無人島生活九日目 こちら無人島大使館
船がドーンと、浜に乗り上げてきた。
正しくは、足の生えた丸太船が船を引き上げた。
『……これ、戻れるのかしら』
ラティファさんが不安そうな顔をした。
この船そのものを、彼女たちの住まいとして使用することにしたのだ。
「よろしく、ラティファさん、アフサンさん」
『これから色々お世話になるのはこちらだし、さんはいらないわ。私たちもアマタって呼ぶから』
「分かった。ラティファ、アフサン」
『ええ、よろしくね。それで……トイレだけはどうにもならないのかしら』
ラティファが早速、とても困った顔をした。
「ああ。この島のトイレは、穴を掘ってそこにする。トイレットペーパー代わりの葉っぱはあるから」
『ううう』
ラティファが嘆いた。
アフサンは逆に目を輝かせた。
『トイレットペーパーの代わりになる植物……!? 詳しく!!』
ぐいぐい来るな。
ということで、午後は丸一日、アフサンを案内して島を巡ることになった。
ラティファはミュンが接待するらしい。
「ミュン、ちゃんとやれそう?」
「ン! ミュン、レー! ナーノ!」
「よし」
自信たっぷりな彼女の頭を撫でる俺。
『あの……彼女の言葉がわからないんだけど』
「俺も分かんない。ズーガーでも翻訳できない」
『ズーガーって、今、私と貴方の言葉を翻訳してるそれよね? それでも分からないって、一体……』
「フィーリングでいけるいける。俺もそれでずっと乗り切ってきた。じゃ!」
「アマチャ! ネー!」
ミュンが手を振ってきたので、こっちも手を振り返した。
そうしたら、ミュンは対抗して飛び跳ねながら、思いっきり両手を振る。
やるな。
俺は、アフサンが放つ矢継ぎ早な質問に答えつつ、島をぐるりと一回りした。
動物がいないこと、独自の植物が生えていること。
どう植物を利用して暮らしているか、などなど。
『温泉と油田がある!? 意味がわからない。ここは地理的にも大陸とは隔絶してるんだ。海底火山の後という訳でもないし、どうしてそんなものが二つ、混じり合いもせずに湧いてるんだろう』
分からん。
とにかく、アフサンは今まで寡黙だったのが嘘のように、次々と疑問を口にした。
そして、この島で調査に当たれることの幸福を高らかに唱える。
変な人だ。
だが嫌いじゃないな。
途中で、柔らかな果皮の実をもぎ、二人で食べながら帰ってきた。
島は一周四キロほどだから、説明しながら歩いて三時間ほどで回れる。
『素晴らしい時間だった!』
アフサンは感激して、俺に抱きついてきた。
オーバーアクションな男だなあ。
「アマチャー!」
お!
ミュンがいるところまで戻ってきたんだな。
「テー!」
ぱたぱた駆け寄ってきたミュンが、アフサンにどくように指示をする。
『おっと!』
彼がどくと、ミュンがぴょーんと跳ねて俺に抱きついてきた。
「アマチャ!」
「ミュン! いい子にしてたかー?」
「チャ!」
向こうでは、ラティファがぐったり疲れた顔をしていた。
元気な子供に付き合うのは、慣れないととても疲れるよな。
俺は慣れた!
一日ミュンと一緒なのだ。
『お帰りなさい二人とも。こちらの小さなレディと一緒に、お茶の準備をしたの。アマタ、久々のお茶はどうかしら?』
「ありがたい!」
ということで、俺は文明の香りを味わうことになった。
船内に入ると、中にはベッドや座席、テーブルが用意されている。
ポットから湯気が立っており、お茶のいい匂いがする。
「こっちのお茶は、紅茶と同じなんだな。ミルクと砂糖が入ってる」
「ンマー!」
ミルクたっぷりのお茶を飲んで、ミュンが歓声を上げた。
むむっ、この幼女にミルクの味を覚えられてしまった!
島で手に入るかなあ……。
ミルクを出す動物を、セントローンに作ってもらったほうがいいかもしれない。
『難しい顔してる。贅沢なものを飲ませちゃった?』
「ミュンにいつでも飲ませてあげられるように、どうしたらいいかと思ってね」
『いいお父さんね。私、叱られるかと思った』
ラティファが笑った。
とんでもない。
俺は久々のミルクティを楽しみ、ミュンは三杯もおかわりをしたので、トイレが近くなった。
『アマタ、ちょっといいかい?』
お茶の席で、しきりにノートを書き込んでいたアフサンが口を開いた。
『聞いた話だと、どうやら君たちはこの無人島を開拓していっているみたいだ。島を貫く道ができていることは確認したよ。それに、温泉に油田、ログハウスまである。素晴らしい。そこでだけど……畑を作ってみない? 栽培に適する植物を見つけてさ』
「畑か……!」
今まで、採集生活をしていた俺たち二人だ。
そんなに面倒じゃないなら、ちょっと農耕生活に足を突っ込んでみてもいいかもしれない。




