無人島生活三日目 服の素材を探せ!
「おはよう!」
「ムーッ、オアヨー」
まだ眠そうなミュンを起こす。
寝る子は育つという言葉通り、この娘は大変よく眠る。
幸い、昨夜は寝る前にトイレに行かせたから、おねしょはしなかった。
ちゃんと習慣づけていかないとな。
寝る前の水分は控えめにせねば。
ほわわ、と欠伸するミュンの手を引き、顔を洗いに温泉へ。
昨夜、ミュンが寝たあとで、ズーガーに色々なオーダーを出しておいた俺である。
結果は戻ってきているだろうか。
俺が話した単語からしか、言葉を作り出せないズーガーだが、逆に言えば、俺が明確な目的を持って話しかければ、必要な答えを返してくれるとも言える。
『ピピー』
ミュンの顔を、吸水性の良い葉っぱで作ったタオルで拭いていると、手足の生えたカメラ……ズーガーが戻ってきた。
「ズーガー!」
まだ、顔からお湯を垂らしたままで、パタパタとロボットに駆け寄ってしまうミュン。
「ああこらー! 途中で逃げない!」
ズーガーを抱き上げたミュンに追いつき、顔をごしごし拭いた。
「ムムームー」
拭かれながら何か言ってる。
「で、どうだったズーガー? 何か服になりそうなものあったか?」
ズーガーには、俺のハンカチを持たせていた。
これの質感を参考にして、ズーガーがそれっぽい繊維を含んだ植物を探しに行っていたのだ。
『ピピ、アッタ、アッタ』
「あったか! じゃあ、朝飯の後で連れて行ってくれ!」
『ピピー』
よしよし、これで、ミュンに新しい服や下着を作ってやれるぞ。
女の子たるもの、可愛い格好をさせてあげなくちゃな。
俺たちは、でっかいキノコをPCをホットプレート代わりにして焼き、朝飯とした。
そろそろタンパク質が恋しい。
豆も探そう。
「こっちか?」
『コッチ、コッチ』
食後の散歩がてら、繊維を探しに行く。
一昨日、昨日と歯ブラシにした枝は、繊維が少々硬い。あれじゃあ、服にはならないだろう。
あ、いや。
服じゃないなら、靴に加工したり出来ないかな?
そんな事を考えつつ、浜辺をぐるりと歩く。
ちょうど、島の反対側にやってきた。
ここまでで、ミュンの足で一時間くらい。
俺がそれなりのペースで歩けば、島を一周して一時間半くらいかな。
つまりここは、直径ニkmちょいの島だということだ。
『コッチ!』
ズーガーが、ぴょいん、ぴょいん、と跳ねる。
「おお、分かった分かった」
「チャ! ズーガー、ピョン!」
「ああ、ズーガーがぴょんぴょんしてるなあ」
一緒にロボットの元へと向かう。
そこは、俺たちがいた側が森だったのに対し、草原と言っていい場所だった。
生えている草は、真っ白な花を咲かせている。
近づいてみて驚いた。
花が、糸を吹いているじゃないか。
いや、これは綿花か?
詳しくはないが、昔に教科書や図鑑で見た、綿花によく似た植物に見えた。
「ズーガー、これか?」
『コッチ、コッチ』
ズーガーは、別の植物の生えている辺りで跳ねているではないか。
ミュンは喜んで、そっちに走って行ってしまった。
「ええ? これじゃないのか?」
『コレ』
ズーガーは、俺が手にしている綿花を指し示す。
そして、彼の足元にある別の植物も指し示すのだ。
つまり、何種類かあるということだろうか?
「アマチャ!」
ミュンが、その植物を拾い上げて、頭に載せた。
そして、俺に向かってアピールしてくる。
「あー、それって……椰子の実?」
半分に割れた、ヤシの実のように見える。
ミュンの頭に乗っているのは、割れた側で、殻の隙間から繊維質が見えていた。
「アマチャ、レー! ネ? ミュン、レー」
「うんうん。可愛い帽子だねえ」
くるくる回ってみせるミュンを褒める。
すると彼女は、嬉しそうにしてさらにくるくる回るのだ。
あっ、目が回ってふらふらになった。
ミュンがぽてっと尻もちをついたので、椰子の実はころりと転がり落ちた。
改めて、実を手にとって検分してみる。
中身を覆う繊維は、ちょっと緑がかった乳白色。
触れてみると、綿花よりはしっかりしているものの、弾力があってなかなか。
これも、服に出来るかもしれない。
見れば、こんな殻があちこちに落ちている。
きっと、椰子に成っていたであろうものが、どうしてこんなに真っ二つになって散らばっているのか。
この島には動物はいないはずだが、まるで何か鋭いもので切り裂かれたような……。
「チャー!」
考え込む俺の背中に、ミュンが飛び掛かってきた。
「うおー!?」
子どもとは言え、勢いが乗った伸し掛かりはなかなかの威力!
俺はすてーんと転げてしまう。
ミュンが俺に馬乗りになる。
「レー!」
ミュンはまた別の椰子の実を持っていて、それを頭に被っている。
今度は、大きさが違うな。
あ、いや。
実が、真横にすっぱりと断ち切られている。
なんだ、この切り口は。
俺は、薄ら寒いものを感じた。
刃物か何か……。
例えば、ハサミとか。
「……ヤシガニか!」
この島で唯一見つけた動物、ヤシガニ。
俺は彼の上に座ってしまって、大変に威嚇されたのだ。
ここは、恐らく彼のテリトリーでもあるということだろう。
『ヤヤヤ、ヤシガニ』
ズーガーがぶるぶる震えだした。
セントローンと言い、この島のロボットはヤシガニが苦手なのか。
ともあれ、服の材料は見つかった。
これらを回収し、また家に戻ることにしたのである。