無人島生活十一日目 ミュンの食欲とスッキリおやつ
「マーママー♪」
ミュンが、いつもよりはちょっと小さな声で歌いつつ、俺の手を握って歩いている。
「足元大丈夫?」
「ン!」
雨上がりで、濡れた地面。
ミュンはサンダルで、水が溜まったところをペチャペチャと踏んで回る。
「うわわ、水が飛ぶだろー」
「エヘヘー。レ、チャノ。ミュンノ、テーッテルト、チャーッテ」
「おっ、なんだなんだ」
ミュンが珍しく、何事か長く説明しようとしている。
どうやら、水たまりが珍しいようで、サンダルで踏みつけては、水を飛び散らせている。
「足を下ろしたら、水がびしゃーっと散るって? そりゃあ、水たまりだもんな」
「アマチャ! レー、ウミ、チャーノ!」
「ああ、海はあっちなのに、なんで水があるのって? さっき雨が降ってきただろ。あれが溜まったんだ」
「ンー」
「あー、ばっちいから手でびちゃびちゃやったらいけません! 貝とかウニはいないから」
「チャ」
水たまりに海の生き物はいない。
ミュンはようやく納得したようだ。
それにしても、雨と水たまりを知らないなんて事があるだろうか。
砂漠の国の生まれだとしても、雨くらいは降るだろう。
「ミュンは一体どこから来たんだろうなあ」
問いかけるように呟くと、ミュンは俺を見上げ、首を傾げるのだった。
とことこと、雨上がりの森を歩き回る。
だんだん、ミュンも調子が良くなってきたようだ。
ゆっくりだった足取りが、少しずつ軽くなる。
次の水たまりが見えたところで、ミュンはぴょーんっとジャンプした。
「おおー!?」
「キャーッ!」
ばしゃーんっと水が跳ねる。
「ピョイー」
ミュンの頭から転げ落ちたカニが、水に流されていく。
カニはすぐに起き上がり、俺のくるぶしを駆け上がってくる。
「ピョイー」
「何気にお前、身が軽いよなあ」
俺の肩で一息つくカニを見て思う。
さて、ミュンはと言うと、俺に手を繋がれたまま、水たまりの上でパシャパシャ跳ねる。
「なんでそんなに水たまりが好きなの」
「レ、ウミ、ナーイ!」
「うん、そうだなー。え、海じゃない水が、こうやって点々とあるのが不思議なの?」
「ン!」
ミュンなりの知的好奇心らしい。
だけど、水たまりのお陰でちょっと元気が出てきたのなら、それはいいことだ。
ミュンはしばらくまた、ぱちゃぱちゃやっていたが、ジャンプしようとしてツルッと滑った。
「あぶな!」
俺は慌てて、彼女の手を引き上げて抱きとめる。
「ピャー」
ミュンはちょっとびっくりしたようで、ポカーンと口を開けて固まっている。
「雨のあとは滑るんだ。気をつけてな」
「アメー」
「そう。雨。滑るからね」
「ンー」
下におろそうとしたら、ミュンはひしっと俺にしがみついた。
なんか、いやいやをしている。
「抱っこがいい?」
「ン」
「よし、抱っこでラティファとアフサンのところ行くか」
「ン!」
今日のミュンは、ちょっと甘えん坊さんである。
午前中は熱を出してたし、その後の大雨だしで、色々不安になっているのかもしれない。
それでも、一日家に籠もっていたことの気分転換にはなったようだ。
「よし、じゃあ二人のところに行く前に、おやつを持っていくか」
「オヤツ!」
「そうだぞー。ミュンは何が食べたい?」
「ンー。ミュンネー」
口元に指を当てながら、ミュンは真剣な顔であたりを見回す。
そんな彼女のお腹が、ぐーっと鳴った。
お腹がすくなら、元気になった証拠だ。
柑橘類を幾つかもいで、それをおやつにしよう。
コントローラーで籠を作り、そこにどんどんと柑橘類を詰め込んでいく。
「アマチャ」
「なんだ?」
「ネー、アマイー」
「甘いのが欲しいの? うーん、でも、森の果物は甘酸っぱいのが多くて、甘いだけのは無かった気がするなあ」
「チャー」
「今度、ズーガーに頼んでみるか! 桃みたいなの!」
「チャ! モモ! ……モモ?」
まあ、当然のようにミュンは知らないわな。
「桃って言うのはな……」
俺は、ミュンを抱っこしたまま桃についての解説をする。
詳しい話をしたって、ミュンはそこまで言葉が分からない。
ここは、ニュアンスとかでなんとなーく伝わる話をするのだ。
ラティファとアフサンの所に向かいながら、桃がいかに甘く、とろける果物であるかを身振り手振りで伝える。
「ウー!」
「あっ、ミュン、よだれが……」
「マウー!! アマチャ! レー! モモ!」
「桃食べたくなっちゃったかー。じゃあ、早く作ってもらわなくちゃな!」
「マー!」
これ以上桃の話をすると、抱っこした俺の腕がよだれでべとべとになりそうだったので、これにて切り上げ。
まずはミュンのお腹を満たすべく、俺たちは森の外に出たのだった。
時間はもう、夕暮れ時。
長いようで、短い一日だったなあ。




