無人島生活七日目 幼女とヤシガニのコミニュケーション
「マーッ!」
すっかり要領を覚えたミュンの、強烈なスパイクが炸裂する。
「うわーっ」
おじさんである俺は、ボールをレシーブできずに砂浜に転がるのである。
「チャー!」
幼女、勝利の雄叫びを上げる。
下に落としたら負けという簡単なルールなので、ミュンもすぐに覚えることができた。
だが、子どもはゲームをマスターするのが早い……!
このまま育てれば、ミュンは世界を狙える器かもしれない。
「アマチャ! レー! ボール!」
「なにい、まだやるのか!」
ミュンめ、無限の体力を持っているのか……!
だけど、遊びまくると途中で電源が切れたみたいに寝ちゃうしなあ。
ここは体力のペース配分を考えてだな。
……何かを忘れている気がする。
俺は汗を拭いながら立ち上がった。
耳には心地よい、潮騒が聞こえてくる。
海風が気持ちいい。
ちらりと磯を見ると、潮が引いていた。
「あっ、干潮じゃないか!!」
俺はすべてを思い出した。
ヤシガニへの手土産を入手していかなければならないのだ。
「ミュン、ほら、潮が引いてる」
「アーッ!」
ミュンも思い出したようである。
二人揃って大事な要件をど忘れとは。
うーむ、この幼女、俺に似てきている気がする……。
「よし、ミュンはこっちの木桶に獲りまくれ!」
「チャ!」
「俺はこっちだ!」
干潮で、磯辺に取り残された魚や海の生き物たち。
これを、とりあえず色々片っ端から木桶に……。
「あっ! 木桶の中で食物連鎖が置きている!!」
取り込んだザリガニが、猛烈な勢いで海藻や小魚を食べているではないか。
「ザリガニはいけないな……。俺たちが食べる用にしておこう。そもそも、ヤシガニにとってこいつは共食いになるんじゃあ……?」
ふと考えてしまったが、まあいいやと余計な思考を振り捨てる。
なぜなら、横ではミュンが猛烈な勢いで、片っ端から木桶に放り込んでいるからだ。
「マママママー!」
「ミュン、今、石を放り込まなかった?」
「ンー」
あっ、知らんぷりした。
最近ミュンは、こう、俺の言うことを聞かないことが増えてきた気がする。
も、もしや反抗期か?
出会って七日目にして反抗期とか、あまりにも早すぎる。
焦燥感に襲われる俺。
「アマチャ! ミュン、レ、ターノ!」
「あっ、いつの間にか木桶がいっぱいに……!!」
ミュンに先を越されてしまった。
俺がクヨクヨと色々心配しているうちに、彼女はどんどん作業を進めていたのだ。
まさかこれは、俺の話を聞き流しながら作業をすすめるという、ミュンの頭脳プレイだったのではないだろうか。
恐ろしい子……!
結局、俺は中途半端な量で妥協して、いざヤシガニということになった。
島の周囲をぐるりと回りながら、ヤシの木の下を探すのだ。
まずは、俺が流れ着いた辺りを探索してみよう。
「アマチャ! ヤチガニ!」
「えっ、もういたの!?」
ミュンが飛び跳ねて騒ぐので、駆け寄ってみると、確かにヤシガニがいる。
ヤシの木の下で、ヤシガニとしての矜持を忘れたのか、ひっくり返って腹を出して日向ぼっこだ。
「あれは本当にヤシガニなんだろうか。そう言えば俺、ヤシガニなんかインターネットの写真でしか見たことないからなあ」
二人でゆっくり近づいていく。
それなりの距離になると、ヤシガニがこちらに気づいて起き上がった。
「もがー」
あっ、威嚇して来ている。
「ミャーッ」
ミュンも棒を振り回して威嚇した。
「もがっ」
おっ、ヤシガニがミュンを認識したぞ。
この間渡り合った好敵手であることを思い出したようだ。
じりじりと、こちらににじり寄ってくる。
むむ、凄い圧迫感だ。
俺はいつでも、木桶からウニやヒトデ、ウミウシを取り出せるように身構える。
「チャモ!」
「もが」
ミュンとヤシガニが、棒とハサミで丁々発止のやり取りだ。
というか、ミュンが棒を突き出すと、ヤシガニがそれをチョキンと切る。また棒を突き出して、それをチョキンと切る、というやり取りなんだが。
「ヤシガニ! 俺たちは戦いに来たんじゃない。話し合いに来たんだ!」
「もが」
ヤシガニの動きが止まる。
彼はこちらをちらりと見た……ように思った。
巨大なハサミが、シャキンシャキンと音を立てる。
あの大きな魚を切断したハサミだ。
こんなものでやられたらイチコロだぞ。
俺は慎重に、木桶からウミウシを取り出した。
これをヤシガニに差し出し……。
「チャー!」
ミュンが木桶からヒトデとウニを両手で取り出してヤシガニに投げつけた!!
早い!
俺は幼女の機動力を甘く見ていたのかもしれない。
海産物はヤシガニ目掛けて飛来する。
これを、奴は見事なハサミさばきでキャッチする。
「もがー」
「チャ」
……もしかして、ミュンとヤシガニで意思疎通ができている?
「ミュン、ちょっとヤシガニに、手を貸してくれって呼びかけてみてくれないか?」
「チャモ?」
いかん、俺がミュンと意思疎通しきれてないじゃないか……!!
「ええと、つまりな。ご飯あげて、仲良くしようって」
「ゴハン!」
ミュンは大きく頷いた。
木桶をごそごそとやって、取り出したのは丸々と太ったザリガニである。
あっ、共食い……と思ったが黙っておく。
ミュンが、生きがよくバタバタ暴れるザリガニを、ヤシガニへ差し出す。
ヤシガニ、それをじっと見ていたかと思うと、ゆっくりとハサミを伸ばし、ザリガニを受け取ったではないか。
「チャー!」
「もがー」
うーん……二人はわかり合っているような気がするんだが……どうなんだろう。




