表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/84

無人島生活一日目 ドリルと幼女と謎の機械

「あー、俺は、篤城数多。あつしろ、あまた。分かる? アンダスタン?」


「アー、アチューシロ、アママ?」


「あー、長いかー。言いづらいよなあ。言葉も通じないもんなあ。じゃあ、数多でいいか。数多。あ、ま、た」


「アマ、チャ?」


「うん、もうそれでいいぞ。お嬢ちゃんはなんて名前なのかな」


 木箱の陰に座り込み、俺と女の子で自己紹介だ。

 見渡す限り、漂着物は俺と、彼女が入っていたコンテナしかない。

 ということは、ここには俺たち二人しかいないと考えるのが自然だろう。

 いい年をしたおじさんが、一見して三歳か四歳くらいの女の子とこうして話しているなど、日本であれば事案ものだ。

 しかしここは遠い異国の地。

 これは必要なコミュニケーションなのである。


「ん、ミュン!」


 褐色肌の女の子は、自分を指差してそれだけ言った。

 ミュンか。


「よろしくな、ミュン」


「アマチャ!」


 なんだか、握手みたいなことをして、お互いの自己紹介は終わった。

 言葉が面白いくらい全く通じないので、それ以上紹介のしようが無いのだ。

 ひとまず、俺とミュンは、コンテナの中に積まれていたものを運び出すことにした。

 どうやら、コンテナに隠れて密航していたらしいミュン。

 彼女が潜む為に必要そうなものが持ち込まれていたのだ。


「おお……干物がある。……この陶器はなんだ?」


「チャ!」


「お茶か……いやいや、言葉が通じないんだからそんなことあるわけ」


 陶器の入れ物を開けると、半分ほど残った赤いお茶が入っていた。


「お茶だわ」


 これをミュンと半分こして飲んだ。

 そうか、飲み水を確保しないとな。

 よっこらしょ、と立ち上がる。

 さっきから、機敏に動きすぎて、腰や膝が痛い。

 こちとら運動する習慣が無い社会人である。

 無理に動いた反動は、恐らく明後日くらいに来る。


「ヨコラショ!」


 ミュンが真似して勢いよく立ち上がった。

 おお、若いっていいな。バネ仕掛けみたいに起き上がったぞ、今。


「ミュン、水を探しに行こう。後は、今日泊まる場所。ええと、水。こうやって、こうして、飲むもの。分かる?」


「ンー」


 俺の説明に、ミュンはそれっぽく腕組みして考えるポーズ。

 小首を傾げてこっちを見上げてくる。

 うん、分からないよな。


「……そうだ。この器を使って、こう、こうやって汲む、水。ウォーター。分かる?」


「アー!」


 分かってくれた。

 そうとなれば、森に向かう必要があるだろう。

 丸腰ではいささか頼りない。

 ……よし。

 俺は海水にやられてご臨終となった、ノートPCを取り出した。

 これの角で殴れば、まあ戦えない事もないだろう。


「????」


 ミュンがノートPCに興味を持ったようだ。

 駆け寄ってきて、バンバンPCを叩く。

 うん、普段なら「やめなさい」って言うところだが、もうこれ、ただの箱だからな。

 思う存分叩くといいぞ。


「チョー! ナ!」


「え? 欲しいの?」


「ン」


 むむっ。

 欲しがられてしまった。

 俺はちょっと考えた。


「まあ、いいか」


 あげた。


「キャー!」


 ミュンが黒いノートPCを掲げて、嬉しそうに跳ね回る。

 会社支給の安物だが、あんなに喜んでもらえるなら、PCもきっと本望だろう。

 武器がなくなってしまったが、よし、このミュンが蹴破った木箱の壁でもいいだろう。

 俺は板切れを小脇に抱え、森へ向かうことにした。

 お供は、PCを頭の上に載せたミュンだ。


 今、俺たちはこの昼なお暗い南国の森へ、一歩目を踏み出す……。

 踏み出した瞬間、猛烈に硬いものに俺はつま先をぶつけた。


「うおーっ!」


 靴を履いていなければ、のた打ち回ったであろう衝撃に、俺は素晴らしい速度で飛び退いた。

 こけた。


「ムギュー」


「あっ、すまん」


 後ろにいたミュンごと倒れてしまった。

 慌てて起き上がると、ミュンは頬をぷくっと膨らませて立ち上がる。

 無事である。

 頑丈な幼女だ。

 だがご立腹。


「ミャ! モ! ムームー!!」


「は、仰るとおりです」


 よく分からない言葉で怒りの言葉を告げる幼女に、平謝りの俺。

 いや待て、そんな事をしている場合では。

 俺がつま先をぶつけたものはなんだったのだ?

 ミュンは、ちょっと怒ったらすぐ機嫌が直ったので、俺は先ほどの硬いものを確認に行く。

 そして、絶句した。


「こ、これは……」


 それは、無残に破壊された、機械のようなものだった。

 まるで巨大なペンチのような凶器で、あちこちを捻りつぶされたような……。


「こんなひでえこと、誰がやったんだ。……いや、待てよ。こんな事が出来る奴なんて一人……いや一匹しかいないじゃないか」


 俺の脳裏に浮かんだ犯人像は、ヤシガニであった。

 機械をも破壊するヤシガニ。

 恐らく、奴はこの辺りの生態系の頂点に立っているに違いない。

 そっと辺りをうかがって、ヤシガニの気配を探る。

 ……。


「ムー……」


 ミュンも俺の横に並んで、同じような姿勢をする。


「いないな」


「イナ!」


 二人で指差し確認。

 何となく、俺とミュンの間に連帯感めいたものが芽生えてきた気がする。

 さて、壊された機械の検分だ。

 辺りに部品が散らばった機械の、全体を見回してみる。

 良く磨かれた石で出来た歯車。

 ガラスのように透き通ったコード。

 苔むした外部パーツは、プラスチックのような質感。

 そして、ドリルがついたアーム。


「ドリル!?」


 俺は機械のアーム部分を二度見した。

 それは、円錐の形をして、螺旋型の切れ込みが入った……そう。

 リアルな方ではなく、マンガやアニメで見るあれだった。

 俺は無趣味だったが、だからこそマンガやアニメは人並には見たのだ。

 見ておいてよかった。

 お陰で、この円錐がドリルだと分かる。


「こりゃあ、おかしいぞ。この機械、どう見ても普通の機械じゃない。それにドリルもおかしい。苔むしているのも明らかに年季が入ってる……気がする」


「ミュ?」


 俺がドリルや歯車を眺めていると、ミュンが手を伸ばし、ドリルの付け根をつついた。

 すると、ミュイイイイインッと音を立ててドリルが回るではないか。


「このドリル、生きてるぞ! ミュン、気をつけるんだ!」


「ン!」


「あっ、ミュン、ドリルを掴んで! あーっ、地面に、地面に!」


 幼女が手にしたドリルが、どんどんと地面を掘り始める。

 これを見ながら、俺は思いつくのである。

 このドリルで、水を掘ればいいんじゃないか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ