無人島生活十一日目 スコールと、雨上がりのお散歩
太陽が正午の高さから、少しずつ低くなってきた。
そろそろ、いつもならおやつを食べている時間だろうか。
ミュンはごろごろ転がりながら、カニをペチペチ叩いている。
「ミュン、ちゃんと寝てないとだぞー」
「ヤー。ミュン、ナーモ、ヨー!」
「もう大丈夫だって? ダメダメ。熱は下がってきたけど、午前中の熱で疲れてるはずなんだぞ。今日はじっくり休んで疲れを取るんだ」
「ブー」
不満そうだなあ。
毎日、どたばたと走り回っていたからなあ。
こうしてじっとしているのは、ミュンの性分としてはフラストレーションが溜まるだろう。
だが、今日一日はじっくり休んでいなければ、また熱がぶり返してくるかもしれない。
暇つぶし出来るものがあればいいんだけど、この島には本もテレビもない。
カニをこうやっていじってるしかないか。
「アマチャー、ネー」
「あー、カニにも飽きたかー」
「ンー」
ミュンがごろごろ転がって、俺の膝下まで来る。
「よし、それじゃあ、俺がお話を聞かせてあげよう。どこまで分かるかな。今のミュンなら、ちょっとは分かるかも知れないな」
寝物語に、おとぎ話を聞かせてあげることにした。
チョイスは、桃太郎。
動物もたくさん出てくるし、きっとミュンにマッチしているだろう。
言葉だけだと分かりづらいと思うので、お話をしながら、絵を書いて説明していくことにした。
決して絵心がある方ではないが、まあなんとかなるだろう。
板を何枚も用意し、それに炭を使って絵を書いていく。
「昔々、あるところに……」
絵を書きながらお話をしていくと、進行は自然とゆっくりしたものになって行く。
ミュンは、ちょっと進む度に疑問みたいなものを口にして、俺はそれに答えるために絵を書く。
次はミュンも絵を書いてみて、それでお話が続く。
ふと気づくと、外は日が陰って来ていた。
夕方というのではない。
曇ってきているのだ。
俺たちがこの島に来てから十一日。
ずーっと晴れているような印象があったが……。
パラパラっと屋根に雨粒が当たる音がして、あっという間に猛烈な雨になった。
ザーッと降り注ぐ、正にスコール。
「ピャー」
ミュンは目を丸くして、外を見ている。
数メートル先がわからないくらい、凄いスコールだ。
ピカッと外が光り、ゴロゴロと雷鳴。
ミュンが物も言わず、俺にピトッとくっついてきた。
「大丈夫、大丈夫」
多分。
それに、雷が落ちたとしても、このログハウスは普通のログハウスじゃない。
本当に大丈夫なんじゃないかな。
俺はミュンを抱き上げて、膝の上に載せた。
「スコールだなあ」
「シュコール?」
「雨が降ってるの。雨」
「アメー」
ミュンはじーっと、飽きもせずにスコールを見つめている。
本当に珍しいのかも知れないな。
そうしたら、またピカッと光って、ゴロゴロと音がした。
ミュンがビクッとして、俺にピタッとくっついた。
大丈夫だって言っても、怖いものは怖いだろうなあ。
やがて、スコールは少しずつ弱まり、遠くの空が見えるようになってきた。
おお、向こう側から、明るくなってきている。
「ミュン、雨が止むぞー」
「アメー?」
「そう、晴れるんだよ。空が晴れて、明るくなって……いつものお日様が出てくる」
「ンー?」
ミュンには難しかったみたいだ。
かくん、と首を傾げた。
「お日様。お、ひ、さ、ま」
「オヒサマー?」
おっ、サ行の発音が上手い。
ミュンは、タ行の発音が苦手だが、それ以外は割とすぐに覚えて話す。
たまに、シの文字がチになるけど。
おっと、完全に空が晴れてきた。
雨音は遠ざかり、ログハウスのひさしから、雫が落ちる。
「晴れた!」
「レタ!」
ミュンが俺の口真似をして、にへ、と笑った。
俺は思わず、彼女のほっぺたをぷにぷにしてしまった。
うーん、可愛すぎるだろう。
「ミュー!」
パタパタ手を振り回して抗議するミュン。
どうやらこれは、本当に調子が戻ってきたようだ。
「よし、じゃあ雨上がりのお散歩に出てみるか!」
「チャ! アマチャー!」
ミュンが元気よく立ち上がった。
……と思ったら、フラッとした。
「あー、危ない危ない! 朝からずーっと寝てたからな」
「ンー」
ミュンが口をムニュムニュと言わせる。
「だから、手を繋いで行こうな」
「チャー!」
俺が差し出した手を、ミュンは両手でぎゅーっと握った。
さあ、雨の後の島を歩いてみよう。




