無人島生活十二日目 朝風呂の日!
「アマチャ! ハヨー! ハヨー!」
お腹をぺちぺちぺちっと両手でリズミカルに叩かれて、俺は目覚めた。
「うわー、起きる、起きるからやめてくれー。降参降参」
俺が言いながら体を起こすと、目の前には元気いっぱいのミュン。
昨日の熱なんて嘘のように、いつも通りだ。
「良かったー。完全に治ったんだなあ……」
しみじみ呟きながら、ミュンの頭をなでなでする。
そうすると、ちびっこは「ヤー!」とか言いながら手をわちゃわちゃ振り回した。
「あー、ごめんごめん。女の子の髪だからなー」
「アマチャ、チャイノー」
「え? くさい?」
ちょっとショック。
年頃の娘さんは、お父さんを臭いとかなんとか言って嫌うとか聞いたことがあるが、まさかミュンは早くもそんなお年頃に……!?
と思って手を開いてみたら、なんか変な液がついている。
「なんだこれ……うわっ、くせえ!」
「ピョイー」
すると、俺の脇腹の辺りから、カニが飛び出してきてピューッと外に駆け出していった。
「もしかして、これ……」
「カニ、シー!」
「カニのおしっこか! 寝てる間に俺の手のひらにおねしょしたのかあ」
追求を恐れて、あの変な鳥は逃げ出したようである。
というか、カニのおしっこがついた手でミュンを撫でたのか俺は。
「……ミュン、朝からお風呂入ろうか」
「チャ!」
そう言えば、昨日はミュンの熱と看病で、風呂に入っていない。
ちょっと体がベタベタしているし、朝風呂というのもオツなものだろう。
風呂に向かうと、途中からズーガーが合流した。
『ピピー』
「おう、おはよう。なんかあるのかい?」
『モリ、ハイルキョカ、ダセル、スコシ』
「森に入る許可って……。ああ、ラティファとアフサンのことか!」
『ピピー。セントローン、カンガエタ。オンセンマデ、ヨイ』
「おう、オッケーオッケー。あいつら、ずっと水浴びだけだったもんな。後で呼んでやろう!」
ミュンはテテテテテーっと走っていき、そのままワンピースをポーンと脱ぎ捨てる。
さらに、パンツを走りながら脱ごうとして、片足でおっとっとっと、とよろけた。
あっ、転ぶ。
俺が慌てて駆け寄ろうとしたら、隙間にカニがズザーッと滑り込んで、クッションになった。
ぼよーんと跳ね返るミュン。そこを俺がキャッチだ。
「アマチャ、パンツ!」
「おう、パンツ脱げたなー。でも、歩きながら脱いだら危ないぞー」
「チャ!」
いいお返事だ。
ミュンは湯船に浸かると、まずは潜る。
お湯の中をぐいぐい進んだ後、ぷかーっと浮かび上がる。
「マー……」
「気持ちいいなあ……。ミュン、あんまり遠くに行くなよー」
「ンー」
お湯の上で、器用にくるりと一回転するミュン。
湯船の浮力を自分のものにしている。
「アマチャ、ブクブー」
「頭洗う?」
「ン!」
ぷかぷか浮かびつつ、ミュンがこちらに流れてきた。
抱き上げて、お湯の外へ。
さあ、体を洗って、髪を洗って……。
「アマチャ! ミュンネー」
「どした? え? 俺が後ろ向くの? おい、まさか……もしかして……」
「キレキレネー」
背中を、ミュンが握ったヘチマがごしごし擦っていく。
おおー!
ミュンが俺の背中を流している!!
ちょっと感動。
彼女はヘンテコな歌を口ずさみながら、割とムラがある感じで俺の背中をぐりぐり洗う。
「ピョピョピョ」
あっ、今ヘチマが声を出したぞ!
「ミュン、それヘチマじゃない、カニだ!」
「ミュ?」
「ピョイー」
ミュンが動きを止めた一瞬のうちに、カニはその手のひらをスポーンと抜けていってしまった。
ちょっと離れたお湯に、ぽちゃんと落ちて流れていく。
「いや、しかし……カニは結構洗われ心地がいい感じだったな」
「ンー」
ミュンがちょっと残念そうだ。
「まあ、また今度な! ミュンが洗ってくれて凄く嬉しかったよ」
俺が彼女の頭を撫でようとして、さっきのことを思い出してちょっと躊躇。
すると、ミュンは自分から俺の手に頭を押し付けてきた。
「よーしよし!」
「ンー!」
ということで、大変充実したお風呂の時間であった。
子供はちょっとの日にちで、どんどん成長していくなあ……。
ともに、朝からほこほこに温まった後、浜辺の船までやって来た。
ラティファが眠そうな顔をして船べりに座っている。
アフサンは楽しそうに、浜辺で網を持って水底をさらっている。
「ラティファ、おはよう」
『ああ、おはよう、数多、ミュン……。うう……なんかこう、目が覚めなくてねえ……』
「パッと目が覚める手段があるぞ」
『目が……? それって』
「コチャー!」
ミュンが紅茶を所望している!
「ミュン、ちょっと待とう。もう少し紅茶はあとな。な?」
「プー」
ミュンが膨れた。
「単刀直入に言うぞ。ラティファとアフサンに、風呂が解禁された! ここから入っていってすぐ左手が温泉だ! 行って来い!」
『お……温泉!?』
ラティファの目が見開かれた。
『ありがとう数多! 私行ってくるわ! お風呂! 温泉!!』
雄叫びを上げながら、ラティファが森のなかに消えていく。
おお、本当に入れるようになっているな。
そしてその姿を、苦笑しながらアフサンが見ていた。
『僕は二週間くらい風呂に入らなくても平気だけどね』
「入ってこい」
『じゃあ、ラティファの後にでも。ミュンに臭いって言われたらショックだしね』
「それは俺に効く」
そんなわけで、順番に、みんなで朝風呂を楽しむのであった。




