無人島生活三日目 まずはパンツを作ってみよう
近場の木から桶を作り、そこに綿花を敷き詰めた。
「マウ!」
ミュンは腕の中に、いっぱいに椰子の実を抱きかかえている。
ざっと紐で縛ってはあるのだが、小さなミュンにはとても運びきれる量ではないなあ。
「ミュン、後でまた取りに来るから置いていこう」
「ヤー!」
置いておく、というジェスチャーをしたら、この娘はほっぺをぷくーっと膨らませて首を横にぶんぶん。
何事も一人でやりたいお年頃なのかもしれない……。
「ズーガー、手伝ってやってくれるか?」
『テツダッテ』
頼りになるロボットだ。
そういうわけで、行きの倍の時間を掛けて、両手いっぱいの荷物を持った俺たちは帰還した。
すっかり時間はお昼過ぎ。
腹だってぺこぺこだ。
バナナモドキをどっさり焼いて、とりあえずの昼飯にする。
食も改善したいけれど、今日は服が優先だからな。
衣食足りて礼節を知る、とある。
今日は服、明日は食。
この順番で行こう。
食事と後片付けを終えた後、俺たちは家の手前で素材を広げた。
山ほどの綿。
大量の椰子の実。
これで作っていこう。
服の作り方については、俺に一つ考えがあった。
まず、綿をなるべく細かく千切っていく。
「ミュン、これをこうやって、こう! 千切って千切って!」
「チャ!」
ミュンが目をキラキラ輝かせる。
もこもこしたものを、やたらめったに千切る作業。
絶対この幼女は好きだと思ったんだ。
「マーマママママママ!」
猛烈な勢いで、ミュンが綿花を千切り始める。
舞い散る綿。
本来は、これを束ねて撚り合わせ、糸にするんだろう。
だけど、機織りの経験はないから、コントローラーを使うとしてもイメージできない。
そこで、このやり方。
以前、趣味でマスクについて調べたことがあって、そこで不織布というものを知った。
これは繊維を糸にせず、そのままくっつけて布にしてしまうのだとか。
このやり方で行こう。
「不織布を作る設備!」
コントローラーを振るい、オーダーする。
そうすると、倒木が起き上がり、皮が剥けてローラーになった。
剥けた皮が丸まり、ベルトコンベアーのようになる。
近くに群生していた妙な植物が、こっちに集まってくる。
花弁から蜜が垂れているので、掬ってみると、まるで糊みたいな質感をしている。
こいつらを、温泉まで持っていって作業開始だ。
「アマチャ、ナーノ?」
「うん? 何をするか知りたいのかい?」
綿を千切るのに飽きたらしく、ミュンがこっちの作業を覗きに来た。
設備を作った後は、手作業で道具を温泉まで運ぶのだ。
結構重い。
腰をやらないように気をつけないとだ。
「これはね、ミュンの服を作るんだ。服、分かる? このワンピースとか、パンツとか」
「フク! パンチュ!」
ミュンは合点したようである。
「パンチュ!」
「あっ、こらミュン! まだ作ってないんだから脱いじゃいかん! あー! あー! パンツを振り回すのはやめなさい!」
これは急いでパンツから作らねばならないぞ。
幸い、ミュンのやりかけの作業は、ズーガーが完遂してくれた。
千切れた綿を桶いっぱいに入れて、引きずってくる。
これをベルトコンベアーに乗せてだな。
温泉の一番熱いところの蒸気で熱しつつ、蜜をかけてローラーで潰していくのだ。
これらの操作はコントローラーで行う。
この島の植物は、こうして自在に操ることができるのだ。
倒木であっても、生木であっても変わらないのは不思議だ。
そして、布の形になった綿も例外ではない。
「パンツになれ……!」
俺は一瞬、我に返り、いい年をした男が銀の棒を振りかざし、なんて事を言っているのだと思った。
そしてすぐに、目前を駆け抜けていくパンツを振り回す幼女を見て、決意を新たにする。
パンツを作らないと、ミュンが風邪を引きそうだ……!!
「重ねて言う! パンツになーれ!!」
真っ白な綿のシートが、じわじわとその形を変えていく。
自らパンツに組み上がっていくのだ。
ほどよい大きさのところで、ズーガーがカットする。
一枚の綿シートから、ミュンのパンツが二つ取れた。
「よし……よしよし。いい出来じゃないか」
俺はパンツを空にかざし、満ち足りた笑みを浮かべた。
決して危ない人じゃない。
ミュンの健全な生活を守るためには、誰かがパンツを作らねばならないのだ。
「ミュン! おいでー!」
「チャ?」
ぽてぽてと戻ってくる幼女。
俺は彼女に、出来たてのパンツを差し出した。
「これを履いてみて」
「マー!」
ミュンは目を丸くした。
古いパンツをぽいっと投げ捨てると、出来たてパンツを履き始める。
ちょっと大きいようだったので、コントローラーでサイズ調整。
ピッタリになった。
「チャ!」
ミュンも満足そうだ。
あと少しすれば、彼女も成長してサイズが合わなくなってしまうことだろう。
そうなれば、また新しい衣類を作ってあげなければならない。
だが、そうして生まれる苦労は、喜ばしい苦労ではないか。
「アマチャ! レー、ヨ!」
「いや、見せなくていいよ! 見せるものじゃないから!」
うん、とりあえず満足してもらえたようだ。
生地は厚めだけど、肌触りはいい。
後は、恥じらいというものを教えてあげなければいけないなあ……。