無人島生活八日目 鳥、温泉に入る
「ピョイー」
カニはとても自由だ。
今も、ミュンの腕から飛び出して、茂みの中をトテトテと突っ走る。
俺が早歩きするくらいの速度なんだが、ミュンからするとなかなかの速さ。
「カニー! テー!」
ミュンもトトトトッと駆けていく。
放っておけないので、昼寝から起きたばかりの俺も、追いかけるのである。
「あれは、見るもの聞くものみんな珍しいのかね」
『ピピー』
俺の問いに、並走するズーガーが首を傾げるようじゃジェスチャーを見せた。
「ズーガーも分からないのか? だってあれ、セントローンがくれた卵じゃないか。データとか残ってないのか?」
『ノコッテナイ。卵、残ッタ動物、混ゼタ。作ッタ』
「動物をまぜこぜにしてできた卵だったのか、あれ! じゃあ、カニは鳥ですらないかもしれないなあ……」
それ以上に、そんな動物まぜこぜにした卵が、よくぞ無事に孵ったものだ。
そして、それをミュンが預かって温めていたという事実。
何気にとんでもないことをしてるんじゃないだろうか。
セントローン、島のメインコンピューターのような顔をしながら、本当はリスク管理とか何も考えていないのではないだろうか。
そんな疑惑が浮かんできた。
『ピピー』
考え込んでいた俺がゆっくりになったので、合わせてズーガーも速度を緩めた。
「テー!」
ミュンはどんどん先に行くが、この茂みを抜けると確か、温泉のはず。
カニとしても、いきなり大量のお湯が目の前に出現するわけで、流石に走るのをやめるだろう。
そんな予測を立てながら、俺はミュンの後をついていったわけである。
すると、
「アーッ!」
ミュンがびっくりした声。
「おっ、どうしたミュン!?」
俺もちょっと慌てて、また駆け足になった。
茂みから顔をだすと、ミュンが、うんしょうんしょ、と服を脱ぐところだった。
「なんで服脱いでるの? まだお風呂の時間じゃないだろ」
「アマチャ! レー! カニ、オフロー」
「えっ、カニがお風呂に入ってる?」
そんなまさか、と思った俺。
ミュンが指差す先に目をやると、緑色の丸っこいものが湯船にプカプカ浮いているではないか。
「ピョイー」
あの鳥、怖いものが無いのか!
「なるほど、ミュンはママとして、カニを追いかけるべく裸になりたかったんだな」
「ン!」
「よーし、行ってきなさい。足元に気をつけてね」
「チャ!」
ミュンはスポーンと服とパンツを脱ぐと、湯船に飛び込んだ。
ばしゃばしゃとお湯をかき分けてカニに近づくと、その勢いでお湯が掻き分けられ、カニが遠ざかる。
「ピョイー」
あの鳥、全く泳ぐ素振りも見せないで、流されるまままだ。
仰向けにプカーっと浮かび、ミュンが起こす波に乗ってスーッと流されて行った。
「アーン、カニー!」
ミュンがばしゃばしゃーっとお湯を叩く。
怒った。
「ミュン、あんまりばしゃばしゃやってると、カニはまた遠くに行っちゃうぞ」
「マー?」
「ばしゃばしゃって行くんじゃなくて、こう、そーっと、そーっと追いかけるんだ」
「ソート?」
「そうそう」
俺が、そっと歩くのを仕草で見せてみると、ミュンがムムムッと唸った。
そして、俺の真似をして、ゆっくりと動いてみる。
すると、お湯があまり波打たないわけで、カニが遠ざからない。
「チャー!」
ミュン、俺の方法ならカニに近づけると知り、興奮である。
興奮してバシャバシャやり、またカニが遠ざかり、慌てて静かになってそーっと近づく。
そしてついに、カニと接触!
「マ!」
「ピョイー」
カニの羽毛を鷲掴みにして捕まえた。
捕まえた勢いが良すぎて、カニがずぶずぶっとお湯に沈んだ。
そして、不思議な浮力でふわーっと浮かんでくる。
なんだ、なんなんだあの鳥は。
「キャー!」
カニの凄まじい浮力に感激したらしく、ミュンがはしゃいだ。
全身で鳥に抱きついて、体重をかける。
おお、ミュンの体重が掛かっていると言うのに、浮いている……!
あれ、本当になんなんだろうなあ。
とりあえず分かったことは、あいつは水にめちゃめちゃ浮かぶので、お湯に浸かるというのが出来なりらしいということだ。
カニのために、ブラッシングをする道具を作らなきゃいけないようだ。
ミュンが抱きしめたりする関係上、不潔な状態にさせるわけにいかないからな。
「よーし、ちょっと時間が早いが、俺も風呂に入っておくかな!」
俺は、夕食前の風呂と洒落込むことにしたのである。
「おーい、ミュン、俺も混ぜてくれ。カニは俺が掴んでも浮かぶかな……?」
「チャ!」




