無人島生活二日目 誕生、天然ログハウス
ミュンが、えっちらおっちら階段を登る。
一段一段がそれなりの大きさだから、ミュンの背丈だと一仕事だな。
後ろからハラハラしながら見守る俺である。
「ミュン、なんなら俺が抱っこして……」
「ヤー! ダッコ、ヤー!」
抱っこというものを理解したようだ。
それを抱っこいらない、という発言で確認するのがなんとも複雑な気分だ。
だが、この幼女としては自力で遺跡から登って行く階段を踏破したいらしい。
俺の背後を、ズーガーがてくてくとついてくる。
『ピピー、ミュン、カイダン』
先ほど、セントローンによって応急修理されたこのロボット。
彼もまた、ミュンのことが心配なようだ。
カメラみたいなボディに、四本の棒みたいな足が取り付けられていて、それを器用に使いながら階段を登って来る。
「ズーガー、可能な限り俺がフォローするので、俺が間に合わなかったら頼むぞ」
『ズーガー、フォロー!』
頼もしい。
「ミュッ、ミュッ」
それなりに続く階段を、もりもりとクリアしていくミュン。
あと三段。
あと二段。
あと一段……。
「チャー!」
登りきったミュンが、勝利の雄叫びをあげた。
「うおー!!」
『ピガー!』
俺とズーガーも興奮して飛び出してくる。
とりあえず、ミュンを抱え上げて高い高いしながらぐるぐる回った。
「キャー! キャハハハ!」
「一人で階段を登りきった! えらいぞ!」
『エライ、ミュン、エライ』
俺とロボットで二人でミュンを甘やかすわけである。
ひとしきりぐるぐる回ったところで、腕がだるくなってきたので終了することにした。
「アマチャー、マノー」
「え、もっとぐるぐるして欲しい? いや、もう腕が上がらないんだ……」
「ブー」
あっ、膨れた。
いかん。俺も筋トレをしていかねばならないようだ。
しばらくそこで一休み。
その後、機嫌が直ったミュンを連れ、ズーガーを先導として森の奥へ向かう。
毒キノコや毒草は生えているが、危険な動物がヤシガニしか存在しないのだから、森の奥へ向かうのもそう恐ろしくはない。
何より、俺にはセントローンから受け取った、この銀の棒がある。
棒の半ばには幾何学的な切れ込みが幾つも入っており、こいつを上下に引っ張ると、切れ込みが展開して発光する部分が出てくるのだ。
「この光る部分がタッチパネルになってるんだったよな?」
『ピー』
ズーガーが全身を屈伸させて頷く。
「じゃあ、こいつで早速、家を作ろう!」
ちょうどいいスペースに到着した俺は、銀の棒を振りかざした。仮に、こいつをコントローラーと名付けよう。
「まずは支柱!」
タッチパネルに触れながらオーダーを告げる。
すると、コントローラーは『ブイブイブイ』と音を立て、周囲の木々がざわめいた。
一本の大きな木が、まるで動物のように動き出す。
それは根を引っこ抜くと、こっちに向かってのっしのしと歩いてくるではないか。
「ピャー!」
ミュンがびっくりして俺の後ろに隠れた。
あっ、股の間から顔を出して辺りを伺うのはやめなさい。
俺は、脚を閉じるに閉じられなくなり、がに股のまま次のオーダーを告げる。
「次は、屋根!」
大木は、俺たちの少し先に根を張り、どーんと鎮座した。
その枝葉が変形して、ちょうど屋根のような形を作る。
「床、行ってみよう!」
低めの木々が足を引っこ抜き、集まってくる。
まるでその光景は魔法だ。
だが、多分この木々も、普通の植物ではないんだろう。
たちまちのうちに、床が出来上がった。
最後は、中位の高さの木が寄り集まり、壁を作り上げる。
掛かった時間は、一時間弱か。
風変わりなログハウスの完成だ。
周りを覆っていた木で家を作ったから、すっかり見晴らしがよくなっている。
「ミュン、これが俺とミュンの家だぞ!」
「イエ?」
「そう、家。おうち!」
「オウチ!」
ミュンがぴょんと飛び上がった。
飛び上がろうとして俺の股間にぶつかったので、俺は「オウフ」と言いながら前に倒れることとなった。
いきなり俺が倒れて痙攣しだしたので、ミュンはまたびっくりしたようだ。
「ピャー!?」
とか凄い悲鳴をあげて、しばらく俺の周りをオロオロする足音がする。
俺は俺でそれどころではない。
脂汗をかきながら、生死の境目をさまよう心持ちである。
もう、これは生まれてきたことを後悔する痛みだ。
が、頑張れ、頑張れ俺!
必死に自分を励まし、ようやく痛みが引いてきた。
「ふう、死ぬかとおも」
「アマチャー!!」
言いかけたところで、ミュンが頭からドーンッと飛び込んできた。
幼女とは言え、全体重をかけたタックルはなかなかの威力だ。
さては追い討ちに来たか! と思ったが、そうではなかった。
ミュンが、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、何かむにゃむにゃ言っているのだ。
「チャ、アマチャ、ミュ、マママ……ア────!」
泣いた!
おろおろする俺。
とりあえず、頭をなでなでしながらそのままにしてやるのだった。
子どものあやしかたなんか、分からないぞ。
助けを求めるようにズーガーを見たら、このロボット、スッと体を傾けて、肩をすくめる動作をした。
人の心が分からんロボットめ。
いや、ある意味で感情表現が豊かなんだけれど。
とりあえずこれは……。
「いきなり俺が倒れて、心配してくれたのか」
涙を拭いてやると、ミュンはずびーっと鼻をすすった。
「うんうん、今回は割りとミュンが原因のような気がするけど、俺が倒れちゃったらミュンは一人だもんな……。よし、俺も体に気をつける。倒れないようにするぞ」
「チャ!」
ミュンが頷いた。
おお……。なんだか、こう、胸のうちがほんわか、温かくなってくるではないか。
誰かに必要とされているってのは、こう、いいものだなあ。
『ピガー?』
せっかく俺たちがほっこりしているところに、ズーガーが「家には入らないので?」みたいな仕草で茶々を入れてくる。
俺はとりあえず、ロボットにチョップを入れておいた。
『ガピー!』