無人島生活五日目 動物の痕跡……?
諸々の作業が終わったので、そろそろ夕食の食材集めをせねば、と思っていた頃である。
島の中程までを、一直線に貫く道を作ったから、道なりに生っている果実などは取り放題だ。
途中、自生している豆を発見した。
これは植物性タンパク質。重要。
今の設備だと、炒り豆くらいしか作れないのが残念だ。
煮物にもチャレンジしたいところだな。
そんなことを重いつつ、豆を採取している俺である。
ミュンも横にやって来て、手慣れた様子で豆を集める。
彼女の故郷では、よく豆を食べる機会があったのかもしれない。
考えてみれば、ミュンのことを何も知らないな。
言葉が通じないから、彼女の素性が全く分からないのだ。
唯一の手がかりは、この島の地下にあったコンピューターらしき存在、セントローンが、この島はミュンのためにある、といった事を告げたくらいであろうか。
さっきはコントローラーを振らせてみて、物凄い効果を発揮したものの、ミュンがぶっ倒れてしまうという結果になった。
これはいただけない。
彼女に無理をさせるわけにはいかないのである。
「ミュンの言葉が俺に分かるといいのになあ」
「ミュ?」
ミュンが呼ばれたと思ったのか、こちらを見上げて首を傾げた。
すでに彼女の手にした桶は、豆でいっぱいである。
これだけあれば、夕食には困らないだろう。
後は、ウニや貝でも採ってきて……。
あっ、殻の中で肉と一緒に豆を煮てしまうと言うのはどうだろう。
我ながら冴えているんじゃないだろうか。
「そうと決まれば、また色々用意しないとな。ミュンは他に何が食べたい?」
「ンー」
ミュンが今夜のおかずについて、考え込み始める。
さて、その間に、俺はもう少しだけ豆を採取しよう。
明日の朝ご飯になるからな。
豆を採りながら、豆の木が生えている土台に目が行く。
変わった形をした岩である。
隙間が多くて、それに巻き付くようにして豆の木が生えている。
こんな穴だらけで、蔓が巻き付きやすい岩があるんだなあ。
豆を採取しつつ、岩を回り込む俺である。
ちょうど木の裏側に来たとき、俺はあることに気がついた。
この岩……まるで四肢が突き出したように見える。
豆の木が巻き付いているのは、肋骨から首の骨で、顎を抜けて眼窩から木が生えている。
手足は俺の方に向かって突き出して、蹄があるように見えた。
これは、馬か何かの骨じゃないか?
まるで岩みたいに変質してしまっているが、動物の骨だと思うと、そうとしか見えなくなってきた。
「確か、セントローンはこの島に動物はいないって言っていたよな? この五日間、海の生き物以外には、昆虫にすら会ってない。だから動物はいないと思ってたんだが」
心臓がバクバクしてくる。
いないはずの、動物の骨がここにある。
しかも大きくて、多分、ずいぶん古い骨だ。
「アマチャー?」
俺がなかなか戻ってこないので、ミュンが心配して覗きにやって来た。
「ミュン、ザガニー」
ザリガニが食べたいらしい。
うん、そうだな。
とりあえずザリガニを採って、飯にするとしよう。
ここで憶測ばかりしたって何も分からない。
詳しいことはズーガーに聞けばいいし、明日、セントローンに会いに行くのもいい。
いや、会いに行こう。
この島、まだまだ俺が知らない秘密が隠されているようだ。
俺はミュンと二人、桶いっぱいの豆を持って、浜辺まで歩いていった。
ザリガニを捕まえる。
捕まえても捕まえても、どんどん湧いてくるザリガニ。一体何匹いるんだ。
いや、もしかしてこの辺の海は、ザリガニのようなこの動物が大量に住んでいるのかもしれないな。
だとすると、俺とミュンが少しくらい食べたところで絶滅はしないだろう。
「ザリガニ大好きなミュンも、ずーっと食べてると飽きるもんなー」
「アキル?」
はっきりとした発音で、俺の言葉をオウム返しにしてきた。
ミュンの言語能力が上がってきている気がするなあ。
言葉が正確に伝わるほどではないけれど、俺の表情とか仕草、それと発した言葉を合わせて、どういう意味なのか学習していっている気がする。
そう遠からず、彼女は日本語を普通に喋るようになるだろう。
ちなみに俺は、ミュンの言葉が全く分からない。
子どもとアラフォーの、脳の柔軟さの違いであろう。
俺はもうその辺はだめだあ。
「アマチャ、レー?」
「うむ。ちょっと違う料理をしてみよう。俺は毎日こうして自炊することになって、さすがに料理のスキルが上がってきた気がするぞう」
腹を割いてハサミと足を取ったザリガニに、豆を詰め込んで仰向けに焼く。
ザリガニとは言っているが、俺が知っているザリガニよりちょっと大きいし、食べるところも結構ある。
ザリガニ肉に、豆を山盛りにしたような感じで焼くのだ。
頭の中をよぎる、さっき見つけた動物の骨のこと。
うだうだ考えても仕方がないと割り切って、俺はミュンと新しい創作料理の実食に挑むのだった。
「ンマー!」
好評だった。




