無人島生活八日目 鳥、抱き枕になる
「ホワホワホワ」
へんてこな声を上げて、ミュンがあくびした。
夕食を終えて、とっぷりと日も暮れた頃である。
焚き火を囲んでまったりしていたのだけれど、日が沈んだらミュンはすぐに寝ていた。
そろそろお眠の時間だろう。
「ミュン、そろそろ寝る?」
「ンー」
膝の上のカニに、顎を乗せてうとうとしている。
頭がぼーっとしているようで、カニの羽毛に手を突っ込んで、羽を引っ張ってはギューっと伸ばして、手を離して。
横にぶにゅーっと伸びたカニが、「ピョイー」とか鳴きながら元の形に戻る。
面白い作りをしているなあ、この鳥。
「ほーら、ここで寝ちゃダメだぞ。帰ろう帰ろう」
後ろに回って、ミュンを抱き上げた。
「マー」
ミュンは足をぱたぱたさせる。
抱っこしたカニは離さない。
昼間は元気だった鳥も、今は大人しい。
鳥目なのかな?
辺りが暗いと、動き回らなくなるようだ。
だが、瞬きもしないで真ん丸な目で、じーっと虚空を見つめているのはなんともシュールだ。
『ピピー』
「おっ、ズーガーも帰るのか。カニのことを報告するのか?」
『ピピー』
カメラっぽいロボは頷くように体を揺らした。
島のメインコンピューター、セントローンならば把握しているはずだが。
まあ、今日のズーガー、一日ミュンやカニと遊んでいたので、たっぷりデータが取れたはずだ。
ロボットはお尻に当たる部分をふりふりしながら、茂みの奥に消えていった。
俺は彼を見送った後、ミュンを抱っこして家に戻る。
すっかり住み慣れたログハウスだ。
中には、草を使った布団が作ってあって、この上にミュンを寝かせ……。
あ、歯磨き。
「ミュン、歯を磨くぞー」
「ヤ、ヤーノ!! ゴシゴシ、ヤー!」
「だーめ!」
俺はミュンの口に天然の歯ブラシを差し込もうとするのだが、彼女は口をぎゅーっと閉じて開かない。
「ふふふ、甘く見てはいけない。ほれ、こちょこちょこちょ」
「ミ!? ミョ、アハ、アハハハハハ!」
「今だ!」
今が攻略の時。
ミュンの口に差し込んだ歯ブラシで、シャカシャカと磨く。
「マー! マママママママ」
ミュンが変な声を上げながら、抵抗を止めた。
歯ブラシで磨かれると、この子は諦めるのだ。
そろそろ、自分で歯を磨くのを覚えさせないとな。
「はい、終わり。うがいは……いいかな」
ぽいっと歯ブラシを外に放った。
繊維が多い木の枝を使ったものだから、そのまま土に還る。
「アマチャー! ゴシゴシ、メー!」
「あっ、歯磨きしたら目が覚めちゃったか。でもな、ミュン、歯磨きしないと、歯が痛い痛いってなっちゃうぞ。ご飯食べられなくなっちゃうぞー」
「マ!?」
「痛い痛い、やだろー?」
「ヤー」
「ご飯食べられないのいやだろー?」
「ヤー!!」
ミュンが顔をブンブン振った。
「だから歯磨きをしないとな」
「ミュ……」
この幼女の中で、大変な葛藤が行われているようだ。
ミュンは俺の前でどんどん表情を変えて、百面相をした。
そして、最後は神妙な顔になって頷いた。
「ン」
「よし、いい子。じゃあ寝ようか」
俺も歯磨きを始める。
ミュンは隣に座って、俺がゴシゴシやるのをじーっと見ていた。
おっ、これは一人で歯磨きできるようになる切っ掛けかもしれないな。
ちょっと、いつもよりも気合を入れて、熱心に磨いた。
「どうだミュン、歯磨きはこうやって……」
「ムニャ」
寝ている。
一瞬目を離した隙に、ストンと眠りの世界に落ちてしまったのだった。
寄りかかってきた彼女を、俺はそっと布団に寝かせる。
ミュンは腕の中に、カニを抱っこしたままだ。
「ピョイー」
カニは小さい声で一度鳴くと、真ん丸な目をぱちっと閉じた。
こいつもいきなり寝たらしい。
抱っこされてても気にならないんだな。
さながら、カニはミュンにとっての抱きまくらである。
あの弾力だ。
さぞかし気持ちがいいだろうな。
「さて、寝るか!」
俺も高らかに宣言して、横になった。
ここには、夜更かしの原因になるインターネットも無いし、俺の携帯電話は水に落ちて行方不明。
電気が無いから夜は星と月の明かりだけ。
ぼーっと潮騒を聞きながら、浜辺を見ていてもいいのだが、下手に遅くまで置きていると、翌日からのミュンの攻勢に耐えられない。
俺も健康的になったなあ、と思いつつ、目を閉じるのだった。
小さな島のこと。
森の奥に入った我が家にも、浜辺に打ち付ける波の音が、心地よく届いていた。
八日目終わりです。
またしばらくしたら、そのうち九日目をアップします。
またまた、無人島に楽しい事件が起こる予定です。




