無人島生活二日目 一日の計はトイレにあり
目覚めると、腰のあたりがひんやりしている。
夜露かな? と思って目覚めたが、体が冷えている様子もない。
横を見たら、褐色のプニプニした足が見えた。
ミュンだ。
「ワワワワワ……」
身につけているワンピースの裾を掴みながら、あわわわわ、という顔をしている。
……ハッ、ま、まさか。
俺の腰のあたりと、ミュンのワンピースを見る。
濡れている。
こ、これは……おねしょをしたな!?
寝る前にトイレに連れてくべきだったか!
ここで、野宿におけるトイレ問題である。
ドリルを見つけた俺たちだが、実はこれを使用してトイレを作成していた。
砂浜に穴を掘ると、不思議と砂が固まって穴が固定される。
ここをトイレとする。
葉っぱで拭くのだが、硬い葉っぱだと痛いし、柔らかい葉っぱはなかなか無いし……ということで、大変困っていたのである。
「ズーガー、お尻を拭く紙の代わりになるものは……」
『ピー?』
いかん、ニュアンスが細かすぎて伝わっていない。
とりあえず、ミュンが足をもじもじし始めたので、また催したと察して抱え上げる。
トイレに直行だ。
砂浜の木陰に作られた穴にしゃがませると、ミュンはホッとした顔で出すものを出し始める。
よし、終わらない内に、拭くものをゲットだ。
「ズーガー、こう、こういう、な? お尻をこうして……」
ズーガーを地面に設置し、その上で俺は和式トイレスタイルからの、お尻やらを拭くジェスチャーを見せる。
とても親には見せられないポーズだ。
だが、今は緊急事態。
格好がどうこう言っている場合では無いのだ。
『ピピー!』
おっ、伝わった!
「アハハ!」
ミュンが俺を見て笑った。アハハではない。
俺は颯爽と立ち上がり、ズーガーを持ってあちこちに、そのレンズから放たれる光を当てるのだ。
『ピー』とか『ガー』とか言っているが、芳しい反応はない。
これはこの辺りには無いか……? と思ったところで、昨日歯ブラシになる枝を採取した木で反応あり。
なるほど、繊維質が多い木だから、葉っぱも繊維質が多いのか!
俺は葉っぱを千切ると、案の定、糸状の繊維が枝側からごっそりとついてくる。
これを引き伸ばして揉むと……おお、手触りがふんわり柔らかい、緑色の紙みたいなものになった。
「よし、ミュン、これで拭くんだ」
「ムー」
「えっ、俺が拭くの!? いいのかなあ……」
いいも何も、担当が俺しかいない。
ミュンにはきちんと、この紙の使い方を教えなければ……!
固く決意する俺だった。
俺もまた、出すものを出し、朝食にする。
昨日残しておいた若木の芽だが、とりあえず砂の中に埋めて、動物などに取られないようにしていたのだ。
だが、どうも包んでいた葉っぱを開くと、奇妙な臭がする。
さては傷んでしまったか、と残念な気持ちになる。
そこへ、ミュンが手を伸ばし、芽の炒め物をひょいぱくっと食べてしまった。
「あっこら!」
お腹を壊しては一大事である。
「ミュン、ぺっ、しなさい! ぺっ」
「ムー!!」
逃げた!
ああ、もう……!
俺は慌てて彼女を追いかける。
ちょっと走ったら、ミュンは立ち止まり振り返った。
もう口の中には何もない。
飲み込んでしまったようだ。
「……大丈夫か? ポンポン痛くならないか?」
「ン!」
一日共に過ごして、言葉は通じないながらも、ジェスチャーや言葉の調子で、言いたいことがなんとなく分かるようになってきている。
大丈夫、とばかりにお腹をぽんぽん叩くミュン。
しばらく経過観察だが、本当に大丈夫な可能性もある。
俺も試しに、変な臭いがする若木の目を齧ってみた。
何だかねっとりした歯ざわりになっている。
昨日は、シャキシャキしていたのだが。
そして、驚いたのは味の変化だった。
塩味だけの炒め物だったはずが、ほんのりとした甘みを帯びてきているのだ。
これは……一晩でちょいと発酵したのかもしれない。
この辺りの食べ物は、よく分からない性質を持っているんじゃないだろうか。
「分かった分かった。怒らないから戻ろう、ミュン。とりあえず他に食べられるものを探して、それから住むところを探しに行かなくちゃだ」
「ンム!」
トテテッと幼女が駆けてきて、俺の横に並んだ。
あっ、口をもぐもぐしている。
噛むのを止めただけで、口の中に残していたな。
……まあいいか。
ミュンは育ち盛りなので、なるべくなら、ちゃんとご飯を食べさせてやりたいな。
そうなれば、次の課題はタンパク質の確保になるだろう。
いやいや、その前に屋根のある場所の確保。
いつ雨が降るとも知れないし……そして、住処と同時にトイレをだな……。
どれほどの頻度でおねしょをしてくるか分からない。
「よし、行くぞズーガー。まずは住む所探しだ。……いや、おねしょされた服を洗って乾かしてからだな……」
「マー!」
「あっ、こらミュン! パンツを振り回さない! おおい待てーっ!?」




