七日目夕方 対決、なぞの船!
さて、準備は万端!
そう思ったところで、彼等はやって来た。
俺が必死に準備していたのは、ちょうどギリギリのタイミングだったことになる。
「船だ」
時間帯は日暮れ前。
夕食を食べ終わる頃合いだった。
陽の光があると分かりやすい。
あれは多分、漁船みたいなものだ。
島の近くまでやって来て、誰かがこっちを見ている。
「ズーガー」
『ピピー』
ロボットがやって来て、俺の手の中に飛び乗った。
望遠モードに変形したズーガーを覗く。
すると、こちらを見ている人間の姿がよく分かった。
褐色の肌をしていて、あまり上等ではない服を着ているように見える。
「~~~~~~!」
向こうのスピーカーから音がしたようだ。
聞いたことがない言葉が流れてくる。
ああ、ダメだ。
彼等も話が通じやしない。
俺は何も答えられないし、拡声器だって無い。
「アマチャ? レ、ナー?」
「あれは船だなー。良い奴なのか、悪いやつなのか……」
「ンー」
ミュンが困った顔をした。
俺だって判別がつかないから、彼女に分かるように説明なんかできないのだ。
船は俺たちの姿を認めて、ずっと観察しているようだ。
俺と、ミュン。
東洋人のおっさんと、褐色の肌の幼女。
二人がぼやーっと船を眺めているようにしか見えまい。
しかも不思議な貫頭衣を身に着けている。
ちなみにミュンの衣装は、青い服。
今夜には赤い服に着替える予定だ。
「~~~~~~!」
またスピーカーから声が聞こえた。
だから何を言ってるのか分からないというのに。
俺はちょっとイラッとした。
英語で喋ってくれれば、中学英語くらいまでなら分かる。
リスニングもまあ、やってやれないことはない。多分。
だが、スピーカーから聞こえるのは、俺が聞いたことも無いような彼等の現地の言葉なのだ。
もう一度ズーガーで彼等を覗いている。
うわっ、人が増えてるじゃないか。
年齢はよく分からない。
多分若い男から、中年くらいまでか?
こっちを見て、何かニヤニヤ笑っているのが嫌な感じである。
「うむ。決めた。あれは敵だ」
俺はここで決断することにした。
俺一人だったら、人恋しくて、彼等とギリギリまでコミニュケーションを取ろうとしただろう。
だけど、今は俺の横にミュンがいる。
彼女を守るためには、俺がリスクをマネジメントせねばならないのだ。
即断即決!
俺は腰の後ろからコントローラーを取り出した。
それを見て、船の連中がワイワイ叫び出す。
おいおい、あいつら……銃を取り出してきたじゃないか!
「ええい、昆布伸びろ!!」
俺は叫びながら、コントローラーを振り回した。
船は速度を速め、こちらに向かってこようとしている。
それが、突然止まった。
前に進もう、進もうとして、舳先が別の方向にずれていく。
よしよし、伸びた昆布がスクリューや船体に絡まり始めているのだろう。
「~~~~~!」
業を煮やしたらしく、奴ら、手にした銃でこっちに発砲してきた。
凄い音がする。
俺は一瞬、呆然としてしまった。
それはミュンも同じだ。
「チャ……! ピ、ピャーッ」
あっ、びっくりして泣き出した。
「お……おのれー! ミュンを泣かせたな!? ヤシの木!」
俺はカッとなって、銀のコントローラーを振り回す。
すると、ヤシの木がみしみしと音を立ててしなった。
「ズーガー、測距!」
『ピピー、ココ』
「発射!」
俺は全身を使って、思いっきりコントローラーを振り下ろした。
すると、俺の頭がさっきあったところを、何かがチュインと通り抜けていく。
弾丸だ。
うわーっ!!
俺は腰を抜かして、へたり込んだ。
だが、ミュンだけは守らねばと思い、彼女を抱き寄せる。
「アマチャー!」
「だだだ、大丈夫だ! 俺が守るからな!!」
船の方も大混乱である。
飛んできたヤシの実が、何人かを直撃して吹き飛ばしたのだ、
船体にもあちこちに、ヤシの実が突き刺さっている。
「~~~~~~!!」
攻撃的な声で、スピーカーが怒鳴った。
うわ、うわ、うわ。どうする!?
俺はパニックになりかけた。
その時である。
「もが」
俺の横を、シャカシャカと通り過ぎていく者がいた。
ヤシガニである。
彼はスッと波の中にその姿を没する。
その直後、波に白い線が浮かび上がった。ヤシガニが高速で泳ぐ軌跡である。
「ヤシガニ! お前、一人で戦うつもりか!」
「もが」
微かにヤシガニの声が聞こえてくる。
何があいつを動かしたのだろう。だが、ヤシガニはあの船を敵と認め、立ち向かうことを選択したのだ。
「銃に気をつけろ、ヤシガニー!!」
「もが」
俺が叫んだ直後、ヤシガニが泳いでくる姿を見て、船の男たちは驚いたらしい。
大きな銃を構えて、連続して水面を射撃した。
ほとんどの射撃は当たらなかったが、それでも弾の数が多い。
射撃はヤシガニの体を捉えてしまった!
カンッ。
カンッキンッキンキンキキキキキキキキキンッ。
「は?」
冗談みたいな音が聞こえた。
「もがー」
ヤシガニは銃の連続射撃も構わずに船に向かって泳いでいくと、ピョーンと飛び上がった。
ハサミが夕日にきらめく。
船の舳先が、ごっそりと切り落とされた。
「~~~~~!?」
銃が真っ二つになった。
船員の一人が、ズボンをヤシガニに切られて、尻がむき出しになっている。
「~~~~~~~!!」
また射撃の音。
だが、発射の音と同じくらい、カンカンキンキンという音が響く。
そして、船は俺とミュンが呆然と見ている前で、ゆっくりと沈んでいった。
「~~~~~~!!」
小舟が船員をみっしりと乗せて、島から遠ざかっていく。
「や、やったのか……?」
船員たちは、こちらを振り返りもしない。
必死に小舟のエンジンを吹かせて、離れることで必死なようだった。
「うひー……!」
俺は大の字になって寝っ転がった。
凄まじい脱力感。
「チャー」
そんな俺を、ミュンがむぎゅっと抱きしめてきたのである。
あー、この子が無事で良かった……。




