無人島生活五日目 寝る前に袖を通そう
そろそろ乾いた頃かな、というので、朝に染めた貫頭衣を回収に行った。
「マ、マ、マ、マ、マ!」
いつもなら夕飯が終わると、すぐおねむになってしまうミュンが、今日はお風呂に入った後もテンションが高い。
スキップしながら俺より先を行くのである。
「ミュン、楽しみだろ。俺も、楽しみだ!」
「タノシミ!」
立ち止まって振り返るが、じっとしていられないようで、足をその場でばたばたさせる。
そうかそうか、楽しみかあ。
染料の花が咲く場所を越えて、その奥にある川のほとり。
服を掛けられるように改造した枝が見えてくる。
風にそよぐ、黄色い布。
「チャ────!!」
凄いテンションになったミュンが、飛び上がって叫んだ。
そして猛烈な勢いで走り出す。
「あー! 待て待てー! 転んだら危ない! 危ないー!」
俺が慌てたら、案の定すっ転ぶミュン。
ぺちっときれいに転んだ。
駆け寄る俺だが、それよりも早く彼女は立ち上がった。
「ン!!」
「おおっ、泣かない……!」
「マ!」
「そうか、服のためか。偉いぞ……!」
妙な感動が俺の胸にこみ上げてくる。
「ン。ミュン、ライ!」
口をへの字にして、頷くミュン。
「だけどここは川の近くで、足下が滑るから手をつないで行こうな」
「ン!」
ぎゅっと手を握った。
ホッとしてしまう。
それでも、ミュンは俺を引っ張るようにして、服の下へ急ぐのである。
俺も早足になって、ちょっと息切れしながら到着することになった。
「アマチャ、レー!」
「よーし、では外すぞー」
ハンガーのようになった枝から、服を取り外す。
すると、ふんわりと花の香りが漂った。
染料自体が、花の香気を含んでるんだな。
触れてみた感じ、ほとんど乾いている。
ちょっとだけ、まだ濡れているかな。
今夜一晩経てば、もう大丈夫だと思う。
「チャー! レ、ナーイ! ミュン、ナーイ!」
おっ、ミュンがぴょんぴょん飛び跳ねて、黄色く染まった服に手を伸ばしてくる。
「まだ湿ってるが」
「ンー! ミュン、ナーイノ!」
「着たいのね」
「ンー!」
仕方ない。
ちょっとくらい黄色くなったって大丈夫だろう。
ズーガーも染料は危なくないと判断していたし。
俺がミュンの新しい服を用意すると、彼女は目の前で、今着ている白い貫頭衣をポーイッと脱ぎ捨ててしまった。
「あっ。また! 女の子なのにはしたない!」
だが、ミュンが新しい服を着たい気持ちは、それだけ強いのだろう。
「ミュン、行くぞー!」
「マー!」
ミュンが気を付けの体勢になった。
そこに、上からすぽっと服を被せる。
袖なんかないから、頭を通せば、後は彼女が腕を出すだけだ。
すぐに装着完了となった。
周囲はすっかり暗くなってきていて、黄色い服の色合いもはっきりとは分からない。
足下を照らす、ズーガーのライトだけが頼りである。
「ムー」
せっかく着たものの、色があまり分からなくて、ミュンはちょっと落ち込んだ声を出した。
明日の朝になれば存分に見られるのだが、彼女がガッカリするのは俺もいやだ。
「ズーガー、ちょっとライトを強くしてくれ!」
『ピ? ピピー』
ぴかっと強まる、ズーガーの照明。
俺はこれを、ミュンに向けて照らす。
すると、ミュンと背後の川が明るくなる。
「ミュン、似合ってる。かわいいよ!」
「チャ!? ンー」
戸惑っていたミュンだが、俺が好意的な言葉をかけてきたと分かると、服の裾をひっぱりながらにやにやした。
「振り向いてごらん。川に映るからさ」
隣まで行って、明るくした水面にミュンを映し出してみた。
褐色の肌に、鮮やかな黄色い服が映える。
「ンー!!」
水面に映える自分の姿に、ミュンは目を見開いて伸び上がった。
落ちないように、慌てて彼女を支える。
ズーガーは俺の肩まで移動し、上手いこと、彼女と鏡代わりの水面を照らした。
ミュンは嬉しそうに、何度かくるくると回ってみせる。
「うん。やっぱり、女の子はかわいい服を着てるのがいいよな」
俺は、自分の判断が間違っていなかった事を確信した。
この勢いで、赤い服や青い服も作っていこう。
足りない色は、染料を合わせて作っていけないだろうか。
そこも要研究だな。
またやることが増えたぞ!
だが、これでミュンが喜んでくれるなら、苦労なんてあって無いようなものだ。
「よーし、じゃあそろそろ寝ようか。その前に、転んで膝とかすりむいてないか? 温泉で洗わないとな。ほらミュン、服を脱いで……」
「ヤーノ!」
「ええ!?」
黄色い服を脱ぐのをいやがるミュンである。
まさか着たまま寝るつもりか。
「ンフー」
寝る気だ。
どうしたもんかな、と一瞬思ったが、すぐに考え直した。
まあいいじゃないか。
大好きな服で寝れば、いい夢だって見られるかもしれない。
「よし、そのまんまでいいか。だけどミュン。黄色い色が移ってたら、明日朝一でお風呂に入らないとな!」
「ウン!」
明日は明日の風が吹く、といった風なミュン。
とてもいいお返事を返すのだった。




