無人島生活一日目 黒い板を調理に使い
集めに集めた、食材の数々。
ミュンが拾ってきた、ロボットのズーガー。彼に食べられるもの、食べられないものを判別してもらうと、思いの外食べられるものが多いことに気付く。
青いバナナみたいな果実や、柔らかな若木の芽。
日陰に群生していた、地味な色のキノコ。
個人的にはタンパク質が欲しいが、それはまたの課題にしよう。
「よしよし。これだけあれば腹は膨れるだろう……っと、ミュン待った! 生はいかん、生は!」
「ムー!!」
さっそく青バナナにかぶりつこうとした幼女を拾い上げる。
ミュンはじたばた抵抗するが、安全とは言え、火を通すに越したことはない。
俺は調理の準備をすることにした。
用意するのは、黒いPC。
これを温泉で軽く洗い、陽の光が当たる場所に置く。
しばらく待つと、大変な熱を持ち始めるので、この上で食材を焼くのだ。
海水にまみれてPCとしての生命は断たれたが、こいつはこうしてホットプレートとして生きる。
じゅうじゅうと、食材が音を立て始めた。
油なんかは無いから、焦げ付かないように、張り付かないように気をつけなければならない。
味付けは、海水の塩味をちょっと振る。
熱しておけば消毒もまあ大丈夫だろう。
「ダウー」
あっ、腕の中でミュンがよだれを垂らした。
俺の腕に垂れてくる。
まあ、気持ちはよく分かる。
香ばしい香りがして、実に美味しそうだ。
青バナナ、甘い香りがするかと思ったら、何だか野菜のような匂いがする。
これは熱して正解だったか。
「マウ! アムー!!」
「ぬうっ、ミュン、我慢の限界か! よし、ゴー!」
俺が解放すると、幼女は猛烈な勢いで焼きあがった青バナナを手に取った。
アチチ、アチチ、とお手玉していたが、ちょっと冷めた頃合いで、皮ごとかぶりつく。
豪快だ。
むしゃむしゃと食べているから、どうやら子どもでも美味しくいただける味の様子。
幼女を毒見役に使ったようで、ちょっと気が引ける。
「どれ……」
俺も青いバナナから食ってみた。
なるほど……。
これ、見た目はバナナだが、味がネギだ。
一見して皮付きのバナナなのだが、中には何重にも同じような皮が詰まっていて、間にトロリとした甘い汁が詰まっている。
うん、見た目を気にしなければ美味い。
青バナナネギモドキと名付けよう。
「ズーガー、これは青バナナネギモドキ。 名前、青バナナネギモドキ」
『ナマエ・アオバナナネギモドキ』
よし、覚え込ませた。
ズーガーがデータベースになってくれれば、今後もこのネギモドキを収穫できることだろう。
「マ! マ!」
「おっ、次はキノコ行っちゃうか! どんどん焼け焼け!」
ミュンが、豪快にキノコの山を熱されたPCの上に乗せる。
どうやら、ネギモドキの汁が油のような役割を果たすらしく、ジュウジュウと音を立てながら、たちまちキノコ炒めが完成した。
これは期待通りのお味。
塩しか調味料が無いから、そのうち味のバリエーションも研究せねば。
何せ、すぐにこの場所から文明のある土地へ行けるとも限らないのだ。
うまうま、とキノコをいっぱいに頬張るミュンを見て思う。
「せめて子どもには腹いっぱい食べさせてやりたいよなあ」
俺一人であれば、とっくに心が折れてしまっていたかもしれない。
だが、目の前でむっしゃむっしゃとご飯を食べる幼女を見ていると、とてもネガティブな事を考えている余裕などなくなる。
「待て、ミュン、俺の分がなくなる! それと、次はこの若木の芽をだな……」
おおよそ、日が暮れてPCの熱が冷める前に、取ってきた食べ物は胃袋の中に収めた。
「次は寝床だ」
日が落ちてきているが、幸いにも気温があまり下がらない。
食べきれなかった残りである、若木の芽の炒め物は明日の食事にして……。
「寝床って、どう聞けばいいんだ? ちょっと質問文の内容が、複雑になりすぎるだろ……」
ズーガーを前にして考え込む。
すると、俺の膝にミュンがもたれて来た。
ふにゃふにゃと欠伸をしている。
お腹がいっぱいになって、眠くなったのだろう。
ここで気になることがもう一つ。
「寝る前に歯磨き……!!」
俺は歯磨きを絶対に欠かさない主義である。
刃を磨かないことには、気持ち悪くて寝られたものではない。
「ズーガー、歯磨き! こう、こうやって、歯を磨く……!」
『ハミガキ、ハ、ミガク』
「そう! それに適してる植物とか。無いか? 分かるか?」
『ピピピガガ』
カメラみたいなズーガーの体が、ガタガタと揺れ始めた。
レンズが緑の光を放ち、点滅を繰り返す。
じっと見ていると、いつまでも揺れている。
ハッと気付いた。
「あ、どっちかの方向に向けて欲しいのか!」
『ガピー』
俺はズーガーを持ち上げると、周囲に向ける。
緑の光が、一直線に放たれた。
途端に、ロボットが静かになる。
「手がかりが無いよなあ……」
ズーガーはピカピカと光るばかりで、今ひとつ何に反応しているのかよく分からない。
……と、茂みの一つを指し示したところで、『ピガー!』と大きな音を立てた。
「シーッ! ズーガー、静かに! 寝てる! 寝てるからミュンが!」
『……ピガー』
よし、ボリュームが下がった。
言葉は通じてないが、思いは通じる。
しばらくはこれで行こう。
で、あの茂みの枝が、歯磨き?
俺は、ミュンを起こさないようにしながら、座ったままの姿勢で茂みに向かってにじり寄った。
枝の一本を手に取る。
折ってみようとして……これがなかなか硬い。
めりめり、めりめり、と音はするものの、なかなか折れてこないのだ。
両手で枝を掴み、折ろうと力を込める。
ようやく、みりみりみりっと枝が曲がり始めた。
折れた部分から、糸のようなものがはみ出して見える。
これは、木の繊維か!
繊維を豊富に含んだ枝なのだ。
なるほど、これは歯ブラシの代わりになる。
「ミュン、ミュン」
寝ている幼女をぺちぺちして起こす。
「ムマー」
不満げに、半眼になったミュンが目を覚ました。
すかさず彼女の口に、繊維をほぐした枝を差し込み、ごしごしごしごし。
「ママママッ!? マママー!?」
いきなり歯磨きをされて、ミュンは目を白黒。
よし、ざっとだが、これでキレイになっただろう。
「アマチャー!!」
ミュンが抗議の声をあげてきた。
そんな彼女を背にして、俺も枝の逆側を噛みちぎり、ほぐして歯ブラシにする。
うん、やっぱり歯を磨かないと一日が終わらないよな。
今日は星を見ながら、木陰で寝るとしよう。
ミュンにペチペチ背中を叩かれながら、俺はそんな事を思うのだった。




