無人島生活六日目 ミュンのはじめてのおつかい
「アマチャ! メー!」
俺が手伝おうを顔を出したら、いきなりミュンに叱られた。
疲れている俺は、黙って見ていろということらしい。
俺はキックボードから降りて、へろへろとその辺りに座り込んだのである。
『ピピー』
お任せ下さい! とでも言いたげに、手を振ってくるズーガー。
小さいカメラみたいなロボットにも心配されてしまった。
だが実際、体力がないのは確かなので、ここでハラハラしながらミュンを見守ることしかできないのだ。
ミュンのはじめてのお使いとでも言うのだろうか。
ズーガーと二人で、浜辺をちょろちょろ走り回っている。
唐突に立ち止まり、地面を棒でほじくり出した。
ちまちまと貝を拾っている。
ちょっと拾ったら飽きたようだ。
今度は磯の方に向かっていく。
「あっ、あっ、先に行き過ぎるとあぶない」
波が打ち付ける、海にせり出した島の突端を、ちょろちょろ動き回る。
何か見つけては拾って、木桶に入れているのだが、もう見ているこっちが怖くて怖くて仕方ない。
「あっ!! フラッとした! 危ない! 危ない!」
「モー! アマチャー!」
また怒られた。
だが、これが落ち着いていられようか。
もう、ハラハラしっぱなしだ。
あっ、そう言っている端から、海から何かが上がってきてミュンの後ろに!
あれは……あれはまさか!
「ミュン逃げろ! ヤシガニだ!」
「チャ!?」
ミュンが文字通り、ぴょーんっと飛び跳ねた。
慌ててこっちに逃げてくる。
あーあー、木桶の中のものを、ぽろぽろ落っことしている。
ズーガーはミュンの背中に掴まって、端から走ることを放棄しているではないか。
ロボットなんだからミュンを守りたまえ。
「プー」
汗を拭うミュン。
そして木桶を覗き込んで、肩を落としている。
「ウー。レ、ナーナ」
「ミュン、集めたのを俺の前に置いていけばいいじゃないか。みんないっぺんに持って歩くから落っことすんだぞ」
「チャ!」
俺の言葉とジェスチャーで、彼女は合点がいったらしい。
木桶に残った食べ物を、俺の前にどさどさと落っことす。
見慣れた、ザリガニやウニ、貝だな。
あれ?
ウニはミュン、苦手じゃなかったっけ?
「レ、アマチャノ!」
「ええっ! お、俺のために獲ってくれたのか!?」
「ン!」
ミュンが俺のために、好きじゃない味のウニを捕まえて……!
なんだかジーンと来た。
泣けてくる。
年をとると涙もろくなるものだなあ。
ここ数日、ミュンの世話やら食べ物集め、島の開拓でそれどころじゃなかった。
だが、俺がやって来たことは、ちゃんとミュンに伝わっているのだ。
俺がうるうるしながらウニを眺めていると、ミュンが木の棒を持ってヤシガニに向かっていくところだった。
「えっ!! ミュン、危ない! 危なあい!!」
「チャーモ! チャ! マーッ!」
「もがーっ」
幼女とヤシガニが、威嚇しあっている。
「ズーガー、ミュンに加勢してやってくれえ」
『ピガー』
「あっ、このロボット俺の後ろに隠れやがった!」
やがて、ミュンはヤシガニに向けて、その辺に落っことしていた何かを放り投げた。
ウミウシっぽい?
あんなの食べるつもりだったのか、ミュン。
だが、ヤシガニはウミウシをキャッチすると、「もが」と声を発した。
しばらく思案しているようで、動きが止まる。
「マー?」
「もがー」
どうやらこのウミウシで譲歩する気になったらしい。
それを掴んだまま、ミュンの横を抜けていく。
一瞬、奴は俺を見たようだが、そのままスルーして森に消えていった。
謎の多い奴だ。
ヤシガニとは一体なにものなんだろう。
こうして、ヤシガニという障害を交渉によって退けたミュン。
無事に食べられそうなものを集め終わり、得意気に俺のもとに帰ってきた。
その間に、ズーガーが油や調理器具を集めている。
ミュンを放って逃げた罰だ。
今日はズーガーに料理をさせよう。
『ピピー』
このロボットも後ろめたいらしく、粛々と食べ物を焼く。
「ズーガーもセントローンも、どうしてそんなにヤシガニが苦手なんだ……。それはそうと」
俺はミュンに向き合った。
「偉いぞミュン! まさか、一人でここまでやれるようになっているとは!」
「ムフー!」
得意げに胸を張るミュン。
ドヤ顔だが、今日はそれに値するだけのことをやったのだ。
俺は胸がいっぱいだよ。
「アマチャ、レ! ジョ!」
そこへ、焼けたウニの殻を開けてミュンが差し出してきてくれるのだ。
俺の涙腺が、一気に緩みだす。
「ううおおおお、ありがとうよおお」
とても塩味の効いたウニだった。




