無人島生活七日目 ヤシガニ探索
いつも、磯の辺りに行くとヤシガニがいる気がする。
俺とミュンは、昼飯前にヤシガニを探しに行くことにしたのである。
『ピガー』
「ズーガーは怖かったら待っててもいいんだぞ」
『ピピー』
「おっ、来るのか。ナイスガッツ!」
ロボットが勇気を振り絞るというのもおかしな話だが、ズーガーやセントローンには知性と、感情に似たものがあるような気がする。
俺はズーガーを肩の上に乗せて移動することにした。
下にいたら、ヤシガニと遭遇した時に攻撃されるかもしれないからだ。
「ヤーヤーヤー、ヤチガーニー」
ミュンが先を行きながら、適当なヤシガニの歌を歌っている。
彼女はよく、単語を聞き間違えて覚えるのだが、一旦覚えるとなかなか修正されないようだ。
そういうわけで、ミュンにとってヤシガニは、ヤチガニ。
おいおい訂正していけばいいか。
「ミュンー。いたかー?」
「ンー」
いないっぽい。
最近、磯に来て二回ヤシガニに遭遇していたから、ここによく出るのかと思ったのだが。
今は満潮になっているようで、この間釣りをした辺りが、ほとんど水没してしまっていた。
もう少ししたら、潮が引き、取り残された魚や海の生きものを収穫できるだろう。
「この辺りにいないとしたら……最初に俺があいつとあった場所か」
俺がこの島に流れ着いた時、ヤシガニに座ってしまった事があった。
ヤシの木の下の木陰である。
「あそこにいたりして……」
「チャ?」
「ミュン、ここから戻って、ヤシの木の下を見ていこう。こことか、そことかね」
「アイ!」
おお、いいお返事だ。
ミュンは元気よく戻っていく。
その手には、木の棒を握らせてある。
昨日、ミュンはヤシガニとバトルしたのである。
いや、バトルと言うほどのこともないか。だが、棒を持ってヤシガニと威嚇しあった事は確かである。
つまり、棒を持っていればヤシガニ相手に多少はやり合えるという証左ではないか。
そんなわけで、俺も棒を持つ。
「そうだ。土産を持っていこう」
「マ?」
「ヤシガニ、昨日ミュンがウミウシをあげただろ? ぶよぶよーとしたやつ」
「チャ」
「これからヤシガニとお話しに行くから、何かあげるものを持っていった方がいいんじゃないか」
「ヤチガニ、ゴハン?」
「そう!」
「チャ!」
ミュンが強く頷いた。
完全に理解した顔だ。
おお、ミュンとここまで意思疎通をできるようになるとは!
彼女のために、俺はコントローラーを振るって木桶を作った。
それを小脇に抱えて、磯にダッシュするミュン……。
「って、危ない危ない! 今は満潮だから!」
「ミャー!」
俺に後ろから抱えられて、ジタバタするミュンである。
やっぱり、放っておくのは怖すぎる。
何かあってからじゃ遅いからな。
「見てろミュン。ほら、あそことか、いつもミュンがウニとかザリガニを拾ってるだろ? 今は満潮って言って、そこが沈んでる」
「ミュ」
「だんだん潮が引いてきて、干潮になる。そうしたら拾えるから。もうちょっとだけ待とうな」
「ムー」
うーん、説明が難しすぎて理解できないようだ。
とりあえず、潮が引くまで時間を潰さねば。
俺は周囲をキョロキョロ見回すと、ちょうどいいものを見つけた。
カサカサになった枯れ葉だ。
確かコントローラーは、倒木にも作用させることができた。
ならば、枯れ葉にもその力を発揮できるのではないだろうか。
「枯れ葉よ、集まってボールになれ!」
俺は命令を唱えながら、銀の棒を振った。
すると、周囲から枯れ葉がガサガサと集まってくる。
案の定、あれもコントローラーで扱うことができるのだ。
枯れ葉は一つにまとまり、サッカーボールほどのまとまりになった。
持ってみると、大変軽い。
「ミュン、干潮までこれで遊ぼう!」
「マー!? アマチャ、レ!?」
「ボール」
「ボール?」
「そうそう。こうして、こう!」
俺は、ポーンとボールをミュン目掛けて打ち上げた。
ミュンが慌てて、落ちてくるボールの下に行く。
そして、手をのばすと、軽いボールは彼女の腕に触れて跳ね返る。
「よーし、じゃあ、こうだ!」
俺はそれを、また高く高く打ち上げる。
「チャー!」
ミュンは空を見上げながら、うろうろ、うろうろ。
手を伸ばして落ちてくるボールを受け止めようとして……目算を誤り、顔にポフッと当たった。
「ピャ!」
「残念でした! どうだ、またやってみる?」
「ルー! ボール、ミュン、ルー!」
おお、目をキラキラ輝かせてやる気になっている。
いいだろう。俺も高校時代、体育の授業でバレーボールをやった身だ。
球技というものを教えてやろう!
かくして、磯が干潮でむき出しになるまでの間、俺とミュンのビーチバレーが始まったのである。




