無人島生活四日目 謎の魚のお頭付き
尾は無いのだった。残念。
ヤシガニが持っていってしまった。
しかし……。
「オー! チャモ! マー!」
木桶から、ドーンと顔を出す魚を見て、ミュンが興奮する。
彼女にしてみれば、半分になったとは言え一抱えもあるような大きさだ。
錦鯉サイズというのは、近くで見るとこんなにでかいのだなあ……!
俺たちは、ヤシガニが出た岩礁から遠く離れ、いつもの浜辺へやって来ていた。
ここでまた、調理を行うわけである。
「おや? ミュン、それは?」
「レ! キュー、ノ。キュー!」
ミュンが、見慣れない果実を握りしめている。
丸々として、色は黄色。
一見して、野球ボール大の柚子みたいに見えるが。
ミュンは、口をすぼめて、目をぎゅーっと閉じた風に見せる。
そういう味ってことか?
つまり、酸っぱい?
いつの間にこんな果物を食べていたんだ。
だが、これは新しい調味料を手にしたということでもある。
「でも、一人で歩き回ったら危ないだろ?」
「ンー」
ミュン、ちょっと不満げな顔をする。
むむ、こういうのはどう言って聞かせればいいのか。
勝手に動き回られて怪我されたり、危ないことをするのは心配だが、何もかも俺がついて回るのも良くないし……。
それとなく気を配って、見ててやるのがいいかなあ。
子どもと接した経験があまりないから、よく分からない。
試行錯誤していくしかあるまい。
ひとまず謝る。
「や、ごめんな。せっかくミュンが持ってきてくれたのに変なこと言ってしまった。ありがとうな、ミュン」
「チャ!」
鷹揚にミュンが頷く。
よし、機嫌が悪くなる前にリカバリーできた。
俺と彼女の二人きりだからな。人間関係が悪くなるのはよろしくない。
『ピピー』
俺とミュンの間にズーガーが入ってきた。
ミュンが持ってきたのと同じ果実と、新しい鉄網を持っている。
あれっ。
その果物は、思ったよりも簡単に手に入るのか?
試しに割ってみた。
柑橘類ではなく、マンゴーなどに近い、薄い果皮の果実である。
口にすると……なるほど、酸っぱい。
甘酸っぱいのだが、酸味が勝つ。
レモンほどではないが、これはいい薬味になりそうだ。
これから、ミュンの獲ってきた海の幸を調理することにする。
と言っても簡単で、皮を剥いて中身を焼く。
塩を掛けたり、この果実の汁をつけたりして食べる。
それだけだ。
まずはザリガニ。
バリバリっと皮を剥き……真っ白な身を生で食べたい衝動を抑えながら、焼く!
「ホワアア」
エビみたいな肉が焼ける香りが漂い、ミュンがうっとりとした。
焼き立てを塩と果実の汁で食べる。
うむ……ジューシー……。
「マァァァ……」
おお、ミュンが蕩けている。
美味しいものは人をダメにしてしまうなあ。
よし、次はウニだ。
これも焼いてみるのだが。
「ウエー」
ミュンはウニの肉はダメだったみたいだ。
確か、生殖巣を食べてるんだよな。味が独特だもんなあ。ウニは全部俺の担当になった。
うん、美味いんだけどなあ。
ああ……酒もないのに新鮮な焼きウニを食うことになるとは……。
子どもは、もっと分かりやすい味のほうがいいだろう。
よかろう、ならば魚だ。
俺は、魚を腹から捌くことにする。
ちなみに俺、魚をおろした経験はない。
ズーガーから受け取った、薄く刃物のような金属片で、なんとなくこうかな、というイメージだけで魚をおろすわけだ。
うわっ、びちびち動くぞ!
「ピャー!」
ミュンがびっくりして、俺の後ろに隠れる。
俺はもう、必死の形相で魚と差し向かうわけである。
腹を割いて、エラに刃物を入れてぐっと差し込んでみて……あっ、ガチッとか言った。
だが、首が取れかけているぞ。
これをぐっと押し込んで切り離してだな……。
胴体を二つに割って……。
「よし、焼くぞミュン! これを網に乗せて!」
魚の身を手渡すと、ミュンが「ホワー!」とか変な声を上げた。
ぬるぬるでびちびち動いているのが苦手なのだろうか。
だが、すぐに笑い出す。
「ウフフフ、アハハハ!」
びちびちする肉を、ぺちぺち叩きながら網に乗せる。
俺はと言うと、骨をごりごり切り離して、頭も気合を入れて二つに割り……ようやく人心地ついたわけである。
胴体の身を焼き始めたら、頭を乗せる場所が無くなってしまった。
これは後で焼こう……。
しかし、じゅうじゅうと焼けるにつれ、ただよってくる香りの暴力的なこと。
魚肉。
完全無欠に肉である。
ザリガニだけでは明らかに足りなかったであろうミュンが、ぐぐーっとお腹を大きく鳴らした。
「アマチャー……」
「分かってる。俺だって辛いのだ。だけど、きちんと焼けるまで待たないと、お腹壊すからな……」
結局、二人並んで腹の虫と戦いながら、魚に火が通るのを待つことになってしまった。
肉の上に脂が浮いてきて、じゅうじゅうと音を立てて弾ける。
網から滴り落ちる。
こんがりと実の色が変わった辺りで、ミュンが俺の腕をむぎゅーっと掴んできた。
「うむ。もういいよな。いいだろう。よし、食べよう!!」
「チャー!!」
二人で魚を取り外し、「アチチ!」「アチー!」
かぶりつく。
海の生きものは、それだけでちょっと塩味がついている気がする。
ああ、肉だ……!!
「マー……!」
「うん、やっぱり魚だな。これは継続して獲っていきたい……!」
だが釣りはだめだな、と今後のあり方を模索し始める俺なのだった。
魚に思い切りかぶりついて、幸せそうにもぐもぐするミュン。
守りたい、この笑顔。




