預けたまま、すうすうと寝息を立て始める。
『寝てしまったようだね』
アフサンがやって来て、夕食を食べ始めた。
「今日一日、どたばたしてたからなあ。子どもはずーっと元気に走り回ってたかと思うと、いきなりエネルギー切れして寝ちゃうよな」
『それはあるね。でも、こうやって安心して寝られるのは、数多の横が安心できるからじゃないかい』
「そうだな。それはそれで嬉しいよ」
俺はミュンの背中を撫でた。
ミュンがなんだかもぐもぐ言っている。
「ピョイ」
カニが俺の膝元までやって来て、じーっと見上げてくる。
「どうした、カニ」
「ピョイー」
このもこもことした謎の飛ばない鳥は、いつも通り表情の分からない顔でこっちを見ている。
多分、ミュンと一緒に寝たいんだろう。
刷り込みで、ミュンのことをママだと思ってるからな。
「よし、来い、カニ。ミュンと一緒におねむだな」
「ピョイー」
俺が手を差し出すと、カニはそこを上ってきた。
てくてくと上がってくるのだが、急角度の俺の二の腕も同じように上る。
これは凄い登攀力だ。
やがて、ふわふわの毛玉は、ミュンの頭の上にポフッと着地した。
そしてぐうぐうと寝始める。
この鳥、鼻ちょうちんが出るんだな。
『ところで数多、提案があるんだけど』
「なんだい?」
『この島の麦は、恐るべき速度で育ってる。普通、こんなことは絶対にありえない。まるでキノコの一種のように急激な成長だ。だが考えてみて欲しい。あそこは砂浜だ』
「うん、そうだな」
『麦が成るとしても、栄養が足りないんじゃないか? もっと、肥料みたいなものをあげられれば、たくさん実が成るかもしれない』
「! そ、そうか!」
その発想は無かった。
そもそもあれは、ミュンにパンを食べさせる計画のために植えた麦だ。
その麦がたくさん取れるなら、それは最高のことじゃないか。
肥料、大事だな!
もっとも、俺は作物を育てたことなんか小学生時代のじゃがいもくらいしかない。
じゃがいもは放っておいても育ったんだけどなあ。
水をあげすぎて腐らせちまったが。
「それじゃあ……肥料をどうするか考えなくちゃなあ」
『そうだね。だけど、そこもこの島の事だ。常識外れな解決手段があると思っているよ。それは明日、話し合おうじゃないか』
そういうことにして、俺は今日は休むことにした。
無人島には夜の娯楽があるわけでもない。
それに、ミュンと生活のペースを合わせていると、自然と早寝早起きになってしまうのだ。
お陰で、この島に来てから俺の体調はすこぶるいい。
日本にいたころは、栄養ドリンクやサプリメントで誤魔化す毎日で、健康診断の数字だってろくでもないものばかりだったのに。
後は、俺が病気になるわけにはいかない。
ミュンに心配かけちまうし、まだ小さい彼女に看病させるわけにはいかないからな。
「じゃあな、アフサン、おやすみ。ラティファにもよろしく言ってくれ」
『おやすみ数多。また明日』
俺は彼と別れて、森の中へ。
ミュンの頭の上にいるカニを落っことさないように、慎重に歩く。
すぐにログハウスが見えてきたから、ミュンをしっかりと抱っこしなおしてから上っていった。
家の中に寝かせるとき、ミュンはちょっと眼が覚めたようだった。
「ミュ……アマチャー?」
「うちに帰ってきたからな。俺も寝るから、ミュンもまた寝ような。ほら、カニを抱っこして」
「カニー」
ミュンの頭にくっついていたカニを摘み、彼女に手渡す。
カニをむにむにと揉んだミュンは、寝ぼけ眼でにへら、と笑うと、また夢の世界に旅立っていった。
さて、俺も寝るとしよう。
しかし……肥料、肥料か……。
コントローラーを使ってなんとかするとは言え、肥料になりそうなものを探さないとなあ。
俺は横になりながら考え込んだ。
そして、スッとトイレの事を思い浮かべ、すぐに打ち消す。
「堆肥は止めておこう……。なんか、こう、素人が手出しするのもな」
とりあえず、何もかも明日に丸投げ。
ぐうぐうと眠るミュンが、むぎゅっとくっついて来たので、俺も大人しく目を閉じた。
肥料かあ……。




