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無人島生活十日目 ヤシガニ、麦と出会う

「もがー」


 聞き覚えがある声がしたと思ったら、ヤシガニである。

 紅茶を飲んで満足したミュンは、ぐうぐうお昼寝中。

 カニはミュンの枕代わりになっている。


「ヤシガニ、びっくりしただろう。新しい島が増えてたんだもんな」


 俺が言葉をかけると、こっちの言葉が分かるのか、やつはもがもが言いながらハサミを振り上げた。

 威嚇しているのとは違って、ゆらゆら揺らして何か意思を示しているんだろうか。


『うわっ、アマタ、これは何だい!? こんな生物、見たことが無いよ……!』


 アフサンが興奮した様子でやって来た。


「何って、ヤシガニだろう?」


『またまた! あんな光沢のある甲殻を持ったヤシガニなんて居ないよ。しかも、足の付き方が明らかに違う! あれはきっと新種だ! カメラ、カメラ!』


『ピピー』


『あった! これで撮影を……ってロボットじゃないか!』


 アフサンがズーガーを拾い上げて、ノリツッコミした。

 乗りがいいなあ。


「もがー」


 ヤシガニは、何本か生えている麦をハサミで指し示している。

 そうか、麦を見たことが無いのか。


「それはな、麦だ」


「もが」


 ハサミでつんつん、と麦をつっつくヤシガニ。


「ああ、ダメダメ。それ、ミュンが楽しみにしてるんだから、乱暴に扱わないでくれよ!」


「もが」


 ミュンの名前を出したら、ハサミを引っ込めた。

 彼とミュンは、多分仲がいい。

 不思議なことに、意思疎通ができているらしい感じもする。


 彼はおっかなびっくり、という様子で、麦の周りをぐるぐると回る。

 そして、ハサミをなるべく触れさせないようにしながら近づき、どうも匂いを嗅いでいるらしい。


『ア、アマタ。さっきから、あの生物と言葉を交わしているようだが……まさか、あれは言葉を解するのかい?』


「それっぽい。少なくとも、こっちが言わんとする事のニュアンスを感じ取れる気がするな。ミュンなんか、もっと巧みにあれと意思疎通するよ」


『なんてことだ! 見たい! その場面を、僕はぜひとも見たい……が……』


 振り返ったアフサン、がっくりと肩を落とした。

 後ろでは、日よけのビーチパラソルが展開され、その下でカニを枕にミュンは爆睡。

 真横で、ラティファもぐうぐう昼寝をしている。彼女は本当に良く寝るなあ。


 しかし、お茶を飲んだ後でもよく眠れるということは、あれはカフェインが含まれていないお茶っぽいな。

 少なくとも、ミュンはカフェインを口にしてないから、耐性なさそうだし。


「もがー」


「ああ、それはそのままだと食べられないんだ。今度、それを育ててパンを焼くから食べに来いよ」


「もが?」


「パンは美味いぞー。いや、俺が上手に焼けるとは限らないんだけどな」


 ヤシガニは俺の言葉を興味深そうに聞くと、ハサミをぶんぶん、上下に振った。

 おお、これは多分、楽しみにしてくれてるんじゃないだろうか。

 彼は俺たちに向かってハサミをぶんぶんすると、水の中に消えていった。

 麦が収穫できてパンになったら、呼んでやろう。

 この島と俺たちの守り神みたいなもんだからな。


「ムー、アマチャ……?」


 おっ、ミュンがお目覚めだ。

 一時間弱くらい寝てたんじゃないだろうか。

 目をこすりながら、カニを抱きかかえて揉んでいる。

 カニはもみくちゃにされ、「ピョイー」とか相変わらず何を考えているのか分からない声を出していた。

 そもそも、ミュンに枕にされてるのにあいつの目は開いていたからな。

 あれ、絶対起きてたぞ。


「おはよう、ミュン」


 迎えに行くと、ミュンは起き上がり、ぽてぽてと歩いて俺の胸元に飛び込んできた。


「ハヨー」


「おはようって言ってるのに、まだまだ眠そうだなあ」


「ンー」


 俺に抱っこされながら、カニで顔をごしごし拭くミュン。

 ほわほわアクビをした後、


「チャ! ミュン、ルーノ! テー」


「下ろすの?」


「チャ!」


 いつものミュンになった。

 地面の上で、うーんと伸びをする。


「アマチャ、カニ、ルーノ! ネ! アマチャ、カニ、キュッテ!」


「おっ、カニを使ってキャッチボールか! 新しい遊びを考えたな!」


「ピョイー」


 済まんなカニ。

 お前の気持ちはスルーさせてもらう。

 というか、ヤシガニに挟まれても無事なカニだから、これくらいどうということは無いだろう。


「じゃあ最初に投げるのはミュンかな? よしこーい!」


 俺はどっしりと腰を落として、構えた。

 ミュンはカニを手にして、むむむ、と自分と俺との距離を測る。

 そして、独自の構えで振りかぶり……投げたー!


「ピョイー」


「アッ」


 風が吹いて、カニが流された。

 ぼちゃんと水面に彼は落っこち、そのままさらわれていく。


「カ、カニー!」


「うわー! カニが流されていくー!」


 キャッチボールは取りやめ。

 俺とミュンで、流れていくカニを追いかけるのだった。


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