無人島生活十二日目 シャワーを作ろう
『ね、数多、いい?』
水やりが終わり、お昼を済ませて夕刻近く。
ラティファが声を掛けてきた。
さっきまで、ミュンと並んで昼寝をしていたように思ったが。
『今朝のお風呂はね、端的に言って最高だった……素晴らしすぎたわ』
「そいつはどうも」
ラティファの表情は生き生きしている。
やっぱり、風呂というのは女子にとっては死活問題なのだ。
水浴びだけじゃいけない。
『ただね……。あくまで湯船だけじゃない? 湯船と言うか、温泉よね。どこまでお湯が広がっていて、数多が容器を用意してくれたから、それを使って髪を洗ったわ。だけど……贅沢だとはわかってるんだけど……』
なんだなんだ。
ラティファが俺の手を取る。
「チャ?」
ミュンも目を覚ましたようで、ラティファが俺に迫っているのを見て首を傾げている。
「アマチャ、レー?」
「あー、俺もよく分からない」
『うん、そうよね。これは本当に我が儘なお願いだと分かってはいるわ! だけど、言わずにはいられないの。数多、もう一つだけ、お願いをさせてくれないかしら!』
「な、なんだ?」
物凄い圧に負けて、俺は彼女の願いとやらを聞いてみることにする。
ラティファは、文字通り目をきらきらと輝かせて言った。
『シャワー! シャワーが欲しいの!!』
「はあ……!?」
ということで。
「ミュン、シャワーを作る」
「シャアー?」
「うん、まあそんな感じのものだ」
明らかに分かっていないミュンだが、俺の言葉を真似して繰り返すのが、かなり上手くなってきている。
そのうち、ぺらぺら喋りだしそうだなあ。
「アマチャ、シャアー? マー?」
「うん。原理を説明しよう」
俺は、たらいにお湯を汲んでくる。
そして、それをじょうろに移した。
「ミュン、手を出してくれ」
「チャ!」
彼女の手のひらに、じょうろからお湯を注ぐ。
シャーッとお湯が降り注ぎ、ミュンは目を丸くした。
「マ! アマチャ、レー!」
「うん、こういうのがシャワーだ。これをな、頭からシャワーっと掛けて、気持ちよくなるものなのだ」
「ン!」
こくこく、とミュンが頷く。
よし、飲み込みが早いぞ!
「だけど、どうやってお湯をこうしてずっと吐き出すシステムを作るか、これが問題なんだ。当然ながら、ポンプなんて無いわけだし、ポンプだとしても、誰かが動かしてないといけないわけだからな」
この島に来てから、俺は色々な物を作った。
だが、機械だけは作れないでいる。
どれもこれも、俺やミュンの手が介さないと機能しない、あくまで道具だ。
恐らくこれは、俺が機械の構造というものをよく理解していないから、作ることが出来ないのだと思う。
何せ、俺は文系だからな。
「とりあえず……ホースかなあ。あとは柱になるもの……。ミュン、こういう感じで、細長いつるとか探してきて」
「チャ!」
ミュンがしゅばっと挙手して、いいお返事をした。
「ピョイー」
カニも彼女の肩で、挙手に合わせてジャンプする。
一人と一羽で、つるを探しに走っていった。
さて、俺は、シャワーの構造を考えねば。
お湯をポンプで送るというのは、ポンプの構造をイメージできない俺にとっては難しいことだろう。
ならば、最初からバケツみたいなものにお湯を汲んで、そこからシャワーを出す方がいいのではないだろうか。
「よし、やってみよう」
俺は、それっぽい棒を何本か確保する。
倒木の枝を、コントローラーで変化させるのだ。
この倒木も、恐らくは小さなマシンみたいなものの集合体。
だから、コントローラーで自在に形を変えられる。
ただしルールがあり、木製のものにしかならないのだ。それに、質量が増えたり減ったりはしない。
何本か、長さを合わせた棒ができた。
太さはまちまち。
これを並べて地面に埋め込み、立てる。
「アマチャー! チュルー」
「おっ! つるあったか!」
ミュンが細長いものを引っ張ってきた。
彼女の親指くらいの太さがある、長いつるだ。
これをコントローラーで、中空の緑のホースにしてしまう。
長さをカットして、先端にジョウロの口の大きいのを付けて……。
一番上に、大型のたらいを設置した。
「よし、完成だ!」
そこには、なんだか不思議なものが出来上がっていた。
たらいから伸びるホースと、先についたジョウロの口。
これらが棒で高いところに固定されている。
その下には、座り込めば入れる程度。
お風呂に入りながら、シャワーを浴びることになるだろう。
「ミュン、シャワーしてみるか?」
「シャアー! ミュン、ルー!」
ミュンがぴょんぴょん跳ねた。
ということで、シャワー利用者第一号はミュンだ!
俺はせっせと、上のたらいにお湯を汲み入れた。
ホースを持ち上げておけば、そこからお湯は流れ出さない。
ほどほど、たらいにお湯が溜まった頃合いで、いよいよシャワー開始だ。
すっぽんぽんになって、ワクワクしながらジョウロの口の下で待っているミュン。
彼女めがけて、温かなお湯が降り注いだ。
「キャー!」
ミュンが笑いながら、バシャバシャと湯船の中ではしゃぐ。
彼女なら、立ったまま浴びられるんだな。
頭の上から降り注ぐ、温かなお湯。
ミュンにとっては、これは楽しい体験だったらしい。
「アマチャ! アマチャ! モーモー!」
「はいはい。もう一回ね」
ということで、俺はこの後、何回もお湯を継ぎ足し、ミュンが飽きるまでシャワーを動かす役割をせねばならなくなったのだった。




