七日目夜 赤い服と祝勝会
今日は風が強かったから、朝に染めた赤い服はもう乾いていた。
ということで、三日連続新しい服のミュンなのである。
「キャー! フク! ミュン、フクー」
真っ赤な服を着て、ぴょんぴょん跳ねたり、くるくる回ったり。
さっきまで不安そうだったのが、一気に笑顔になってしまったミュン。
この笑顔を、俺が守ったのかと思うと感慨もひとしおだ。
いや、正確にはヤシガニが無双して船が沈み、海賊たちが逃げていったのだが。
「もがもが」
功労者であるヤシガニ、ミュンの赤い服を見て、ハサミを振り上げて何か言っている。
「チャ! ヤチガニ、レ、ドォー?」
「もが」
「マー!」
おっ、ヤシガニがミュンの服を褒めたようだ。
明らかに、幼女とヤシガニの間にはコミニュケーションが成立しているよな……。
もしかして、ヤシガニがいきなりやる気になったのって、ちょうどミュンが泣いた直後だったから……。
いやいや、まさかな。
さて、晩御飯は食べたのだけれど、ここは記念にちょっと騒ぎたい気分。
昨夜からの懸念ごとだったものが、解消できたのだ。
いや、大して長い間懸念してたわけじゃないんだが。
ひとまず、ズーガーの手を借りて、家の周りに自生している柑橘類を集める。
そして、ズーガーの仲間たちにオーダーしておいた、甘いものを採集。
大量の花がドサッと届けられた。
萼を抜くと、花の裏側から蜜がしたたってくる。
柑橘類の実を取り出して、木の桶に開け、そこに蜜を掛ける。
それだけ。
だが、俺が幼い頃に記憶しているデザートで、グレープフルーツを真っ二つに切ったものに、砂糖を掛けただけのデザートがある。
あれは美味かった。
きっとこれも美味いに違いない。
スプーンだけは用意できなかったので、実はあらかじめ取り出してから蜜をかける。
「ミューン」
容易が出来たところで、ヤシガニと遊んでいた幼女を呼ぶ。
「チャー!」
走ってきた走ってきた。
ヤシガニも後をついてくる。
彼の姿を見て、ズーガーたちが一斉に、『ピガーッ』と悲鳴をあげた。
ロボット大移動である。
一斉に物陰に逃げ込んでいく。
そんなにヤシガニが怖いか。
俺もまあ、あのヤシガニの大活躍を見てると正直引く。
だが、ミュンとこうして仲がいいわけだし、結果的にミュンを守る手伝いをしてくれたわけだ。
こいつは悪いやつではないんじゃないだろうか?
「ミュン、今日は特別だ。デザートだぞー」
「デザト?」
耳慣れぬ言葉に、ミュンが首を傾げる。
「そ。デザート。毎日は手間がかかって無理だけど、たまにはいいかなと思ってな。召し上がれ!」
「ミュー?」
木桶の中にある、柑橘類に蜜を掛けたもの。
明らかに見慣れない食べ物に、ミュンが右に左に首を傾げる。
そうか、ここについてからずっと、焼いた物ばかり食べてたもんな。
こういう生の食べ物を口にするのは初めてかもしれない。
ここは一つお手本を見せよう。
「いただきます」
一声かけて手を合わせてから、摘んで口に入れる。
おお……!
柑橘類そのものは酸っぱいが、花の蜜が猛烈に甘いから全然いける!
これはなんというか……歯が溶けそうに思えるほど甘いぞ。
「イタダキマス!」
ミュンも食べるときの掛け声をしてから、木桶に手を伸ばしてきた。
むにゅっと摘むと、蜜の掛かった果実を口に放り込んだ。
次の瞬間からの、彼女の表情は劇的に変化した。
訝しげな顔から、目がまんまるに見開かれ、頬は紅潮し、一噛みごとに表情が緩んでいく。
「ピャ~」
なんと幸せそうな顔をするのか。
俺は一個で満足だったが、ミュンは夢中になって、二つ目、三つ目と頬張っていく。
ヤシガニも興味が湧いたのか、もがもが言いながら起き上がり、一つ摘んでもりもり食べ始めた。
ころんと転がって痙攣し始める。
あっ、こいつ甘いものが苦手だったのか!
俺は慌ててヤシガニを抱え、いつも湯冷ましを作っている温泉脇に急ぐ。
湯冷ましを掛けて、たっぷり飲ませてやると、ヤシガニがまた、もがもが言い出した。
意識を取り戻したようだ。
「とりあえず、ここに湯冷ましがあるから。自由に飲んでいいから今日は休んだ方がいぞ」
「もが」
「俺は戻るからな」
「もが」
相変わらず、言葉が通じているのか通じていないのか分からない。
戻って来た頃には、ミュンは柑橘類を全部食べ終わっていた。
桶についた蜜まで指で掬って舐めている。
「ミュン、美味しかった?」
「ン! オーシカッタ! ゴチソサマー!」
「はい、お粗末さま」
俺は彼女の頭を、撫で撫でする。
ミュンはご機嫌で、撫でられるとくすくすと笑った。
「さあ、ミュン。ちょっとしたら寝ないとね。でも、その前に……」
「ミュッ!」
俺が何をしようとしているのか勘付いたらしい。
ミュンはすーっと俺から離れると、逃げようとする。
「歯磨きだー!」
用意してあった、歯ブラシの枝を取り出すと、ミュンは一目散に駆け出した。
「ヤー!」
「待てー! 虫歯になっちゃうから、歯磨きしなきゃ!」
「ヤーノ! ヤー! アマチャ、ライッ!」
「嫌いってか。だがどんなに言われても歯磨きはするぞー!」
「ピャー!」
捕獲の後、ミュンの歯磨きを開始する。
歯を磨かれ始めると、彼女は観念して大人しくなるのだった。
さあ、色々あった一日も、いよいよ終わりだ。




