無人島生活一日目 黒い水源と熱い水源
「ムー、マ!」
ミュンは何かよく分からない言語で力強く決意を語ると、むふーっと鼻息も荒く、ドリルを掲げてみせた。
「やんややんや」
その辺の石に腰掛けながら、歓声を送る俺。
幼女に働かせて、アラフォーのおじさんが休んでいる労働力搾取の光景……ではない。
俺の体力が尽きたのだ。
よく考えてみれば、漂着してから、ミュンがくれたお茶と魚の干物しか口にしていない。
体力回復には不十分だったというわけだ。
何より、中年の体力は幼女よりも遥かに低いのだぞ。
これは不可抗力である。
「よし、行けミュン! 俺たちの未来は君にかかっているぞ!!」
せめて、精神的に彼女をサポートしようではないか。
俺の声援を受け、言葉の意味は分からないながらも、ミュンはガッツポーズを決めてやる気を見せてくる。
掲げたドリルが、まだ良くわからない動力でギュインギュイン回っているのでちょっと怖い。
「チャ────!!」
裂帛の気合とともに、ミュンが猛烈にその辺の地面を掘り出した。
すごいすごい。
幼女の膂力だというのに、面白いように地面が掘られていくぞ。
すぐに水が湧くとは思えないが、こうして何箇所もアタックしたら、そのうち水が出るだろう。
根拠はないが、昔読んだ本やアニメではそうだった気がする。
「うおー! いいぞミュン! すてきー!!」
「ンム!」
ミュンが力こぶを作ってみせる。
その背後で、いきなり地面が爆ぜた。
彼女がドリルで掘っていたところから、地面に亀裂が走っているではないか。
その先の地面が、ドドォーンッという音とともに吹き上がり、次いで、勢い良く水が吹き出した。
「ア、ア、アマチャー!」
びっくりして、ドリルを放り捨ててこっちに走ってくるミュン。
俺も慌てて駆け寄り、幼女を回収である。
ついでにドリルを拾って、吹き上がる水から距離を取った。
「おお……。まさか、一発目で掘り当ててしまうとは。ミュンの勘が凄いのか、このドリルが凄いのか……」
高らかに噴出して、落ちてくる水。
泥が混じっているのか、心なしか黒い……。
「んっ……? こ、この臭い……。これ、水じゃないぞ。せ、せ、石油だ……!!」
「セキウ?」
「うむ。価値はあるものなんだが……」
俺は困った顔をして、噴出し続ける黒い水を見つめた。
「飲めないんだよなあ……」
しばらく石油を見つめていると、勢いは徐々に収まってきた。
あれは多分、地中のガスや何かが出て来る勢いに乗って、吹き出していたのだろう。
ガスが出尽くしたのかな?
それほど多くの石油は埋蔵されてなかったとか。
まあいい。
今大事なのは、飲める水を探すことだ。
「よし、次に行こう、ミュン」
「チャ!」
ミュンを抱っこした状態のまま、俺たちは移動を開始した。
さっきは、何もない地面でいきなり掘った。
そうしたら石油である。
きっと、飲水が湧き出るような場所は、それらしい兆候があるはずだ。
俺は、マンガや書籍などの創作物から得た知識をフル動員する。
確か……水を含む木みたいなのがあったような。
地中から水を吸い上げて、幹の中に溜め込むのだ。
ちょうど、幹も緑色で、芭蕉みたいな外見の木だったような……。
そんなマンガを読んだ。
「マンガだもんなあ……」
ちょっと俺の中の知識に対し、猜疑心を抱く。
「?」
元気が無くなった俺を見て、ミュンが首を傾げた。
そして、手を伸ばして俺の頭を、撫で撫でし始める。
むむっ!!
不惑を前にして、まさか幼女に頭を撫でられるとは。
だが、なんだろう。
元気になってきたぞ。
「ありがとうミュン。おじさん頑張ってみるぞ……!!」
「ン! アマチャ、タウ!」
「よく分からないけどその通り!」
俺とミュンはテンションを上げて、森の中をのしのし歩く。
多分、危ない虫や草などがあるのだろうが、幸い今の俺は、革靴に靴下、スラックスである。
これがいい感じで足元を守ってくれている。
どんどん歩くぞ。
「コ!」
おっ!
ミュンが何かを感じ取ったようだ。
「水がありそうですかねミュンさん」
「ン!」
大変自信ありげなので、ドリルを手渡した。
俺はまた、適当なところに座って応援モードになる。
歩き慣れない森の中を進んできたから、いい加減足が痛くて重くて、しかも靴の中に草の汁なんかが入り込んできて大変なことになっている。
明後日が恐ろしくてたまらない。
絶対身動きできないくらいの筋肉痛がくるぞ、これ。
足のことを気にしていたら、その間にミュンはしっかり仕事をしていた。
「アマチャー!」
嬉しげに俺を呼ぶ声。
顔をあげると、ミュンの背後で、透明な飛沫が吹き上がるところだった。
「おおー!! 凄い! 水源だ! この幼女すごいぞ……!!」
俺は足の痛みも忘れて立ち上がり、ミュンに駆け寄った。
そして、吹き付ける水をいっぱいに受け……。
「あっつ!? あつ!? なんだこれ、熱いんだけど!」
「ムン? ンー」
ミュンは吹き出す水……いや、お湯に指を差し込むと、「ピャ!」熱くてびっくりしたらしい。すぐ指を引っ込めた。
だが、火傷しないくらいの温度ではないか。
うん、これは温泉だな。
熱いが、飲めないこともない。
それに、散々動き回って汗をかき、さらにはわけの分からない汚れでドロドロなのだ。
「よし……ひとっ風呂浴びるか!」
目の前で、みるみる溜まり、湯船を作っていく温泉を見つめながら、俺は決心した。
「ヒトプロ!」
「おっ、ミュンも入るか!」
風呂好き日本人の血が騒ぐ。
何は無くとも、入浴する事に決めたのだった。




