無人島生活四日目 対決、海の魚
「さて、勝負だぞー」
まったり岩礁に腰掛けて、釣り竿を握る俺。
すぐ横で、「チャー!」とかはしゃぎながら、ミュンが水面をバシャバシャやっている。
うーん、魚逃げるかな。
いや、波打ち際だしいけるだろう。
さて、勝負……。
「…………」
勝負……。
「…………」
勝……。
「ぐう」
「アマチャー!」
「うわっ、どうしたミュン!? え、俺寝てた?」
のんびり座っていたら、波の音が心地よくて眠ってしまったようだ。
釣りってのはまったりだな。
「アマチャ、レー」
何かミュンがぶら下げている。
なんだこれは。
「えっ、これザリガニ? なんかそういうアレか? すごいじゃないか! これは食べられるぞ!」
「マー!」
素手でザリガニゲットのミュンが釣果……じゃないが、それの一番乗りか。
あっあっ、ぶんぶん振り回してはいけない!
「ズーガー、桶、桶!」
『ピピー!』
慌ててズーガーが木桶を持ってきた。
ミュンがそこに、ザリガニをぺちっと放り込む。
可食部である尻尾のあたりが千切れなくてよかった。
さあ、俺も頑張らねば。
気を取り直して竿を握る。
そして、待つ。
ひたすらに待つのだ。
波の動きを見ながら、ぼーっと。
何を考えるでもなく、ただひたすらぼーっと。
あっ、また後ろで、ミュンが木桶に何かを放り込む音がした。
今度は何を獲ったんだろう。
振り返った俺は仰天した。
「ウニじゃないか!? しかも結構いっぱい! よく獲れたなあ……」
「チャー!」
得意げなミュン。
彼女は実は、漁師の才能があるのかもしれない……。
しかし、ここで俺が何も釣れなくて坊主だったら、大人の沽券に関わるぞ。
あ、いや。
別に何も釣れなくても、ミュンが獲ってきた海産物を料理すればいいや。
一瞬湧き上がったプライドを、心の中のゴミ箱に放り投げる俺なのであった。
「よし、ミュン、今日はそいつらを焼いて食ってみようか。ウニはちょっと、子どもには難しいかもしれないなー」
「ムー? ミュン、レール!」
おっ、食べれると主張しているようだ。
ミュンさんがどれだけ、大人の味覚に挑戦できるか見せてもらおうじゃないか。
こうして、俺が雑念を捨てたからであろうか。
何も考えずに、ミュンと喋りながら握っていた竿が、ぐいっと引っ張られる感触がくる。
「なにい!?」
一瞬、何がなんだか分からない。
釣るぞ、という気持ちを捨てた瞬間、何かが釣り針に掛かったのだ。
慌てて引っ張る……が、引きが強い!
「うおおお、なんだこれ! も、持って行かれる!」
「アマチャ!? マーッ!」
ミュンが俺の腰にしがみつく。
一生懸命に俺を引っ張ろうというのである。
そしてミュンの後ろにズーガーがくっついた。踏ん張って、ミュンを引っ張ろうというわけだ。
「三人がかりで引っ張るぞー!」
「チャー!」
『ピー!』
釣り竿がみしみしとしなる。
ワイヤーがピンと張って、それを咥えた何者かに持って行かれそうになっている。
もう、このパワーが凄いのだ。
「うおおおおっ、こ、根性ーっ!」
「ジョー!」
『ピー!』
とりあえず大声張り上げて自分を叱咤。
こんなに肉体的に必死になったこと、最近ないぞ……!
釣りとはあれか!
かなり苛烈なスポーツだな!
あ、いや釣りはハントなのだ! 狩りだから苛烈なのだ、納得……!
『ピ……ピガー!!』
突如、ズーガーが悲鳴じみた声を上げた。
「な、なんだズーガー!」
「マ? ずーがー?」
『ピピガガガ、ヤヤ、ヤシガニ!!』
ヤシガニだと!?
このタイミングで、どこからヤシガニが……。
と思ったら、何者かが海を猛烈な速度で泳いでくる。
時折波間から見えるのは、大きく頑丈そうなハサミだ。
『もがー』
声が聞こえた。
あれはヤシガニの威嚇する時の声だ。
俺が彼の上に座ってしまったときも、ああいう声を出して威嚇してきた。
ヤシガニはあっという間に、俺たちと格闘する、釣り竿に食いついた魚の辺りまで到着。
すると、水面がばしゃばしゃと激しく泡立った。
一瞬だっただろう。
突然、釣り竿の手応えが消えた。
「うわっ!?」
「ニャッ!」
それまで踏ん張っていたものだから、俺もミュンも尻餅をついてしまう。
『ピガー!』
ミュンのお尻の下はズーガーだ。
おかげで、彼女は無事みたいだ。
だが、このパターンはやっぱり、魚を持っていかれたというアレじゃあないのかな。
俺はちょっと残念な気持ちで、釣り竿の先を見た。
そして驚いた。
「うわーっ!! は、半分くっついてる!!」
釣り針には、胸鰭から下をちょん切られた、育った錦鯉ほどもあるような魚が食いついていたのだ。
胴体は、大きなハサミでちょきんと切断されたように、なくなってしまっている。
これがヤシガニの力か……!!
だが、今はありがたい。
半分残ってるんだから、これは食いでがあるぞ!
「よし、ミュン、ズーガー、撤収! ヤシガニが魚の尻尾を食べてるうちに戻るぞ!」
俺は魚を木桶に放り込み、担ぎ上げた。
撤退、撤退なのである。




