無人島生活十日目 ミュンの機嫌と賑やか朝ごはん
「アマチャ! ハヨー!」
ぶんっとミュンの手が風を切る音が聞こえた気がしたので、ガバっと起き上がった。
「おはよう、ミュン」
「ピャッ」
今まさに、俺をぺちぺちして起こそうとしていたらしきミュンが、びっくりしてひっくり返った。
お尻の下にカニが敷かれて、「ピョイー」と鳴く。
カニは頑丈だからきっと平気だろう。
「チャ? アマチャ、レーノ?」
「俺だって自分で起きれるよ。最近はずーっとミュンに起こしてもらってたけどね」
俺が自力で起床してしまったことが訝しいらしく、むつかしい顔をするミュン。
彼女の頭をくしゃくしゃ撫でると、ミュンは考えるのをやめたようだ。
「チャ! ゴハン!」
「おー! 起きたばかりだっていうのに、ミュンのお腹は元気だなあ」
勢いよく立ち上がる彼女。
それに合わせて、お腹がグーッと鳴った。
「ミュン。もしかして早起きして、毎日お散歩とか行ってた?」
「……ンー」
あっ、誤魔化した。
物凄く露骨に目線をそらしたぞ!
「ミュンー。一人で遠くに行ったら危ないから、俺を起こしてから一緒にお散歩にいけばいいだろー」
なんか動悸がするぞ。
今までミュンは、一人でお散歩をしていたということは、俺の知らないところで危険な目に遭っていたかも知れない……!
「ヤー!」
「ミュンー!」
困った。
ミュンはぷいっと背中を向けてしまった。
反抗期だろうか?
えっ、反抗期なの?
俺は反抗期の子供とどう接したらいいかなんて、全くわからないんだけど。
悶々としていると、『ピピー』とか言いながらズーガーが階段を上ってきた。
『ミュン、サンポ、ダイジョウブ。ズーガー、オトモ』
「なんだ、ズーガーと一緒だったのかー」
俺は胸を撫で下ろした。
ヤシガニ以外にはそれなりに良い働きをするズーガーである。
島のことにも詳しいし、それなら一安心だ。
「ミュン、いきなり怒ってごめんなー。機嫌を直してくれ」
「プー」
おお、ほっぺたを見事に膨らませている。
ぱんぱんだ。
思わず指で突くと、ぶぶぶぶぶ、とミュン口から息が漏れた。
「モー!」
ミュンがばたばた手を振り回して抗議する。
せっかくむくれたのに、含んだ空気がみんな外に出てしまったので台無しじゃないか、と言いたいようだ。
「わはは、ミュンがぷくぷくしてるのが悪いんだぞ。よし、仲直りしてご飯食べに行こうか」
「ゴハン!!」
ミュンの機嫌が一瞬で直った。
食べることに正直な子なのだ。
「ほい」
「チャ!」
階段を降りたら、手をつないで顔を洗いに。
今日も無人島はいい天気である。
あ、なんか名前のある島だったっけ? だけど、どういう名前だったかよく覚えていないな。
まあ、ラティファとアフサンに会えばまた教えてもらえるだろう。
そうだ。
朝食はあの二人と摂るのはどうだろう。
「ミュン、昨日来たお姉さんとお兄さんと、一緒にご飯食べようか」
「ンー?」
「ほら、あのメガネの、お姉さんと」
メガネのポーズと、胸をドーンというジェスチャーで、ミュンは「アー!」と察したようだ。
「ゴハン! ショネー」
「そうだなー。一緒になー」
顔を洗った後、二人で朝食になりそうなものをちょっと多めに取っていく。
ミュンは、低いところに生えている柑橘類中心だ。
たくさん抱えて、ぽろぽろ落とす。
「よし、ミュンが落っことさないように、バスケット作るか!」
「バチュケ?」
「バスケットなー。バスケット、できろー」
俺がコントローラーを振るうと、木の枝や葉っぱがくるくると編み上がり、ミュンが持ち運べるサイズの可愛いバスケットができた。
「キャー!」
ミュンも気に入ったみたいだ。
バスケットを抱えて、甲高い声を上げてぴょんぴょん飛ぶ。
そこに、柑橘類をぽこぽこ入れてやるのだ。
「俺は青バナナで行こうかな。これ、ネギの味がしてまあまあ美味いんだよな。でもなんでネギの味をチョイスしたんだろうなあ」
青バナナはボリュームがあるので、一人二本あれば十分だ。
ミュンはちっちゃいけれど、ちゃんと一人前食べるので、八本持っていくことにした。
二人でわいわいと森を出ると、浜辺に鎮座した船が見える。
船の上では、アフサンが寝巻き姿で体操をしていた。
「おーい、アフサン! おはよう!」
『やあおはよう、アマタ、ミュン。ラティファも起きなよ。アマタたちがやって来たよ。……済まないね。彼女は低血圧で、仕事の義務感に囚われていないと、いつまでも寝ているのさ』
「無理に起こさなくてもいいんじゃないか? ゆっくり朝飯でも食ってれば、そのうち目覚めてくるさ」
「アプサン、ゴハン!」
「おっ、ミュン、アフサンの名前を覚えたのか! えらいぞー」
「エヘヘ」
ミュンの学習能力にはびっくりするなあ。
さては天才か。
『僕の名前を覚えてもらえたとは光栄だね。よし、とびきりの紅茶をごちそうしよう。もっとも、数が限られているから、将来的にはこの島で紅茶を栽培することも視野にいれているけどね』
アフサンが、船から紅茶セットを持ってきた。
俺たちも、石油と鉄板を提供する。
『どうやってこの島で煮炊きしてると思ったら……ず、随分ワイルドな料理の仕方をしてたみたいだね』
アフサンが引きつった笑いを浮かべた。
「そう言えば、紅茶を栽培と言ってけど、昨日セントローンから麦をもらってさ。飯を食いながら話そう」
さあ、賑やかに朝食を摂りつつ、今日の予定について話そうじゃないか。




