無人島生活四日目 浅瀬のいきもの
髭も剃り終わったことだし、さあ出掛けるかとなった。
「アマチャ! コーコー!」
「よし、行くか!」
「チャ!」
「手をつなぐか! いいぞー」
二人で浜辺を行くのである。
途中で、ズーガーが教えてくれた枝を折っていく。
枝の先端に、破損したズーガーの元ボディに入っていたワイヤーを絡めて、即席の釣り竿にする。
実は釣りなどしたことがないから、釣り竿だってこんなもんかという思いつきだ。
まあ、ダメならダメで浅瀬にいる生き物をご飯にするとしよう。
ぐるりと浜辺を歩くと、ミュンが流れ着いた場所に到着。
コンテナがあったはずだが、それは既にバラバラに解体されていた。
ズーガーの仲間みたいな連中がわんさかいて、ばらしたコンテナを回収しているところである。
「お疲れお疲れ」
『ピー』
『ピピー』
俺が挨拶すると、ロボットたちが挨拶を返してくる。
「チャー!」
『ピー!』
『ピピー!』
ミュンが手を上げたら、ロボットたちが律儀にみんなハイタッチしてくる。
みんな、俺達のことが分かっているみたいだ。
ミュンはご機嫌になり、鼻歌をうたいながらスキップする。
さらにぐるっと浜を廻ると、俺が流れ着いた辺りだ。
ここにはヤシガニがいたはず……。
そろっと見てみると、ヤシの木の下には何もいない。
今日はヤシガニお留守か。
さて、ズーガーの話では、ここから先に浅瀬に繋がる岩礁があるということで……。
「あったあった!」
「アター?」
突き出している木々を抜けたところに、盛り上がった岩場が見える。
と言っても、可愛いものだ。
これ、干潮かな? 満潮ならば完全に沈んでしまいかねないくらいの大きさだ。
「足元に気をつけろよ、ミュン」
「ン!」
凸凹した岩礁には、無数のくぼみ。
あちこちで取り残された海の水が溜まっている。
それらの中には様々な生き物が。
「アーッ!」
ミュンが何か見つけたらしい。
俺の手を引っ張りながら、くぼみに向かっていく。
「アマチャ、レー!」
「おう。これはウミウシだなー」
「ワーイー!」
ミュンがしゃがみ込み、水色をしたウミウシをつつこうとする。
「おっと、ミュン、ストップ!」
「ン?」
「ズーガー、毒、大丈夫?」
『ピガー!』
「ああ、ダメだ! ミュン、それはダメだ。痛い痛いするからな」
「ブー」
ミュンのほっぺたが膨れる。
だが、ズーガーが毒ありと判断したということは、こいつはつついたらろくな事にならないウミウシだということだ。
ここはスルー、と。
「ムー、アマチャー!」
「はいはい。触れるやつがいたら教えてあげるからな」
「ンー」
これは、釣りよりもミュンが触れそうな生き物を探すほうが大事かもしれないな。
俺はくぼみに残った生き物を探すことに本腰を入れる事にした。
すると、あのウミウシを除いても、なかなかの数の生き物が取り残されている。
「よーし、こっちはいけるぞ! イソギンチャクだ!」
「モジャー!」
「このウネウネしたのをそう表現するのか……。あんまりつつくなよ。こいつだって生きてるんだからな」
「ンー」
よく分かってるのか分かってないのか。
だが、ミュンはイソギンチャクの横っ腹辺りをつんつんして、イソギンチャクが嫌がって身を捩ったところで指を引っ込めた。
「満足した?」
「ニュ!」
したっぽい。
それでは釣りを開始するとしよう。
くるぶしまでの浅瀬があり、その先に腰を落ち着けられそうな岩がある。
ここに腰掛けて、潮の満ち引きなんかを注意しつつ釣るのだ。
「どーれ」
俺はなんとなく、こんな感じかな、という見よう見まねでの釣りを開始した。
餌は、その辺にいた芋虫みたいなのをワイヤーに刺しておく。
先端がちょうど鈎状になっているから、釣り針の役目を果たすだろう。
「じゃあ、俺はちょっと魚を釣るから、ズーガーはミュンを見ててくれ」
『ピピー』
「アマチャ、スー、ナーノ?」
「うん、俺はここにいるから。危なくないのを触るんだぞ」
「チャ!」
ミュンはズーガーを抱えると、新しいくぼみに向かっていった。
危なくない動物で遊んでくれてるといいなあ。
「さて、俺は俺で、タンパク質の確保をしなきゃいけないわけだが……」
ちらちらと、視界の端にミュンを捉える。
「キャー」
とか、彼女が歓声を上げるのが聞こえてくる。
楽しんでいるようだ。
この声色が変わらないことを祈りながら……俺は、糸を海に向かって放るのだった。