無人島生活十日目 畑に麦をまきましょう
「よーし、行くぞミュンー!」
「クーノー!」
ミュンはぴょーんと飛び跳ねると、新しく生まれた島に向かって走り出した。
「あっ、早い! ミュン待てー!」
「ヤー!」
二人で追いかけっこのような形になりつつ、俺たちは砂浜を走る。
新しい島へは、かなり広い砂浜の道が続いている。
水中から持ち上がってきた道だから、逃げ切れなかったっぽい貝やヒトデなんかが転がっている。
あっ、ミュンがヒトデを踏んづけて行った。
彼女の後ろには、カニがポテポテ走って続く。
アフサンとラティファは、いきなり走り出した俺たちについて行けず、しばらくしてから慌てて追いかけてきている。
「よし、到着ー! ミュンは足が速いなー」
「ムフー」
ミュンが自慢げに胸をそらした。
新しい島は、見渡す限り地面ばかり。
砂浜は、島の周囲のごく一部だけ。
中央から徐々に、砂浜が土に変わっていっていた。
「これ、地質がちゃんと畑向けに調整されて行ってるんだなあ。どれどれ」
土に触ってみると、しっとりしていていい感じに思える。
土には詳しくないんだが。
「ミュン、ここに麦を……」
「チャー!!」
ミュンが、握りしめた麦をポイッとそのへんに投げ捨てた。
「おお、豪快! 明らかに一部だけに偏ったけど、そのうち増えていくからいいかあ」
一応、密集してるのだけはちょっと離して植える。
これでどれだけ待てばいいんだろうな。
「チャ。タイタイネー」
ミュンが何か言いながら、麦を埋めた地面をぺちぺち叩いている。
あんまり固くすると良くないだろうけどなあ。
「ピョイー」
カニは麦のところまで歩いていき、スーッと首を下げて嘴で地面をほじくり返し……。
「やばい! ミュン、カニを確保ー!」
「マ! カニ、メーヨー!」
俺の指示に従い、ミュンがピューッと走っていってカニを抱き上げた。
「ピョイー」
ミュンの腕の中で、カニがニョロニョロ暴れている。
危ない危ない。
カニが野放しだと、麦が全部食べられちゃいそうだ。
しばらくは、カニを抱っこしていてもらわんとな。
『ああ、そうだね! 鳥さんにはこれを!』
追いついてきたアフサンが、ポケットからザラザラしたものを取り出し、カニに差し出した。
「ンー?」
それを見てミュンが首を傾げる。
コーンフレークだな。
ミュンは見たことなかったか。
「ピョイー」
カニは、アフサンの手から直接コーンフレークを食べ始める。
割となんでも食べる悪食の鳥という気がするけれど、コーンフレークは気に入ったらしい。
「さて……。麦は蒔いたし、やる事は終わった」
俺は広々とした、新たな島を見回した。
入り口で麦を蒔いたので、残る広大な土地を遊ばせる形になってしまった。
まあいいかあ。
『本当に、島の入り口の入り口で蒔いたのね……』
ラティファが呆れたように呟く。
「子どものすることなので、これくらいでいいんじゃないか?」
『そうかもしれないわね。ここなら浜辺からすぐ到着できるし、そんなに悪くないかもね』
そんな感じで談笑していると、ミュンの足元でムクムクっと地面が盛り上がった。
「おっ!?」
「マ?」
「あー、ミュン、踏んじゃだめだめ! そこ、ひょいーっと避けて!」
「マー!」
ミュンが慌てて足を持ち上げたので、すてーんと後ろに転がってしまった。
「あっ、大丈夫?」
「ン!」
ころんと後転してから立ち上がるミュン。
強い子なので泣かない。
『おいおい……冗談だろう……!? 今さっき蒔いたばかりじゃないか!』
アフサンが目を見開いてかがみ込む。
土から顔を出したものを、興味深げに覗いた。
『芽だ……。確かに芽だが……なんだこれ』
なんだこれ?
いや、麦なんだろうが……。
先端に、丸っこいでかいのがドデーンと乗っかっている。
葉っぱ……?
だとすると、でかい一枚だけの葉っぱが丸まったもののような。
「この島の麦だから、どんなに変でもそんなもんだと俺は思う。セントローンのことだし、こいつは明らかに見た目おかしくても、麦なんだろう」
最初に生えた一本目に続いて、二本目、三本目も顔を出す。
ぽん、ぽん、ぽぽぽぽぽぽぽんっ、とでも言うような感じだ。
「アマチャ! ムギー!」
「そうだなー。麦がいっぱい生えてきたな!」
「ン!」
手近な一本を、ミュンがつつく。
すると、この奇妙な麦はぼよーんっと揺れるのだ。
幹の辺りが大変強靭らしい。
「ピョイ」
「カニ! メー!」
すかさず麦をつつこうとするカニを、ミュンががっしり抱きしめた。
この鳥、油断も隙もない。
『ピピー』
「ズーガー、これ、他に何かやることある? ない?」
『ヤルコト、ナイ。アシタ、マツ』
「楽ちんなんだなあ……」
感心してしまう。
俺とミュン用に調整された、楽々育成な麦なのだ。
「明日からが楽しみだなー、ミュン!」
「チャー! ムギー!」
また一つやることができた。
そうだ。これから、麦の観察日記でもつけたらどうだろう?
そんな事を考える俺なのだった。




