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無人島生活二日目 風呂、飯、明日の予定

「家だ!!」


「イエダ!」


『イエダ』


 俺とミュンとズーガーはログハウスに乗り込み、バンザイした。

 天井がある!

 壁がある!

 床がある!

 ……トイレは作り忘れた。

 だが、これでちょっと人間らしい寝起きができるようになる。

 ミュンのような小さい子を野宿させるのは、心が痛むからな。

 それに、俺も野宿すると、こう、体の節々が……。


「よし、そうなったら、風呂に行こう。飯はその後だ」


 俺が手を広げると、ミュンがだだだだだっと走ってきた。


「ダッコ!」


「おう!」


 飛びついてきたミュンを受け止め、肩に飛び乗ってくるズーガーを待って出発することにする。

 俺はコントローラーを掲げると、その辺りの木にオーダーを下した。


「桶!」


 すると、木の幹から、ちょうどいい大きさの湯桶が出来上がる。

 それを持って温泉に向かうのだ。


「服を脱ぐ!」


「ヌグ!」


「よし、ミュン、競走だぞ!」


「チャー!」


 どっちが早く服を脱げるかの勝負である。

 相手はワンピースの幼女、腰巻きに葉っぱ!

 こちらはワイシャツとスラックスの下に葉っぱ。

 勝負は歴然だった。


「ミャー!」


 すぽーんと服を脱ぎ捨てたミュン。

 ザブーンっと温泉へ一番乗りである。


「くっ、ボタンやベルトがあると勝てないな! 次こそは勝つ……」


 ふと、ミュンが脱ぎ捨てたワンピースが目についた。

 随分くたびれた生地だ。

 元々古着なのかもしれないが、それがここ二日間の冒険やら何やらで、くたびれてしまっている。

 これは、新しい服を用意してやりたいなあ。

 女の子だもんなあ。

 でも、服なんてどうしたらいいんだろうか。


「アーマーチャー!」


 ちゃぷちゃぷとミュンがやってきて、俺の足をぐいぐい引っ張った。


「おお、ごめんごめん、今いくぞ!」


 俺は湯桶でお湯を掬うと、体に掛けた。

 うん、やはり体を流してからの方が落ち着くな。

 桶を湯に浮かべると、その上にひょいっとズーガーが乗ってきた。

 これはお前の船代わりじゃないんだけどなあ。


「キャー! ズーガー、マーマー!」


 おや、ミュンには大受けである。


「よーしミュン、ひっくり返すなよー」


 俺は胸のあたりまで浸かりながら、湯桶をミュン目掛けて押し出した。

 温泉は、立ち上がったミュンのお腹の辺りまである。

 彼女はざぶざぶとお湯をかき分けつつ、湯桶をキャッチした。


「キャー!」


『ピガー!?』


 湯桶をくるくる回すミュン。

 ズーガーはジタバタし始めた。

 だが、周囲は温泉。

 ロボットに逃げ場なし。

 さて、俺はミュンが危ないことをしないように見張りつつ、夕飯について考えねば。

 今日もまた、植物だけのヘルシーごはんであろう。

 そうだ、明日は魚も獲ってみたいな。

 それから、ミュンの服を考えて……。

 家の中にベッドも欲しい。

 やることは山積みだぞ。


「アーマチャー!」


「ほーい」


 ミュンがこっちに、湯桶を押してくる。


『ピー!』


 おお、ズーガーが助けを求めている。

 湯桶に乗らなければ良かったのになあ。


「チャー……へくちっ」


「あー。ずっとお風呂からお腹出してるから、冷えたな」


 俺はミュンに、おいでおいでする。

 彼女はちゃぷちゃぷとやって来て、俺の膝の間に座った。


「ムフー」


 肩まで浸かって、鼻息を荒くする。


「そうそう。お風呂はちゃんとあったまらないとな。南国とは言えど、お腹を冷やしたら風邪引くからな」


「チャ!」


「よーし、百数えたら上がろう!」


「?」


「百」


「ヒャク?」


 よし、いい機会だから、ここで数の数え方を教えてみるか。


「いち、にい、さん、し……」


「イチニー、サン、チ!」


 実際に、木を指差しながら、本数を数えるようにして数字を口にする。

 ミュンは、俺の言葉を、舌足らずな口調で真似ていく。


「九十八、九十九……」


「ヒャク!」


 ぴょーんと跳ねるように立ち上がるミュン。

 すっかり温まって、小麦色の肌にも赤みが差している。

 

「よし、じゃあご飯にしようか!」


「マー!」


 さて、本日のご飯。

 素材は昨日と代わり映えのない、バナナモドキやキノコではある。

 だが、今回は昨日掘り出した油田から石油を汲んできて、火を付ける。周囲には枝を汲んだ台座。上にノートPCを置く。

 熱でじりじりとPCのメタリックボディが熱くなったところで、バナナモドキやキノコを乗せて焼くのだ。

 全く、電気のない無人島で、ノートPCがここまで役立つとは思ってもいなかった。

 これを、小枝の皮をズーガーのアームで削り落としたものを使い、串のようにして食べるのだ。


「ああ、そっか。味付けするものも見つけないといけないんだ。これは……どれを優先するかだよなあ……」


「マムー」


「あっ、ミュン、キノコの汁がこぼれてる! あー、服についちゃったよ。こりゃ、また洗濯しないとなあ……」


 ……よし。

 ミュンの服を作ってやろう!

 それが最優先だ。

 小さい子は、どんどん着るものだって汚すもんな。

 あああ、そうだ、家の周りにトイレも作らなきゃ……!

 ぐぬぬぬぬ。


 難しい顔をして唸り始める俺である。

 すると、目の前に串に刺さったバナナモドキが差し出された。

 ミュンだ。


「アマチャ! アーン」


「え、食べさせてくれるの?」


「アーン!」


「あーん」


「マウ!」


 俺の口に、熱々のバナナモドキが突っ込まれた。

 熱い。

 とても熱い。

 だが、美味かった。


「チャ!」


 ミュンが笑う。

 そうだな。悩んでいても始まらない。

 目の前にあることを、一つ一つやっていこうじゃないか。


 無人島の空いっぱい、広がる星空のもとで、俺は決意を新たにするのである。

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