無人島生活一日目 湯船で思い悩み、やがてロボット
「うおぉ……あーっ、あ、あ────」
凄い声が出た。
溜まった温泉はやや冷めて、気持ち熱いくらい。
ゆっくり浸かっていくと、つま先からじんわりと温もりが広がってくる。
いやあ。
南国とは言え、濡れっぱなしで歩いてたようなもんだからな。
冷えていたんだろう。
冷えは敵だ。
俺は温泉に肩まで浸かると、湯を掬って顔を洗った。
体についていた、海水の塩が洗い流される。
「マ~」
あっ、温泉をプカプカと浮きながらミュンが流れてくる。
彼女を見ていると、人間は水に浮くのだなあ、としみじみ思う。
それはそうと、女の子が仰向けに浮くとは、はしたない。
「ていっ」
俺は彼女の上に、葉っぱを被せた。
「ム~」
通過して行った。
泳いでいる様子も無いのに。さてはこの温泉、お湯が流れているな?
少々興味を惹かれたが、確認に行くのも億劫である。
俺はしばし、湯船の中でじっとしている。
日は少しずつ傾きだしている。
南国で日が傾くという事は、もういい時間なのかもしれない。
本格的に野宿をせねば……。
俺はもちろん、野宿の経験なんて無い。
サバイバルの知識も無い。
備えだって無い。
ないない尽くしだ。
「まずい、不安が襲ってきた」
ハッと我に返る俺である。
今まで、極限っぽい状況でドーパミンがどばどば出ていたから、考えていなかったのだ。
いざ、不安を口に出すと本当に不安になってくる。
俺はこの後、どうしたらいいのだろうか。
風呂から上がって、今夜どこかで寝るとして、その後どうする?
ここは、ずっと歩いていけばどこかの町についたりするんだろうか?
俺は日本語しか使えないぞ。
言葉が通じなかったらどうするんだ。
キュッと胃が痛くなってきた。
俺はもともと、ネガティブ思考なのである。
悶々としていると、俺の元にミュンがすいすい泳いで近づいてきた。
さっき被せてやった葉っぱが、お尻の上に乗っている。
「アマチャー」
「おーう」
「ン、レー」
ミュンは、湯船の中を引きずってきたものを俺の前に持ち上げてみせる。
これは……。
さっき壊れていた機械の部品かな?
ボコボコになったプラスチック様の外装に、一部だけ穴が空き、そこに緑色のガラスが嵌まっている。
大きさはミュンの両手からはみ出すくらいで、一見してまるで、変わった形のカメラだ。
「パ!」
幼女がその部品を、気合と共に叩いた。
ぺしゃっと水飛沫が俺に飛ぶ。
「うおーっ」
お湯が目に入り、のた打ち回る俺。
ミュンがきゃっきゃと笑う。
その時である。
『&%$%#$&&%%』
カメラみたいな部品が、何か喋りだしたのだ。
「うおっ!?」
「ニャッ!?」
ミュンが部品を放り捨てて、こっちにくっついてきた。
部品はお湯にプカッと浮きながら、緑のガラス部分をピカピカ点滅させる。
「しゃ、喋れるのか」
『シャシャベレルノカ』
「うおっ!? 同じ事言いやがった!」
『ウオオナジコトイイヤガタ』
「マムー?」
『マムー』
ひたすらオウム返しに喋ってくるな。
なんだこれ。
というか、石油や温泉を掘ったドリルと言い、この言葉を話すカメラと言い、この島は一体何なんだ。
どうも普通の環境ではないぞ。
俺が考え込んでいると、ミュンがカメラとお喋りを始めた。
よく分からない言語で、カメラにぺちゃぺちゃ話しかけている。
カメラもまた、ミュンの言葉をそれっぽく再現して喋り返す。
子どもはなんでも楽しめるのだなあ。
才能だ。
俺はほっこりしながら、その光景を眺めていた。
「チャー!」
『ムーマ』
「ははは、会話してるよ。………………。 …………!? 会話してる!? オウム返しじゃなくなってる!?」
「ム~」
そろそろミュンがのぼせてきたので、温泉から上がる事にする。
俺たちは目の前にカメラを置き、話しかける。
「俺は、篤城数多だ」
『オレハアツシロアマタダ』
「名前! 篤城数多」
『ナマエアツシロアマタ』
「名前、ミュン」
『ナマエ、ミュン』
「名前」
俺はカメラを指差した。
すると、緑のガラス面、恐らくはレンズが点滅する。
『ナマエ、ズーガー』
よし、どうやら、名前という言葉の意味を理解したようだ。
こいつ、多分AIか何かを積んだ、ロボットなんじゃないだろうか。
凄い速度で、俺たちの言葉を学習していく。
あ、いや、ミュンの言葉は学習してるんだかしてないんだか分からないが。
「ズーガー、食べ物を知ってるか? 食べ物。たべもの」
俺はその辺の草を千切り、口に運ぶ仕草をして見せた。
噛み、飲み下すジェスチャー。
カメラ……ズーガーは、それを見てまたレンズを点滅させた。
『タベモノ』
理解したようだ。
したのかなあ?
「ミュン、試しに何か口に入れてみて。ええと、こうやって」
「ム!」
幼女は風呂上りの格好のまま、ぱたぱたと温泉脇に走っていった。
しまった、何か着せてやるんだった。
視界から消えてはことなので、俺も慌てて立ち上がり、素っ裸で追いかける。
ここが日本なら、事案だ。
だが、心配の必要はなかった。事案の心配ではない。ミュンのことだ。
彼女はすぐ近くで、木陰に生えているキノコらしきものをもぎ取っている。
それをノータイムで口に運ぼうとした。
「あっ」
『ピガー!!』
ズーガーが猛烈な音を立てた。
様子がおかしい。
ミュンがびっくりしてキノコを口から離すと、音も収まった。
また口をつけようとすると、『ピガー!!』と騒ぐ。
よし、多分これは毒があるんだな。
このロボット、便利だぞ!
では、パンツと靴を履いたら、食べ物探しに出発しようじゃないか。




